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ソキウス-Little Healer-  作者: 紗雪 渉
第三章:大海原へ
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5… 海の荒くれ者

しゅうううとザックスの顔から煙が吹く。そして途端に、ザックスは元のおおらかな表情へ戻り、


「あー…すまん。もう時間切れだわ、たはは」

「早っ!!」


 ロアとリオネルは同時につっこんだ。


「いやあ~…酒の度数と量にもよるんだわ、コレが。」

「おまえはどんだけ飲めば気が済むんだよ!?」

「わりぃ、あとちょっとだったんだが…こいつ、俺を食うつもりらしいぜ。」


 ザックスは他人事のように言ってのける。リオネルはクラーケンを仰ぐ。

 ぶよぶよした表面に、ぱかりと大きな穴が開く。

 それはクラーケンの口であり、無数の歯が螺旋状になりザックスを迎えいれようとしていた。

 

「くっ…やっぱり俺が……!」


 リオネルが再び構えた、その時。

 唯一甲板に残っていたリオネルは、大きな打撃を受ける。

 それは魔物でもなく、治癒術士から投げられた掃除用のバケツだった。


「な…なにしやがるアマ……!一度ならず二度までも……ッ」

「それはこっちのセリフです。まだロア様の言っていた意味が分かりませんか?」


 ぎいいいいいいい。

 今度は北の方角から大きく傾く。手下たちとロアが叫びながらデッキを滑る中、ニーナだけが平然を装って徐々にリオネルに近づく。傾くデッキを水兵移動しながら彼女は杖を取り出し周囲の者に詠唱する。


「計画性もなくただ、がむしゃらに突っ込めばいい。これだから"賊"がつくアタッカーはイコール使えない、または雑魚の定義がつくんですよ。"天より着たれし 聖なる光よ 我らを抱擁せし壁となれ——白銀の守護、セイクレッド・シールド"」

「お、おま……」

「突っ込んだ後の処理は誰がしますか?ええ、決まってます治癒術士なんですよ。"煌めく活力を我に与えん——リカバリー、リカバリー!"」


 ニーナの詠唱により、周囲の者全員に防御魔法が張られ、怪我した者は回復される。


「貴方もその部下たちも、どいつもこいつもアホばっかでストレスで私を溺死させるつもりですか?こんなとこで死んだら浮かばれないってもんですよホント……」

「……。」

「……誰がうまいこといえといった!!」

「えっ、なんかごめんなさい……。」

「ニ、ニーナ……」


 ニーナのノリ突っ込みに、宙に浮くザックスだけがげらげらと笑っていた。


「いいですか!貴方たちのようなものを地雷と———」

「……地雷?そうだ、雷だ!」


 後ろで吐いていたロアは、途端に閃いたように叫んだ。


「水辺の魔物は雷に弱いと聞いたことがある。あいつに落雷の一撃でも浴びせられれば、隙が出来る筈だ!」

「雷だと!?だが俺たちの中に魔術を扱えるやつなんかいやしねえ…」

「落雷……」


 ニーナはぼそりと呟き、構える。


「イチかバチかです……」


 ニーナは詠唱する。彼女の足元に再び魔法陣が降り立つ。


聖なる光矢(ホーリーアロー)!!』


 効力はわずかだが、やはり雷は雨を浴び水中に浸かるクラーケンにダメージを与えた。動かなくなったクラーケンを見てロアは叫ぶ。


「いまだ、リオ!!」


 リオネルは高く船首から高く飛び上がり、クラーケンの目を鉾で突き刺した。

 クラーケンは悲鳴をあげ、海中に沈んでいく。

 衝撃で、リオネルは再び宙に舞い上がった。

 同時に空が晴れていく。

 雲海から覗く、茜色の光を見つめ彼は姉の言葉を思い出した。



 船はずたぼろになったが、どうにか海を渡り、アルカディナの陸へと身を寄せた。

 しかし辿り着いたのはリモードからはやや離れた北東の端。

 それでも全員が無事だっただけ、ましだったとザックスは笑い、皆が同意する。


 波打ち際でひととおり落ち着くと、彼らはまた別れることになった。

 ニーナは呟く。


「あの子はきっと、死んでいないでしょうね。姉君の敵、なんていってましたけど。」

「ああ…昔、姉貴が殺し損ねた相手でな。姉貴の片目を奪った相手でもある。だから、俺はあいつを殺すことで示しをつけたかったんだ…でもそんなの、自己満足だった。俺の勝手で誰かを巻き込むわけにはいかない、な。」

「ふうん、ちゃんと気づいたんですね。」

「率先して仲間を引くことばっかりで、俺は責任感なんてなかった…。ただ、がむしゃらに突き進むことしか頭になかったんだ、俺は。」

「貴方はもう、海で迷うことはないとおもいますよ。」


 ニーナはふっと笑った。

 そして入れ替えでロアがリオネルの前に立つ。


「―—姉貴が、あんたについて言った理由が分かったよ。」


 リオネルはふいと彼を避けるように言って、仲間と共にまた海へと戻った。

 

「あんな状態でまともに動かせるのか?」

「知り合いの砦が近くにあるらしいですよ。」

「…大丈夫だろう、海の漢なら。」


 ぬるい潮風がロアの髪を無造作に撫でていく。

 水平線の先へ消えるまで、三人は荒くれものたちを見送った。 

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