6 入学式
15歳になりました。
学園へ続く道の両側に、桜が咲きほこる。
ちらちらと舞い落ちる桜吹雪の中を、入学式のある講堂へ急ぐ。
さすが日本のゲーム。 この世界でも桜がある。
学校で桜を見るのは、前世の娘の入学式以来だわと思う。
この世界でも、桜は美しい。
アンバー王立学園は、教養科、騎士科、魔法科に分かれている。
学ぶのは3年。
15歳から、17歳の生徒が学ぶ。
騎士科、魔法科に演習場が必要なためか、広大な敷地だ。
森もある。
ただいま、山頭火の句じゃないけど『分け入つても分け入つても青い山』状態である。
何が言いたいのかというと、広大な敷地で遭難中である。
むだに広すぎるのだ。
桜に見とれて上を見ながら歩いてたせいか、ここはどこ? 私はだれ? である。
まあ、私はエリカとわかっているが、講堂はどこ??
こんなことなら、強がらずカインと来ればよかった。
私が魔法科に入学が決まったあと、なぜかカインも騎士科に入学することになったのだ。
まねっこだ。
もともと、カインは騎士になりたいと言っていた。騎士と言えば、男の子憧れの職業だ。
適当にがんばれ、カイン!
今朝、女子寮の前でカインに、「お前の方向感覚は壊滅的だから、一緒に行こうか?」と、失礼なことを言われた。
が、「私の体内磁石は鳩並みだ。」と断わった。
私の強力な体内磁石は、桜には敵わなかったらしい。
カインめ、もう一押ししてくれたら、ついて行ったのに。気の利かない男だ。
カインは、前世で言うと中3の年頃だ。中坊に期待してはいかんいかん。
訳の分からないことを考えながらさまよう。
歩いても歩いても、森の中だ。
もうダメかも……
カインの言うことを聞いておけばよかった。
現世のかあさまごめん、先立つ不孝をお許しくださいなんて。
頭の上の木から、ガサッという音がした。
――この森、モンスターとかいないよね?
ベソかきながら歩いていると、上からドサッと男の人が降りてきた。
漆黒の髪、漆黒の瞳、ちょっと悪そうないい男だ。
「ピーピー泣いてるけど、お前、迷ってるのか?」
救世主さまだ。地獄で仏だ。森で道案内だ。
うんうんとうなづく。
「入学式の会場に行きたいんです。」
「新入生か、何で森に?」
「桜見ながら歩いてたら、いつの間にか……」
「くっ、連れてってやろう。ついておいで。」
イケメンの肩が震えている。
ちょっと歩くと森を抜けた。5分も歩くと講堂についた。
私の森をさまよい続けた時間はなんだったんだ……
親切さんだった。
これから彼を、森の救世主と呼ぼう。
講堂に着くと、入学式は始まっていた。
恐る恐る入っていくと、むっちゃ注目を集めた。
「あの方、庶民じゃない?」
「ローブから見ると、魔法科の新入生ね。」
「あのゴキブリがきっかけに、魔力を持ってるのが分かった方ね。」
「ゴキブリの方ね。」
「ああ、あのゴキブリの。」
会場に、ゴキブリのというざわめきが起きました。
乙女ゲームの主人公なのに……
――ゴキブリいうなああああ (泣)