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第1章 第後話 後編 惰性のエルフ ⑭

「そう…弟達は下にいるのね」


私は自分の判断を悔やんだ。素直に行きやすい下に行っていればこの二人に遭遇することなく直接弟達の元へたどり着けたのに。


「フッ。いかにも。そしてあの二人を掘り起こすためにはこの…」

「ドラゴンフライヤーver5が必要だ」


そう言って妹エルフが取り出したのは直径5センチくらいの金属球と手の平に収まるくらいの大きさのリモコンらしきもの。ただし付いているのはボタンとダイヤル式スイッチが一つずつ。

どうでもいいことかもしれないけど、確かドラゴンフライってトンボの異名だった気がする。


「私はあなた達を助けるために私が持てる力を全て使ったわ」


本当はもっと婉曲的な言い方をした方がよかったかもしれないけど、私の体温がそろそろ限界だったので私は露骨に協力を仰ぐというか、迫る。


「あなた達も私を助けて」

「ククッ。当然だ。恩を売られたまま黙っているような我らではない。というわけで兄者。操縦を頼む」

「フッ。任せろ。…さあ目覚めよ!」


言って兄エルフは妹から渡されたリモコンのダイヤルをひねってボタンを押す。すると妹エルフの手の中に納まっていいた金属球は宙に浮かぶ。微かだけど確かに金属球の方から熱のようなものを感じる。


「フッ。いいぞ、ドラゴンフライヤー」

「ver5」

「我が導きに従い永劫の氷獄を消し去れ!」


言いながら兄エルフはリモコンのダイヤルを小刻みに操作し、それに合わせて球体は高さを変える。金属球が放つ熱によって床の氷はチーズのように溶けていく。当然氷は解けて水になるのだけれど、それは氷が解けたことによって生まれる溝にそのまま残る。さらに氷を解かすために球体がその水たまりへ自らを投じるのにそう時間はかからなかった。

機械は水に濡れると駄目なものだと思ってたけど、どうやらあの球体はそうではないようで兄エルフは球体が水に沈んで姿が見えなくなってからもダイヤルを操作していた。

待つこと数分、突如水面に複数の気泡が現れ、水かさが急に下がった。


「どうやら下の空間に達したようだな。おに…兄者。ドラゴンフライヤーver5の回収を」

「ああ、今呼び寄せていいるところだ」


彼の言葉通り、例の球体は1分とかからず水面から顔を出し、兄エルフの手に収まり、リモコンと共に妹エルフに返された。


「ねえちょっと聞きたいんだけど、さっき下の空間に達したって言ったわよね?だったら何でまだ水が残ってるの?」


下の空間、つまりは下に広がる迷路に繋がったというのであれば解けた氷は全てそっちに流れてもおかしくない。いや、全て流れるべきだとさえ言える。それなのに今私と兄妹エルフの間に穿たれた穴には水面の位置がかなり低くなったとはいえ水が残っていた。


「本当はまだ届いてないんじゃないの?」

「フッ。案ずるな」

「というのも、弟さん達が囚われてるのは迷路とは隔離された部屋なのだ」

「迷路と隔離?」


弟達の閉じ込められてる部屋と私の通ってきた迷路が繋がっていなかった。その事実は私にとってなぜかとても納得のいくものだった。いくらあの二人とはいえ身の危険を感じれば逃げるなりなんなりするはず。それだというのに弟達が迷路の一地点に囚われているということは、彼らが動かないのではなく動けないと考えるのが当然だった。つまり弟達は出口のない部屋に閉じ込められてたんだ。


「寒っ!」「冷た!」


眼下の水面を破って二つの影が現れる。それは私が待ち侘びていたもの、探し求めていいたものだった。


「シニステル!デキステル!」


弟達は濡れた背を互いに押し付け合って支えにし、穴の壁面を歩くように登って来る。


「何なんだよここ!いきなり寒くなるし」「しかも水降ってきて余計寒くなるし!」


二人は体に付いた水を払いながらほんの数秒で穴から這い出てきた。


「この勝負は私が弟達を見つけたら勝ちの勝負よ。この時点で私が勝ったんだから、勝負は終わりよね?」


私は兄妹エルフの方を向いてそう言ったが二人は曖昧な表情で


「ああ…殿がそう言ったならそうなんじゃないのか?」

「我らはこの勝負のルールを把握していないので…」


曖昧なことを言う。しかし「殿」が言ったのは確かだ。勝負はもう終わったものとしていいだろう。だからこれも大丈夫なはず。


「乾燥。加熱」


私は魔法で弟達の身体から水分を取って体を温めてやる。水を吸って顔に張り付いていた前髪が元に戻る。


「ついでに…破砕!」


私は手を足元にかざし、魔力を開放する。放たれた魔力は私の足元を始点として氷の迷路に縦横無尽に亀裂を生じさせる。


「!?何をしてる!」

「安心して。ちゃんと安全は保障するから」


私はそこからさらに浮遊魔法を私を含めたその場にいる全員、5人にかけ、さらに頭上に防御壁を展開する。


「これで仕上げよ」


私は最後に迷路の各部に加熱魔法を発動し、迷路の崩壊を速める。頭上の防御壁には水と氷の混じった落下物が衝突する。そのまま迷路は音を立てて崩れるかと思われたが、しかし迷路の崩壊は不意に止まる。


「お忘れかもしれませんが、ここは波斗原城の最上階、その一室です」


砕かれた氷たちが生き物のように形を変えてその奥からあのメイドが現れた。


「この迷路を作るだけでも床が抜けないかハラハラしていたというのに、いたずらに床に負担を掛けるようなことはご遠慮ください」


ハラハラしていたような人間がしないような無表情で顔を固めてメイドは私に苦情をのたまう。


「それは悪かったわね」


悪いとは思ってないけど私は大人なので一応そう言っておく。


「あなたに聞けばいいのかしら?この勝負も私の勝ちでいいわよね?」

「…ええ、ご主人様の言っていた条件は全て満たしているようなので合格…いえ、あなたの勝ちです」

「そう。じゃあ…」


私は索敵魔法を使って「殿」の位置を特定し、弟達と共に彼の元へ飛ぶ。


「ああ、よくぞ戻ったな。歓迎するぞ」

「はいはいどうも。約束通りまた一つ容疑を帳消しにできるのよね」

「ああ、好きなのを選べ」

「考えるまでもないわ。不法入国よ」

「なるほど。まあ、そうだろうな。いいだろう」


「殿」は一度頷き、再び口を開く。


「さて、これで残る罪は放火の罪だけだな」

「そうね。でもその罪は私達がしたことじゃないからわざわざ帳消しにしてもらわないといけない容疑じゃないんだけど…」


しかし真実が突き止められるまでに時間が掛かるか、最悪この国の調査機関が無能だと私に容疑が掛かったままになってしまう。だったらここで戦って無条件に容疑を晴らす方がいい。


「ここまで来たんだからやるわ。三戦三勝して遊び半分に私達に勝負を持ちかけたことを後悔させてあげるわ」

「別に遊びのつもりではないのだがな。いや、そう言うには次の勝負は説得力に欠けるな」


「殿」は不敵に口の端を吊り上げる。また何か企んでるのだろうか。何か、この勝負が始まってからこの男にはいいように利用されっ放しな気がする。


「前置きも言い訳も不要だろう。次の勝負は『ハイアンドロー』だ」

「ハイアンドロー?」


ハイアンドローと聞いて私はまずトランプゲームのそれを思い浮かべた。

多分これまでの流れだとそれが正解なんだと思うけど一応確認する。


「それはトランプゲームののことよね?」

「とらんぷ…ああ、そう。それだ。お前達の国から取り寄せた玩具で、お前達の国の遊びで、最後の勝負を飾ろうじゃないか」


さっき遊びじゃないって言ってたのは誰だろうか。いや、それと同時に説得力に欠けるとも言っていた。こういうことか。


「いいわよ。最後はあなたが相手をしてくれるの?」

「ああ、いかにも。お前達三人と俺一人で勝負だ」

「勝負って…ハイアンドローって確か親が必要だったでしょ?私達が全員やってていいの?」

「ああ、構わない。そのためにるーるを少し変える」


彼の告げたルールをまとめると、「親」という役は存在せず、山札のみが存在する。まず最初に山札から互いに3枚ずつ、伏せた状態でカードが配られる。そしてそれとは別に表向きのカードが1枚場に出される。

番の回ってきたプレーヤーはチップの代わりに手札のカードを賭ける。最初に手札は5枚配られ、一度に賭けることのできるカードは5枚まで。

勝負の手順は以下の通り。

まず賭けるカードを選択する。次にめくるカードを選び、場のカードに対して自分のめくったカードが「ハイ」か「ロー」かを宣言してそれをめくる。

宣言が当たっていれば場に出た表向きのカード2枚に加えて賭けたカードの枚数だけ山札からカードを貰える。当たっていなければ場の2枚のカードと賭けたカードは没収され、山札に入る。

ゲームの終了は山札が無くなるか、どちらかの手札が無くなった時。

もし山札が無くなって、勝利した時の報酬が足りなくなった時、足りない分は相手のプレーヤーからカードを奪える。


「理解したか?」

「ごめん。無理だった」「もう一回お願い」

「いえ、いいわ。私は理解したから」

「そうか…本当にいいのか?」

「ええ、いいわ必要なら後で私から説明するから」


頭で考えないといけないという珍しくとも何ともない状況に、自分の才能と能力にすがって生きてきた私はこの時初めて自分の能力が万能でないことに気付いた。


「でも…私自身が万能であるということを証明すればいいだけの話。…シニステル。デキステル」

「何だ姉ちゃん作戦か?」「俺らは頭使うの苦手だからな」

「ええ、知ってるわ。だから先に謝っておくわね」


この勝負では私の魔力も弟達の体力も活きない。唯一頼りになるのは私の知力のみ。弟達には悪いけど、2人には期待してない。


「何にもしてねえのに先に謝るのか?」「なるほど、俺らもそれ使おうかな」

「あんた達は駄目よ。…でもその代わりに、私が絶対勝ってみせるから」


私は決めた。この勝負で私は、波斗原での永住権を手にしてやると、そう心に決めた。

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