2… 闇市場の星詠み
私たちはまず、十二神像を探すついでに観光がてら、ぶらりと下町の辺りを散策することにしました。
ザックスさんいわく、大通りの広場に十二神像はあるとか。
「それにしてもフリューゲルで犯罪か……。あまり聞かない話だな。」
下町といっても、フリューゲルは小汚い町ではない。
名誉と印象を第一にする冒険者や職人たちが住まうこの土地では、自ら自分を貶めるようなことはしない。そういうことをするのは、大抵ギルドにも属さないならず者だ、とロア様は言う。
「まるで来たことがあるような口ぶりですね」
「そりゃそうさ。僕は元冒険者だ、大体の街はまわっているね。ニーナは初めてのようだが?」
「はい。私は相方探しを故郷と周辺の街でしていたのでここまで来たことはないんです。」
「な、なるほど…新米冒険者の拠点にくる前にある程度熟練になってしまったんだね。」
そんな事を話しながらしばらく歩けば、屋台の陳列するに辿り着きました。
「これが庶民の胃袋ならぬ、リモードの青空市場さ。」
ロア様は楽しそうに様子を眺めますが、
なにやら、もくもくと煙があちらこちらから立ち込めて影を落とす市場一帯を見て、その妖しさに私は目を細めました。
大通りに面した色とりどりのテントの下にはいっぱいの林檎やベリーなどの果物からはじまり、パプリカやズッキーニなどの野菜、肉やホールチーズなどがずらりと並んでいます。けれどそれらに混じって、一部変なお店も見受けられます。
…というか、よく見ると屋台の上にあるのは大体が異様な商品。
陳列されているのはなにも野菜や果物だけじゃありません。蜥蜴の串揚げやサソリの尻尾のから揚げ、通常のお店では見たことのない、得体のしれぬ薬品の瓶がずらり。
ある店では天井から毒を含む薬草やネズミのミイラがぶら下がり、瓶の中で蠢く大量の目玉や虫などなどが並んでいて、骨や皮がのぞく大窯でぐつぐつ煮立っている紫や緑の液体から注いだものを、真っ黒なフードの主人が並べています。
調理中・製造中のそれらから煙は漂い、お店とその後ろにある倉庫なのか民家らしき家までぎゅうぎゅう詰め青天井に迫っていて、空という空は煙と屋根で殆ど見せません。
「青空市場というより、裏路地の闇市ですね。さすが錬金術、魔術の都市といったところでしょうか…。」
「―—ちょっと、そちらのお嬢さん。」
ふと、後ろから涼し気な声が耳に入りました。
振り向くと、真っ黒なベールで顔を隠した人がゆらゆらと手招いていました。頭と口元、上下覆う布の影で顔はよく見えず、ウェーブされた長い銀色の髪だけが覗いています。
すらりと机に伸びた褐色の腕が置かれた机の上にはタロットカード、水晶、などなど占いの道具が一式。
額や胸元、腕周りには金の装飾をちりばめている、見るからに怪しい雰囲気の占い師がそこにいました。
「―—そう、貴方よ。星色の髪をした、月の使徒さん。」
「……つきの、シト?」
聞きなれない言葉に私はあからさまに、怪訝そうな顔をしました。
「そうよ。異世界の人間さん、貴方の事を昔の言葉で月の使徒って言うのよ。」
「へえ……。」
「あなた探し物しているでしょう」
女性の唐突な質問に、十二神像のことがふと頭を過ぎります。
彼女はふふと笑いました。
「あながち間違っていないけれど、私が言っているのは、もっと根本的なモノよ。」
そう言って慣れた手つきでカードを切ると、水晶に手を掲げました。
「―—貴方、お名前は?」
「ニーナです。」
「そう、ニーナね…私は星詠みのティタ。」
「星詠みって…星を占うんですか?」
「そうよ、お利口さんね。私は人を視て、星を辿り、星運を占うの。貴方の星の流れはいずこかしら――」
彼女がひらりとかざした途端、水晶の中が淡く光りはじめます。
「…きれい…」
水晶の中をみて、私は思わず声を漏らしました。ティタさんは言います。
「あら…貴方の星、なかなかよくってよ。」
「いい……?」
「守護するは東の星——セレーネね。そして貴方は故郷へ帰りたがっている…」
彼女の口から、ベールの奥からとめどなく流れるように零れる言葉は、まるで詩のように紡ぎます。
『星霜の記憶
箱庭のゆりかご
安らかな静寂と終わらない夢
…白い綻びはやがて広がり世界を揺らす』
「どういう、ことですか…?」
「つまりは、深い混沌より貴方自身が――××××ってことよ。」
「……?」
その言葉はよく、わからなかった。
「それってよくないことなんですか」
「そうといえばそうだし、そうじゃないと言えばそうよ。言うなれば、貴方が求めるのは本当にその望みか否かということね。」
「―—さて、いま解るのはこんなところかしら。」
「はあ…ありがとうございます。」
私ではあまり理解できなかったけれど、しぶしぶお礼を言います。私の目は水晶に釘付けになっていました。
「気に入った?よければこれ、差し上げるわ。」
「えっ…」
彼女はひょいと水晶を掴み、私に手渡しました。
「私には似合わないの。貴方のような冒険者が持っているほうが、よっぽど価値がある。」
「……おいくらですか?」
「―—へ?」
「新米冒険者なのであまり手持ちはないので…。」
自分でも我ながら真面目くさっていると思うけれど、人から何かを貰うということに慣れていない私は、つい疑り深くそう聞いてしまいます。
彼女はふふ…面白いこね、なんていってくすくすと笑いました。
「お金なんていらないわ。その代わり、旅で私を見かけたら声を掛けてくださる?貴方が背負う星の流れ、気になるわ。」
「貴方も旅をしているんですか?」
「ええ、私も自分の使命の為に…。」
「旅をするものは皆それぞれ星の運命を背負っているわ。あなたの星は…どんな宿命を背負っているのかしら。」
僅かに透けてみえる口元は、紅を施しているようで妖しく弧を描きました。
「おいニーナ!こっちに面白いものがあるぞー!」
「はいはいー…それでは、相方が呼んでるので失礼しますね。これ、大事にします。」
「ええ…また、逢いましょうね。」
——一瞬。見えないはずの彼女の瞳が、とても冷たく笑った気がしました。
「ああ、そう。ついでに言っておくと相方さんによくない相が出てるわ。気を付けて頂戴ね」
振り向きざまに言われた言葉に、私は一度足をとめました。
「ニーナー‼ニーナっ!」
「はいはい、今行きます。」
しつこい相方の声を後ろに先ほどの気配に後ろ髪惹かれながら、その場を離れロア様のいる店前に急ぎました。




