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ゲーマーも歩けば棒に当たる

 西暦2230年、世は大ネットゲーム時代であった。

 MMO、TPS、MOVA……。

 様々な種類のネットゲームが存在し、その人気はスポーツと並び中にはE-スポーツと呼ばれ、スポーツと遜色ない扱いを受けるものまで存在している。

 西暦2010年代の時と変わっていないじゃないかって?

 ああ、変わっていないとも。

 何故なら、人類は一度絶滅の淵まで追いやられたのだから。

 変わっていないのではない――追いついたのだ。


 ★☆★


 さて、突然だが皆さんは目の前に手りゅう弾が転がってきたらどうする?

 逃げる?慌てる?隠れる?

 全部ナンセンスだ。

 俺なら、ノータイムで蹴り飛ばすね。

 ネトゲの中ではそれで万事解決。

 現実でもそうに違いない。

 じゃあ、突然ナイフを持った人間に襲われたら?

 その答えだってネトゲやれば簡単にわかってしまう。

 まあ、そんな問答に意味なんて無い。

 だって、俺はPCの画面の前から離れるなんて、ましてや自分の部屋から出ることなんて滅多にないのだから。

 そう、滅多にない。


「やっぱ部屋から出るもんじゃねえわ」


 今やってるMMOとコンビニのコラボ商品についてくる限定装備欲しさに数か月ぶりに深夜に部屋から出てみたはいいのだが……。

 目の前のコンビニは何者かによって爆撃され、見るも無残な姿に。

 そして、その爆心地の中心には一人の少女が横たわっていた。


「俺が数か月現実(リアル)からログアウトしている間にこの国はこんな無法地帯になってしまったのか?」


 まあ、そんな訳ないことは知っている。

 ネットニュースは毎日欠かさずチェックしているから。


「さて、別のコンビニ探すか」


 よくあるファンタジーとかならヒロインを助けて俺たちの戦いはまだまだこれから……みたいな展開になるのだろうが、あいにくそんな物に興味は無い。

 てか、ラノベ的展開は俺の範囲外だ。


「せめて、ネトゲ的展開ならなー……」


 そう呟きながら、俺はその惨状を見なかったことにした。


「……けて……」


 後ろから今にも枯れてしまいそうなか細い声が聞こえる。

 幻聴に違いない。


「……たすけて」


 幻聴だよな。

 その割にさっきよりも声が近づいてきてるような。


「……礼なら後でいくらでもするから」


 目の前に、先ほど倒れていたであろう少女が立っていた。

 雪のように白い髪が所々赤く染まっている。

 よく見ると、あちこちに血のような跡が見える。

 いやいや、さっきまで俺の後ろにいたよね!?

 一体どうやって動いたんだ。

 よく見ると、彼女の胸元にあるペンダントがかすかに光を帯びている。

 何か関係あるのか?


「あー、もう。どうしろっていうんだよ!?」


 しかし、その答えを俺は終ぞ聞くことは無かった。

 ペンダントの光が消えうせると共に、少女は意識を失いその場に倒れこむ。

 こんなことならラノベも読んでおけばよかったぜ。

 後悔先に立たず、とはまさにこのことだろう。

 ――読んだところで何が変わるのかは知らないが。


「とりあえず運ぶか」


 戦闘音やその痕跡で自分の位置がバレてしまうので、その場にとどまる意味は無い。

 なんとなくFPSっぽくなってきて少し乗り気になっている自分がそこにいた。

 が、現実とは無情なもので、画面の向こう側では鋼の肉体を持った屈強な兵士であろうとも、現実で引きこもりなゲーマーに女の子を抱えて動く筋肉などない。


「……引きずるか」


 服とかめっちゃ汚れるだろうけど、仕方ない。

 後で謝ろう。

 ズルズルと少女を引きずる事約5分。

 なんとか安全そうな場所までたどり着くことが出来た。


「ちょっと君、いいかい?」


 お巡りさんか?

 丁度良かった、この人にこの子を保護してもらおう。

 あれ、でも何か忘れているような……。

 謎の爆撃、血まみれの少女、そしてそれを引きずりながら歩く俺。

 ……詰んでね?

 恐る恐る、振り返ってみる。

 だが、そこにいたのは警察なんてものではなかった。

 灰色の騎士のような者がそこには立っていた。

 騎士というと中世風の甲冑を想像するかもしれないが、それよりも未来的で機械的な。


「君の後ろの女の子を渡してもらおうか。そして、君は今日の事を忘れるといい。そうすれば君を傷つけないでおいてあげよう」


 渡していいのか?

 ラノベもファンタジーも分からない俺だがこれだけはわかる。

 きっとこのまま逃げちゃいけないんだ。

 逃げたとしても見逃してもらえるはずがない。


「庇うというのかい?その震えた足で?」


「け、警察を呼ぶぞっ……」


 俺にできる最大限の威嚇だ。


「そうか、残念だ」


 騎士はそう言って俺に銃を突きつける。

 さっきから非現実的な事が続いているからだろうか、自分の死を目前としているのに頭は冷静だった。

 あの銃、どっかのFPSで見た FN F2000 に似てるなーとか、そんなことを考えていた。

 最期までネトゲまみれで終われるのなら本望だ。

 そして、引き金がひかれる。

 ……?

 目を閉じ、その自分の最期を待つが中々その瞬間は訪れない。

 少しずつ目を開けてみると、俺の眼前には薄青のシールドのようなものが展開されていた。

 一体どこから?

 ちらりと振り返ると、シールドと同じ色に光り輝くものが一つ。

 少女が身に着けているペンダントが先程とは比べ物にならないほどまばゆく光り輝いていた。


『状況のインストール完了。冬月零(ふゆつきれい)をマスターとして認証。現状打破の為、契約、システム起動を打診します。いかがしますか、マスター?』


「待って、マスターって俺の事?なんで俺の事知ってるの?」


「そうだ、少年。待つんだ。それと契約してもいいことなんてないぞ。むしろそのペンダントを渡してくれれば今なら黙って見逃す上にタオルと洗剤まで付けちゃうぞー?」


 どこの新聞勧誘だよ。

 まあ、ここまで来たらなるようになるか。


「契約するぞ、どうすればいい?」


『アイギスと、私の名を呼んでください。そして叫んでください起動(アクティベーション)と』


「アイギス、起動」


「くそっ……」


 目の前が光り輝き、何か服を着せられているような感覚に襲われる。

 が、何か変化があったようには思えない。

 あるとすれば、目の前のシールドが消えているくらいだ。

 ……消えてるってマズくね?

 直後、灰色の騎士が構える銃から弾丸が放たれる。


「痛っ……くない?」


「少年、意識はあるか?あるなら今すぐそれを脱ぎ捨てるんだ」


「脱ぐって何を?」


「いいから自分の姿をよく見るんだっ」


 黒、黒、黒。

 目に映るのは黒だった。

 目の前の騎士と同じような黒い甲冑が目に映った。


「これは一体……?」


『私の現在の装備では彼を退けるのは大変困難であると予想されます。彼女を連れて撤退することを進言します』


 頭に声が響く。

 これは一体何なんだ?


『マスター、ご選択を』


「撤退って言ったってどうすればいいんだ?俺の足は生まれたての小鹿よりも震えているぞ」


『思い描いてください。どう動きたいかを。今のあなたは、画面の向こう側の屈強な兵士よりも、数々のモンスターを倒すエルフよりも、数多のゲームの主人公よりも強く、自由です』


 思い描くだって?

 もうなるようになれ。

 俺は、まるでゲームの主人公のように、普段自分が操作するように、空を飛ぶイメージを、操作を思い浮かべた。

 彼女を抱えた次の瞬間、俺の体は宙を舞った。

 飛んだ――否、跳んだのだ。


「うおおおおおおおおおおっ、高い高い高い」


 深夜の住宅街の屋根の数々を飛び越え、俺は空を飛んでいた。

 そして、落ちていく。


「うわあ、落ちるっ!?」


『着地します、衝撃に備えてください』


 ズシンと、およそ人が着地したとは思えない鈍く低い音が鳴り響く。

 それよりも、彼女は?


『安心してください、気絶しているだけです』


「さて、ここはどこだ?」


 その言葉に反応するように、目の前に地図が表示される。

 町はずれの雑居ビルの屋上にいるようだ。

 先程の地点から距離にして約5000メートル。

 先程の跳躍も、表示されている地図もすべてこの甲冑のようなものの機能なのだろうか。


『南東の方角より、先ほどの追手が迫ってきます。いかがしますか?』


「なんとかして、迎撃できないのか?」


『不可能に厳しいかと思われます。現在、私に搭載されている装備はナイフとライフル。エネルギー残量的にライフルは1発が限界です』


「一発あれば十分だ」


『現在のライフルでは、相手の装甲の破壊は不可能です。けれども、頭部センサーはその限りではありません。頭部に命中させれば撃退程度ならば可能かと』


 簡単じゃないか。

 要するにヘッドショットをすればいいのだろう?


『敵の索敵範囲は3000メートル。3000メートル外からの狙撃でなければ防がれると思われます』


 つまり?


『迎撃は厳しいかと。撤退を進言します』


「迎え撃つぞ、アイギス」


『正気ですか、マスター?私のシステムアシストでは、2000メートルまでしか補助できませんよ』


「3000メートル先は見えないのか?」


『4000メートル先まで観測可能です。ライフルの有効射程は3500メートルです』


「なら行ける」


 自信はあった。

 何故なら俺は、ゲーマーだからだ。

 最も得意なゲームはFPS。

 得意武器はスナイパーライフル。

 実力は――。


『来ます、マスター』


 確かに、遠くの方で何かが動いているのがかすかに見える。

 それだけあれば十分だ。

 構えたライフルの引き金を引く。

 その刹那、赤い閃光が銃口から放たれる。


『構え……えっ!?撃ったのですか?』


「ああ、動いているのが見えたから撃ったぜ。当たってるか?」


『……敵性反応沈黙、お見事ですマスター』


 実力は――世界一だ。

 比喩などではなく、俺は世界一のスナイパー使い。

 ゲームの世界でなら狙撃の腕で俺に勝る人間など誰一人としていない。



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