27 野戦病院2
チェックポイントにいた負傷者の治療が終わったときだった。
交戦中だった班と、それを援護に行った一行が、帰ってきた。
皆、ボロボロだ。
重傷者が2名いて、さっそくロベリア先生が一番重い重傷者の治療に取りかかる。
もう1名を見ると、カインだった。
左足を大きく噛み切られている。一刻の猶予もないことは、誰が見てもわかった。
「時間が無い、エリカ、貴女が、やりなさい。まず、出血を止めて。」ロベリア先生が指示する。
「ごめんなさい。私をかばってやられたの。」赤毛の騎士科の女の子が、泣いている。
きれいな子だ。そりゃ、かばうよね。いいとこ見せちゃうよね。
ズボンを切り、足を露出する。水をかけ洗って消毒する。
うわあ、骨が見えてる。出血が多い。血を止めないと。カインがしんじゃう。
うちの店の常連の冒険者のおじさんを思い出す。ある日、おじさんはモンスター退治で片足を無くした。
あっという間に暮らせなくなって、町で物乞いをしていた。
優しいおじさんだった。
かあさまと時々ご飯を差し入れたけど、それもつらかったのか、いつの間にか、町からいなくなった。
大好きなおじさんだったけど、何もできなかった。
おんなじことは嫌だ! カインがいなくなるのは嫌だ!
カインの騎士の夢が叶わなくなるのは、嫌だ。
血を止めて、カインの足も治したい。
足を治すイメージで、ヒールをかける。
ダメだ、血が止まらない。
足を治すイメージで、もう一度、ヒールをかける。
ダメだ、血が止まらない。
「もういい。足は捨てた! 将来、かわいい娘を受付にして、おじさん受けが良い治療院しようと思ってたけど、諦めた! しょうが無い。カイン、受付にする。生きて! 死なないで!」
足全体を治すのは諦めて、血を止めることに集中する。
ヒールをかける。血が止まらない。
ヒールをかける。血が止まらない。
いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ!
血が止まらない。血が止まらない。血が止まらない。血が止まらない。血が止まらない。血が止まらない。血が止まらない。血が止まらない。
ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒーーーーーール!!!!!
泣きながら、つえを振った。
( しょうがないのう、力を貸してやろう。泣く子には勝てんからのう。 )
と、お茶目な精霊の声がした。
雷が光るように、周りが真っ白になった。
私は、意識を手放した。