第8話 愛憎愛
7月16日
〜白虎寮付近 廊下〜
秋夜は白虎寮に向かっていた。今日ここに来た目的は1つ。組長に会うため……あ〜……3ヶ月の寮の拘束からようやく解き放たれた……久々に組長に会えるぞ〜
秋夜が廊下の突き当たりを曲がると、寮に向かって歩いている和泉と白を発見する。久々に見た組長の姿に、秋夜はつい、足が早くなって、つい、拳を握って、和泉に飛びかかる。
「くっみっ」
「…俺がやる」
「ちょー!」
和泉は左手で白を下がらせ、秋夜の拳を受け止める。
「……お早う、十六夜」
「おはようです、くみちょー!」
秋夜はそう言いながら白衣に手を突っ込み、クナイのような刃物を複数取り出す。勿論、猛毒付きだ。
「今日こそ愛ってなにか教えてくれるよね?」
和泉は何も言わずに秋夜を見る。秋夜はいつも通りの反応だなぁとか思いながら、クナイを振りかぶって……
「ねぇくみちょー、愛って一体なんなの?」
思いっきりクナイを投げる。和泉はそのクナイを右手で真剣白刃取りのように掴むと、
「知るか」
と言いながら、背後に視線を向けた。秋夜はクナイを投げると同時に、白衣からナイフを取りだし背後に回り込んでいたが、和泉がそれに気づいたことを悟ると
「やっぱりくみちょー強いなぁ……こわいこわい」
と笑いながら、後ろに下がった。和泉はクナイを投げると同時に、秋夜の前から姿を消す。
「えっ?」
秋夜は一瞬困惑したが、飛んでくるクナイを間一髪で躱す。頬にピリッとした痛みが走り、血が垂れた。
「ほ、本気……怖すぎでしょ…」
秋夜が呟くとほぼ同時に、高速で移動した和泉が秋夜の首を掴んで壁に叩きつける。
「遅い」
頭割れたな……死ぬなこれ…でも、いい!!興奮する!!愛されてる気がする!!!それに、くみちょーとめっちゃ近い!!話さなきゃ!質問しなきゃ!!
秋夜は僅かに残った力で言葉を紡ぎ、和泉に投げかける。
「ほんとうのあいってなに?くみちょーは教祖様だったんでしょ?愛されてたんだよね?」
和泉はその質問に少し目を伏せるが、秋夜はそれには気付かずに続ける。
「ねぇ、組長」
「騒がしいぞ」
和泉のその言葉と共に、秋夜は腹を貫かれたかのように、腹部から一瞬血を吹き出し、昏倒した。和泉はその姿を見て、ゆっくりと手を離す。
「……皓蛇」
「はい」
「やったのは、お前だな」
「はい」
首筋に軽く触れると微かに脈がある。死んではないようだ……
「皓蛇」
「はい」
「先に戻っておけ」
「分かりました」
和泉は白が廊下を曲がるのを見届けると、秋夜に目を向ける。秋夜は面倒くさそうに身体を起こす。
「やっぱり生きてたな」
「そりゃそうだよー、だって今日は16日だしーほら、もう頭の傷も治ったし、それに血もこうやって……」
秋夜が言うと、壁や地面に飛んだ血が意志を持っているかの様に動き出し、腹の傷から身体の中に戻って行った。それと同時に腹の傷も完全に治癒される。
「相変わらず、能力は凄まじいな」
「まぁねー……てか!くみちょー強すぎなんだよ!!久々だから能力使わずに愛ろうと思ったのに……」
なるほど、通りでいつもより手数は少ないし、移動もしない訳だ。面倒くさい事には変わりないが。
「あーもー!!負けちゃったよ!それに1回死んだし、くみちょーは死なないし割に合わない!!」
「当たり前だ。普通、人は何度も死ねない」
「……確かに?」
秋夜はそう言うと立ち上がる。もう傷も何もかも元通りになっている。
「じゃーねくみちょー。またそのうち愛しに来るねー!」
「来なくていいぞ」
「相変わらず冷たい!けどそこもいい!!」
秋夜は和泉の相変わらずの態度に笑いながら思う。
…今日は惜しかった。ようやく組長に殺されそうだったのに……邪魔した皓蛇とか言うやつは許さない……今度お礼参りしに行こ。
秋夜は和泉に背を向けて、自分の寮に向かって帰って行った。