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セカンドキスは愛を込めて

 16歳になったリリスは、少女から女性へと大人の階段を少しずつ登り始めていた。

 しなやかな体つきに上品な顔立ち。どんどん死んだ母親に近づいていたんだ。

 だが、金属でできた足と足の間にちょこんと座って微睡むリリスは、まだまだ少女を捨て切れていなかった。

 ごつごつとしてきっと居心地悪いだろうに。それでもリリスは俺の腹にその小さな頭を寄せて幸せそうに目を瞑っていたんだ。

 そんなリリスを見ながら俺は考えていた。もちろん、人間とロボットの恋について。


 当時は人間とロボットの恋は異端だったんだ。

 俺は周りが見えないほど必死になってたから、今の時代はどうだかわからない。これについては後で話す。

 調べてわかったことだが、ロボットを愛する人間は異常者扱いされ、人間を愛するロボットは作り物にすぎないと認知すら憚れていたんだ。

 ほら、当時は知能が未熟なAIの方が大半を締めていたじゃないか。だから、ロボットに感情を持っていると認めることができない人間もそこそこいたんだ。

 人間に似せて作られたんだから、愛し愛されても別に可笑しい事ではないと思う。

 それに、人間とロボットの恋を題材にしたラブストーリーの作品が昔から少なからず存在していて、その中には絶大な評価もされていた物もあったしな。

 だが、フィクションはあくまでフィクション。空想だからこそ素晴らしいと評価されていたんだ。

 フィクションを現実に持ち込むことは人間にとってタブーなんだ。現実と空想の区別がついてないってな。宗教や神は信じるのに、変な話だ。当時も今も変わらずにそう思うよ。

 人間からみた俺らは、例え自分たちと同じように考えて、同じように喋れたとしても、ペットと同じ認識の奴が圧倒的に多かったから異端に見えたんだ。

 人間は飼っているペットを愛していたとしても、それは恋愛感情の愛ではないらしいじゃないか。

 もしそういう奴がいたら異端者。けれど、ペットを飼っている奴の多くは愛していると言う。

 同じ"愛"と呼ばれているものでも全く違う。本当に、人間ってのは複雑だ。

 そんなことを考えていると、リリスは目を覚ました。


「痛いだろ?」

「ちょっとだけ。でもここが好きなの」


 素朴な疑問に自分の気持ちを添えて返答するリリスにどぎまぎとする自分がいた。

 好きだという言葉に不本意ながらも反応してしまって、フリーズしそうなくらいわなわなと震える手をどうにかこうにか抑えて平然を装った。

 コアは悲鳴をあげるほど苦しいが、不思議と嫌な感覚ではなかった。

 あのキス以来から味わうこの気持ちは何だと、自分に問いかけてみたんだ。

 俺は……ロボットの俺は、人間の少女、リリスのことを……


「ここ、邪魔かな?」


 俺の異変に気付いたのか、遠慮がちに問いかけてきたが、嫌な気がするわけがなかった。

 動揺した俺は、なんて答えればいいのかわからず、どう答えれば彼女が喜ぶか考えるので精一杯だった。


「やっぱり邪魔だったのね。ごめんなさい」


 俺の沈黙を否定と受け取った彼女は申し訳なさそうに立ち上がろうと腰を浮かした。

 まだここにいてくれ。そう言葉にするよりも、立ち上がってくるりと身を振りかえす彼女の腰を掴む手の方が速く伸びたんだ。


「きゃっ」


 向かい合うように無理矢理座らされたリリスは驚いて俺を見上げながら目をぱちくりさせた。

 俺もしばらくどうしていいのか分からず、バイザー越しに見つめあっているとリリスは身じろいで目を瞑り、顔を僅かに近寄せてきたんだ。

 以前、リリスが恋人同士はこういうことするのよ、と彼女の柔らかい湿った唇を当ててきた事を思い出した。

 そういうことは恋人にしろと叱ってみせたが、無邪気な少女の小さな悪戯に、俺の心臓となる部分は高鳴って危うくオーバーヒートしてしまうところだった。

 そして、この突き出された唇もまた少女の悪戯なのか、それとも……。

 いやいや、異種との間で恋愛感情などというものが芽生えてしまってもいいのだろうか。

 ましてや俺はロボットで、そんな複雑な感情は容易に湧かないわけで。

 リリスは俺のことが好きなのだろうか?彼女は時々好きだと言ってくれる。しかしそれは、恋人に向る感情なのか。ペットに向ける感情なのか。

 逆に、俺はどうだろうか?俺は、俺はリリスが……。


 リリスの縁取った輪郭にそっと触れ、フェイスガードを外して己の唇を少女のおでこにこつんと押し付けてみた。

 唇を離すと目をめいいっぱい開いているリリスがいた。ゆっくりと穏やかに瞳を細めて、時を忘れて見惚れてしまうほど綺麗な笑みに形を変えていく。


「私、ガルディの事が好きみたい。これって恋かしら?うん、きっとそうね。これは恋だわ」


 雪のように純白な頬を薔薇色に染めながらはにかむリリス。

 俺は異種の間に恋愛感情が芽生えさせてもいいのか悩んでいたが、彼女は然程重要視しておらず、それを呆気なく飛び越えて見せたんだ。

 俺はこの時、初めて認めた。自分は人間のリリスが好きだと。愛していると。

 満足そうに小鼻を膨らませる可愛らしい動作がとても愛おしい。

 あぁ、俺はリリスが好きなのだ。愛している。

 俺もリリスが好きだと、この気持ちは恋だと伝えたかった。

 しかし、それを望んではいけない気がして、溢れ出しそうな気持ちに栓をするようにフェイスガードを元に戻した。

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