まあいっか
目覚まし時計が鳴り響く。目を閉じたまま手探りでアラームを止めて、もうろうとしながら時刻を確認する。……六時半。平日ならこの時間に起きなければならないが、今日は土曜日だ。起きなくていい。「まぁいっか」と心の中でつぶやき、もう一度目を閉じた。
次に目が覚めたのは、九時半。あれから三時間も寝たんだ。重い体を少し無理に動かし、朝食をとるため台所へ。
シリアルの袋は空っぽ。冷蔵庫の中も、ほとんどカラ。ペットボトルとチョコレートしかない。「まあいっか」と心の中でつぶやき、ベランダの方に移動してカーテンを開けた。
服を着替えようと、部屋を見渡す。が、服がない。洗濯機を覗く。フタ開けっ放し。中には汚れた服。……しまった。洗濯し忘れた。でもまぁ、いっか。どこにも行かないし。今日一日ぐらい、パジャマで過ごしても問題ないだろう。
机の上を見る。……散らかっている。課題のノートを広げるスペースもない。まあいっか。今日は土曜日だし。まだ午前中だし。あとでやればいいや。
用を足したくなったので、トイレに行った。掃除をしていないので、汚い。でも、掃除しても、またすぐ汚れるし。まあいっか。
俺が本日五度目の「まあいっか」をつぶやいたとたん。……目の前に、恐ろしいほどに光り輝く何かがあらわれた。
……なんだろう、これ。トイレのドアぶつからなかっただろうか? 何かをぶつけた感覚もないし。変な音もなかったし。痛いとか言われなかったし。
……まあ、いっか。
心の中でつぶやいたら、なんと、その光の中から人間が姿を現した。ちょっと透けてる。光ってる。浮いてる……?
「幽霊ですか?」
考えるのも面倒なので、直球に聞く。
「神だ」
よくわからない答えが返ってきた。カミ、だと? さすがにトイレットペーパーはちゃんとある。紙なんていらん。何か知らんが、それはしっかり言っておこう。
「トイレットペーパーもティッシュもちゃんとあります。帰ってください」
……少しの間。
「……違う。私のことだ。神様だ」
頭おかしい奴だ。初めて見た。
「……お前に呪いをかけた」
意味わからん。何言ってんだよ。
「貴様の口癖である「まあいっか」を、今日から一週間のうちに言ったら死ぬ呪いだ」
何言っても通じなさそう。めんどくせぇ。話合わせて上手に丸めて警察呼ぼうか。
「マジすか? 俺、まあいっかっつったら死……あ、言っちまった」
しかし何も起こらない。
「ただ言葉を発すだけでは死なん」
「じゃあどうしたら死ぬんすか。意味わかんねぇっスよ」
「心の中と口に出た言葉が一致したときだ。まあいいやと思ってまあいっかというと死ぬのだ」
意味わからん。
「心の中でつぶやいても死ぬぞ」
本当に意味わからん。
「でも一週間なんスよね? 一週間思わなきゃいいんスよね?」
「そうだ。一週間だけだ」
ふーん。……じゃあ、まあいっか