久しぶり
懐かしい顔を見かけた。
駅の改札で、乗客に道を
尋ねられていた。
町の方を指差して話していた。
ずっと、駅で働いている。
彼は、いつも無難だった。
音楽や詩の才能もありながら、
仕事は仕事でよく働いた。
羨ましい生き方だと、
学生の頃から思っていた。
自分にはできないことを、
彼はできていた。
「やあ、久しぶり」
それだけ言って、
笑いかければ良かったが、
人の流れに身を置いた。
気づかないふりで。
瞬間、瞬間、臆病になる。
そして、今日が生まれてきた。
瞬間、瞬間、前を向けば、
嬉しい明日も、生まれてくる。
「やあ、久しぶり」
今度は、言ってみようか。
あれこれ、考えることでもない。
もっと、簡単でいいんだよ。
もっと、簡単な声で、言葉で。