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次の日、王女様は朝から窓際に座って、若い男が来るのを今か今かと待っていました。


王女様は、自分が若い男に恋をしていると気づいて今までよりも、より一層、彼がくるのを待ち望んでいたのです。



本を読もうと思っても、彼のことが気になって、ちっとも集中出来ません。





お昼くらいになった頃です。窓から、森を抜けて、若い男が塔に向かって歩いてくるのが見えました。



若い男の姿が見えた瞬間、王女様の心は飛び跳ねました!


「遅かったじゃない!待ってたわよ!」


王女様は、若い男に向かって叫びました。



「おやおや、待たせてしまってごめんね。待っててくれたんだねありがとう」


若い男は、塔まで駆け寄ってそう言いました。



「朝からずっとあなたに会いたくて、窓際で待っていたのよ。さあ、早く今日会ったことを話してちょうだい」


王女様は笑顔でそう言いました。


「待っていてくれてありがとう。でも、話をする前に、これを君に贈りたいんだ。今日の話はこれを食べながら聞いてくれないかい?」


そう言って、若い男は籠に何か入れました。


「あら、今日のプレゼントは食べ物なのね?何かしら?」


王女様はそういって籠をひきあげました。


「まあ!なんておいしそうなの!」


籠の中には美味しそうなアップルパイが入っていました。



「街でとてもおいしそうな匂いがしてね!たどってみたら、そのアップルパイにたどり着いたんだ。君はアップルパイは好きかい?」



「ええ!大好きよ!とてもおいしそう!今切り分けるから、ちょっと待っていてね」


王女様はうきうきしながら、アップルパイを切り分けます。


そして切り分けたアップルパイと淹れたての紅茶を籠に入れ、注意しながら、籠を下しました。



「素晴らしいお茶もケーキも用意されたことだし、さっそく今日の話をしようか」


若い男が嬉しそうに言いました。


素晴らしいケーキと温かい紅茶に愛する人、王女様の心は踊りました。




しかし、


「今日は街でとても美しい女性をみたんだよ」


若い男の言葉で、王女様の紅茶を飲む手が止まります。



「ま、まあ…。とても美しい女性…?どんな人だったの…?」


平静を装うとしても、声が震えているのが、王女様自身、わかりました。

美味しいはずのアップルパイも味がしません。



「美しいブロンドの髪を持つ女性でね。そして、その笑顔はまさに太陽のように輝いていたよ」



まさか…。王女様は思います。


まさか、その美しいブロンドの髪を持つ、太陽のような笑顔の女性は、昔友達だったはずの商人の娘ではないのかしら…?



「その人は、国一番の美女らしくてね。大きな商人の娘らしいんだ、少し前まで病気で臥せっていたらしいけど、今は元気を取り戻したようだよ」


やっぱり彼女だわ…。


若い男の言葉に、彼女は確信します。


そのブロンドの髪を持つ美しい女性は、昔、自分が森の奥に置き去りにした商人の娘だと。



まただわ…。また彼女は私を差し置いて、みんなの視線を奪うんだわ…。


ケーキを食べる手は、もう完全に止まっています。


商人の娘のことを苦々しく思いました。


昔からいつもそうだ…。彼女は王女である自分を差し置いて、その美貌で国中の人の視線を釘づけにするんだわ…。


王女様は思い出します。


商人の娘はその美貌と輝くような笑顔で、老若男女を魅了してきたのです。

彼女の笑顔は、誰もが親しみを感じ、話せば誰もが彼女を古くからの友人のように思ったものでした。



「王女様もとても美しいけれど、国一番の美女はやはり商人の娘だ」


そんな言葉を王女様は、何度も耳にしたことがあります。


そのたびに、王女である自分を差し置いて、人々から愛される彼女が酷く妬ましかったのです。


今もそうでした。その美しさで、王女様の愛する人の心を掴んでいるのです。



王女様は酷く悲しい気持ちになりました。



「その人のことが好きなの…?」


王女様は今にも泣きだしそうな声で、そう聞きました。



「ああ!どうして、そんなに泣き出しそうなんだい…?」


若い男は王女様の声を聞き慌てて聞きました。


「だって、あなたが、その女性の美しさをそんなに褒めるから…」


王女様は言いました。



「ああ、そんなことで泣きそうになっていたんだね」


王女様の言葉を聞いて、若い男はくすくすと笑います。


「酷いわ!そんなことだなんて!女性にとったらとても大事な問題よ!」


笑う若者に王女様は怒ります。


「ごめんごめん、怒らないで、君がそんなことを気にしているなんて意外だったんだ」


若い男は慌てて謝りました。



「僕は君をとても美しいと思うよ」


若い男は愛しむように王女様に言いました。



「でも、私はその女性よりは美しくないわ…、美しいブロンドでもないし、太陽のような笑顔も持っていないもの…」


王女様は沈んだ声で言いました。



「確かに、君はブロンドの髪を持っていないかもしれないし、太陽のような笑顔を持っていないかもしれない」


若い男は優しく語りかけます。


「でも、僕をこんな気持ちにさせるのは、彼女ではなく君なんだ」


若い男は言いました。



「街にいけば、君に何を贈ろうかずっと考えているし、何かおもしろいことがあれば、1秒でも早く君に聞かせてあげたくなる。嬉しいことがあれば、君と嬉しさを共有したくなる。君が悲しい気持ちだと、僕もとても悲しい気持ちになる。君といられなくなるから、太陽が沈まなければいいと思うし、夜寝る前には君の幸せを思って眠りにつく」


若い男は愛おしそうに塔を見上げて優しく王女様に言い聞かせます。



「それは、君の美しさがそうさせるんじゃないんだよ。君という存在こそが僕にとっては愛おしいんだ」


若い男の優しい言葉に、王女様はとても嬉しくなり、涙が零れそうになりました。


こんなに温かい言葉をかけてもらったのは初めてでした。


王女であったときでさえ、王女様にこんな素敵な言葉をかけてくれたことはなかったのです。



「誰かと比べて、自分を卑下しなくていいんだ。君には君らしさがある。それはどうやっても他人は手に入れられないものなんだ。その君らしさを僕は大切にしてほしいと思うよ」



若い男の言葉に王女様は胸を打たれました。




私は、自分らしさも分かっていないのに、彼女に勝手に嫉妬していた。

彼女と自分を毎日比べて、自分が持っていないものを持っている彼女を妬んでいた。

なんて愚かだったんだろう。

彼女を妬むのではなく、自分のいいところを見つけて、褒めるべきだったんだわ。



王女様はずっと、商人の娘に嫉妬していた自分が恥ずかしくなりました。



そして、同時に彼女を妬んで、森の中に置き去りにした自分の意地悪い行動を酷く恥じました。



「ああ、あなたの言葉はどうしてこう素晴らしいのかしら、あなたの言葉はとても暖かくて、私の凍った心を溶かして、間違いを正してくれる。それに、私をとても嬉しい気持ちにさせるの」



王女様は言いました。



「君の心は凍ってなんかいないよ。ただ、時々、暗闇で迷子になってしまうだけなんだ。君が迷子になったとき、僕の言葉が君を正しい道に導いているなら、僕にとってもそんな嬉しいことはないよ」



若い男は優しく言いました。
















その夜、王女様は、もう誰かに嫉妬するのはやめようと思いました。

自分のいい所を見つけて、それを育てようと決めたのです。

そして、商人の娘が病から回復したのを神様に感謝して眠りにつきました。

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