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恋物語の幕切れ、恋懺悔の幕開け

 ここまでが俺とリリスの儚い恋物語だ。俺がこの世界に残しておきたかった大切な記憶。

 そして、ここからは俺の懺悔だ。リリスが殺された怒りに飲み込まれて、我を失い犯してしまった過ち。


 リリスが20歳まであと僅かだという頃、突然、銃声が鳴り響いた。

 最初の1発目が鳴り響くと、続けて2発目、3発目と撃ち合いが始まったんだ。

 今まで何もなかったから忘れていた。自分が何をするためにリリスの傍にいたのかを。

 だが、平和ボケして戦い方、ボディーガードの心得を忘れていたわけじゃなかった。

 まずやるべきことは状況の確認だ。それで、窓の外を覗いたら驚いたよ。

 窓の外には、車が沢山止まっていたんだ。それはただの車じゃなくて、パトカーだった。

 そう、ボスがやっていた悪いことがばれちまったんだよ。どういう経路でバレたのかはわからないが、有名な組織だったから警察も野放しにできなかったんだろう。

 リリスにも何が起こっているのかわかってしまったようで、彼女の瞳から涙がぽろぽろ零れていた。

 でもリリスは泣き叫ばなかった。声を殺して静かに、震えながら俺にしがみついてきたんだ。


「大丈夫だ、リリス。俺が守るから」


 とはいったものの、状況は絶望的だった。

 廊下の銃声は鳴り止まない。拾える音から、部屋の近くで銃撃戦が繰り広げられていることが十分にわかった。

 リリスを抱えて窓から飛び降りて逃げようとしたが、外でも数多くの警察が銃を構えていた。

 下手に動くよりはここでじっとしていた方がいいと思った俺は、リリスを自分の背に匿って、扉が開かないことを祈った。

 だが、扉は虚しくも開いてしまったんだ。3人の銃を構えた警察がごそって入ってきた。

 俺とリリスを見ると一瞬驚いたが、すぐに安心しきった顔になった。

 それはそうだ。ボディーガードロボットである俺は護衛範囲であるならば人間を傷つけることができるが、殺す事まではできない。

 そして、その人間が警察である場合は無条件で何もすることができない。彼らはそれを知っていたんだ。

 知っていたのにも関わらず、彼らは銃を下ろさなかった。


「お前が後ろに匿っている子をこちらによこすんだ」

「この子は何もしていない。銃を下ろせ」

「そいつはここのボスの娘だろ?取り調べる必要がある」

「取調べに銃は必要ないはずだ。下ろせ」


 二人の警察は俺を睨みつけながら、銃を下ろした。

 しかし、会話をしていた中央の警察は、俺の頭に弾を撃ち込んできたんだ。

 この距離から撃たれてもバイザーに亀裂が入るぐらいで壊れはなしないが、リリスは泣き叫んでいたよ。お願い、止めてって。

 警察はリリスの悲鳴を面白がって、笑いながら俺に撃ち込んできた。何度も、何度も。

 銃弾が切れると、リリスは俺を庇う様に前に出たんだ。


「付いていきますから、お願いです。ガルディを撃たないでください」


 だけど、彼女の願いは警察にも、神様にも届かなかった。

 中央にいた警察が、左隣にいた奴から銃を奪い取ったんだ。

 その銃口は俺にではなくリリスに向かれた。その一連の動作に迷いはなかった。

 リリスは撃たれてしまったんだ。耳が劈くような銃声と同時に、糸がぷつりと切れてしまった人形みたいに倒れ込んだ。

 俺は撃たれた胸を押さえた。しかし、溢れ出す血は止まらなかった。唇もどんどん色褪せていって、俺は怖くなった。

 無我夢中でリリスの名を叫んだよ。頼む、死なないでくれって。

 彼女はそれに応えるように手を宙に彷徨わせて、俺の頬を包み込んで、小さく息を吐くように呟いたんだ。


「今までありがとう。愛していたわ」


 そう言って、最後に穏やかな微笑をたたえると、手がするりと抜け落ちた。

 呆気なかった。俺はぐったりとしたリリスを抱きしめたよ。強く、強く。

 そして叫んだ。俺も愛してる。好きだって。ずっと言えなくて悪かったって。

 でも、虚しい事にリリスには聞こえていなかった。彼女はもう死んでいたんだ。

 このとき、初めて自分に涙を流す機能がついてるって知ったよ。冷却水がオーバーフローして、涙が止まらなかった。


「悪く思わないでくれよ。害虫は卵まで処理しないと、意味がないんだ」


 それを聞いた瞬間、収拾がつかない怒りが電流となって全身に駆け巡った。

 気がつくと、俺は、銃口を警察に向けていた。そして、引き金を引いていた。この男がやったように何度も何度も。

 残り二人の逃げ出そうとした警察も、躊躇わずに撃ち殺した。さっきの怒りで、安全回路が壊れて人間を殺せるようになっていたんだ。

 全ての人間を撃ち終わると、俺はリリスの頬に触れた。あんなに暖かかったのに、冷たくなってしまって。胸の血も純粋な赤から歪んだ黒へと変わり果てていた。


「リリスは、優しいから、こいつらのことも許すだろうな」


 悪事を働く父親の罪を軽くする為に、良い子でいた健気なリリス。

 20歳になるまでずっと孤独に耐え、外の世界に憧れていたのに。

 外の世界へと羽ばたく前に、危険だからと身勝手な人間に殺された可愛そうなリリス。

 誰よりも平和を願っていたのに。それなのに……


「リリスが許したとしても、俺が許さない。絶対に」


 頬から手を話した瞬間、悲しみは怒りに変わった。

 リリスが味わった絶望と恐怖を自分勝手で愚かな人間に返してやろうと誓ったんだ。

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