第1章 第1話 悲哀の姑獲鳥 ⓪
英雄とは、誰もが一度は憧れを抱く理想。誰もが無条件に称える正義の権化。
その英雄の為す偉業というものは魔王討伐というのが相場だ。と、ここで考えてほしい。「勝てば官軍、負ければ賊軍」という言葉がある。この言葉によると英雄というものは勝って初めて英雄と認められる。つまり、英雄というものは後付けされた称号であるということだ。
確かに考えてみれば魔王といえど王であり、国の頭に他ならない。ということは英雄が魔王討伐という英雄的行為を行っているまさにその時、彼らは英雄ではなくただの反逆者であり、企んでいることは国家転覆に過ぎないということになる。
いや、僕はなにも、どんな英雄的行為の裏にも犠牲はあり、絶対的な正義はあり得ない。などという綺麗事を言いたいわけではない。
僕はただ、今から僕が滅ぼそうとしている国の王を魔王、そしてその王の住まう城を魔王城と呼ぶことに一定の理解を示してくれさえすればそれでいいのだ。
僕は自分の物語を反省文としてでも、懺悔としてでもなく、武勇伝として語りたい。剣も魔法も使えず。物知りくらいしか取り柄のない僕ことアーサー・マクダナムが、やる気など微塵も出さずにわけあって渋々挑むこの大冒険を。
これは他の誰でもない僕、アーサー・マクダナムの物語だ。