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第1章 第3話 悲業の鬼 ⑨

転送魔法で基地に飛ぶと、そこには潮離と慎瑞、そして双子がいた。どうやら双子はまだ散歩に行く前だったようだ。


「ただいま。今日はお土産があるぞ。」

「やった!さすが先生。デキる男は違うね。」

「ありがたき幸せ。今後一層貴君に尽くすと誓いましょう。」

「よくやったアーサー。」「偉いぞアーサー。」


みんな口々に現金なことを言いながら僕を取り囲む。しかし当然ながらそのお土産とは現金ではない。

僕は風呂敷包みをほどく。


「まずは潮離。君にはこれだ。」


そう言って潮離に手渡したのは藍染めの百合の模様があしらわれた反物。


「出来上がった服を渡すよりかはこっちの方が喜ぶかと思って反物にした。」

「ありがとう先生。自分の分作って生地が余ったら先生にも可愛い服作ってあげるね。」

「気持ちはありがたいけど可愛くなくていい。」

「城下町で流行ってるスカートなんてのはどう?」

「可愛くなくていいと言ってるだろ。」


まあさすがに冗談だとは思うが。


「そしてこれは慎瑞。君にだ。」


僕が慎瑞に手渡したのは青竹踏みを改良して作られた足つぼ刺激板だ。まな板の上に無数の突起が付いた形状をしている。


「これは…如何にして使うのですか?」

「履き物を脱いで踏みつけるんだ。初めは痛いかもしれないけど健康にはいいから。」

「そうか、それでは早速。」


慎瑞は下駄を脱ぎ、臆することなく足つぼ刺激板の上に乗る。


「ぐほあああ!!!」


突如慎瑞が天を仰ぎ絶叫する。やはり初心者には刺激が強すぎたか?


「こ、これは不思議な感覚だ。全身の疲労がみるみる消えていく!」

「どうやら気に入ってもらえたみたいだね。よかったよかった。」


僕は一瞬、あれ?足つぼ刺激ってこんなに即効性あるものだったか?と思ったが、本人がそう言っているのだからそういうことにしておこう。


「なあアーサー。」「俺らのは?」


しびれを切らした双子が僕を挟み込むようにしてそう言う。


「安心しろ。ちゃんとあるよ。食べ物だから亜空間に保存してある。後でノラに取り出して貰ってくれ。」

「分かった!」「姉ちゃーん!」

「待て待てお前達。後でって言っただろ。その前に一つやってほしいことがあるんだよ。」


走り出そうとする双子を僕は慌てて引き留める。多分後一秒遅かったら僕の手の届かないところへ行っていただろう。


「いやいや、腹が減っては戦はできねえぞ。」「そうだぞ。武士は食わねど高楊枝なんだぞ。」

「お前ら、言ってることが矛盾してるぞ。」


振り返って僕に精一杯の反論をする双子に僕はツッコミを入れる。

やっぱり知識というものはただ持っているだけでは無意味なんだな。


「別にそこまで時間の食うことじゃない。すぐ終わるから。」

「分かったよ…。」「…しょーがねえな。」


双子は渋々ながら了解してくれた。


「じゃあ慎瑞。テスト、今やろうか。ノラもお願いできるか?」

「御意。」

「いいわよ。」


テストとは、慎瑞が鬼の力を制御できるようになっているかどうかについてだ。

一か月間彼自身を観察しても髪の色以外にこれといった後遺症が見受けられなかったため今日実際に鬼の力を使わせて結論を出そうというわけだ。

慎瑞と双子の周りに防御壁を張る。


「それでは…参る!」


慎瑞は顔に鬼の面をあてがう。その瞬間、鬼の面から濃い紫色のオーラ、妖力があふれ出し慎瑞の体を覆う。

妖力はすぐさまその密度を増し鬼の肉体に変換される。頭から順に肉体が形成されていき最後に太刀が現われる。


「ふ、ふはは、ふはははは、ふはははははは。」


鬼の口から低いうなり声のような笑い声が響く。

まさか、鬼の面の中の鬼はまだ死んでなくて慎瑞が乗っ取られたか。と思ったがそれが杞憂だということは彼を見ればすぐに分かった。

こいつ。万歳して喜んでやがる。


「おい慎瑞。紛らわしい笑い方をするな。慎瑞だよな?鬼に乗っ取られてないよな?」

「心配に預かり感謝する。が、私は大丈夫だ。我、恵寺原家が当主、恵寺原慎瑞。今ここに貴君、アーサー・マクダナムにその身を捧げることを改めて誓う。」


慎瑞は防御壁の中で鬼の姿のままひざまずき頭を垂れる。またしても予定不調和だがこの戦力は大きい。存分に活用させてもらおう。


「なあアーサー終わりだろ?」「お土産食ってもいいだろ?」

「ああいいよ。ノラ、頼む。」

「ん。」


ノラは杖を一振りして防御壁を解除する。


「お土産はテーブルの方に転送してから二人で食べてきなさい。」

「「行ってきまーす!!」」


双子は一目散にテーブルの方に駆けていった。それはもう猪突猛進という言葉を辞書で引いたら例文に出てきそうなくらいの勢いだった。

ちなみに双子へのお土産は母さんに注文しておいた魚のお造りだ。

ついでに言うとお造りとお刺身は物としては同じだが「刺す」という言葉の縁起が悪いため店で出すときは主にお造りと呼ばれる。


「またそうやって知っててもどうしようも無いちしきひけらかしてるの?」

「またとはなんだ。どうしようも無いとはなんだ。そして地の文を勝手に読むなと前々から言ってるだろ。」


でも思い返してみれば地の文を読まれるのは久しぶりだ。


「あ、そうだ。ノラ、お前にもあるんだ。お土産。」

「あ、何?そうだったの。風呂敷の中は反物と板だけだったからてっきり私は忘れられてたのかと思った。」


こいつ、普段は万能とか自称してるくせに中々卑屈なこと考えるんだな。


「悪かったわね万能な卑屈で。」

「万能が卑屈を修飾しちゃってるぞ。」


言いつつ僕はポケットからその品を取り出す。


「ほらこれ、綺麗だし、魔術師のお前には魔力の媒体として利用できて一石二鳥だろ?」

「これ、ネックレス…ダイヤモンド?それも多分これ私が一番最初に実験で作ったやつじゃない?」

「そうだよ。よくわかったな。気に入ってくれるといいけど。」


ノラはネックレスを受け取ってしばらく品定めをするように見る。

ちなみにこのネックレス、台座と鎖の部分もダイヤモンドでできている。台座に収まってるダイヤモンドの方はただの宝石だがそれ以外は全てゴーレムの体の一部でできているため、僕の指示一つで指輪などにも変形できる。我ながら中々の優れものだ。


「ふ~ん。まあ、悪くないわ。」


そう言ってノラは僕に背を向けネックレスを僕に返す。


「え?どうしたノラ?やっぱり気に入らなかったのか?」

「あんた何聞いてたのよ。悪くないって言ったでしょ。…だから今着けて。」


そうか、自分の後ろで小さな金具を操作するのは難しいか。今のは僕の配慮が欠けていたな。一応反省しておこう。まあ、この反省が生きるときなんて来ないとは思うが。


「よし、着いたぞ。どんな感じかこっち向いて見せてくれよ。」

「どう?変じゃない?」


そう言ってノラは正面を向く。

今のノラは三つ編みだ。その髪型とネックレスのシンプルなデザインがよく合っていると僕は素直にそう思った。


「うん。似合ってるよ。」


あ、しまった。先月似たような場面があったな。「あんたに聞いてない」って怒られるやつだ。これ。


「そう。良かった。」


あれ?怒らない。まあ、今僕達の周りには誰もいないから「あんたに聞いてない」というのはおかしいしな。


「ま、まあ私ごときにこの程度のプレゼントとはまあまあね。褒めて遣わすわ。」

「お前、何をテンパってるのか知らないが、今自分のことを『私ごとき』って言ったぞ。」


もしかするとこいつも嬉しいのだろうか?そして今のは彼女からの精一杯の感謝の言葉なのか。


「うるさいわね。土葬するわよ。」


そう言ってノラは僕に手をかざし、僕の体がズブズブと地面に沈んでいく。

まあよくあることだ。下半身が全て埋まったくらいで許してくれるだろう。


「ん?あれ?ノラ?」


何故だろう。ノラが僕に背を向けて帰っていく。しかしその間にも魔法は継続して作用し続ける。


「おーい。ノラ。嘘だよな。生き埋めなんて嘘だよな。」


ズブズブと僕の体は順調に胸のあたりまで沈んでいく。


「おーいノラーーーー!!!帰ってこーい!そして今すぐ魔法を解除しろー!」


そんな僕の必死の叫びも虚しくノラが振り返ることは無かった。

結局僕はゴーレムを数体呼び出して僕が生き埋めになる前に掘り起こしてもらったのだが、最初のゴーレムが到着した時、僕はもう既に首のところまで沈んでいたということをここに明記しておく。

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