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次の日、若い男は綺麗な綺麗な服を王女様にプレゼントしました。
若い男のプレゼントに、王女様はたいへん喜び、感激しました。
「塔の下に行って、あなたに見せられないのが本当に残念だわ!ああ!なんて素敵なのかしら!」
塔の部屋の中をくるくると踊り周りながら、王女様は叫びます。
「君が喜んでくれて、僕もすごく嬉しいよ」
若い男は優しい声で言いました。
「今まで贈ってくれたプレゼントももちろん全部素敵よ!でも、今日は本当に素敵なプレゼントだわ!ああ、この服を着て、あなたと街にいけたらどんなに幸せかしら…」
王女様は、鏡に映った自分の姿を見て溜息を吐きます。
若い男が送ってくれた紅いドレスは、王女様の白い肌と艶々した黒髪にとてもよく似合っていました。
「ずっと塔のなかにいたとしても、君くらいの年なら素敵な髪飾りや素晴らしいドレスが好きだろうと思ってね、僕もそのドレスを着ている素敵な君を街で見せびらかせないのが悲しいよ」
若い男も嬉しそうに言いました。
「あなたはいつも私に優しくしてくれるわ…。そんなあなたに何も返せない自分がとても惨めだわ…」
王女様は俯きながら言いました。
本当に惨めだ…。
王女様は思いました。
本来、王女である自分なら、毎日これ以上のドレスを着て過ごし、優雅な食事をしてパーティに出て、彼にも素晴らしい贈り物をたくさん贈れるのに、今の自分はみすぼらしいドレスが数着あるのと、城の使いが持ってきてくれる食糧を細々と食べるしかないのだ。
パーティなんてもってのほか、塔から一歩も外に出られやしない…。
王女様は今の自分の状況にとても悲しくなりました。
「本当に惨めで、あなたに申し訳ないわ…」
王女様は泣きそうな声で言いました。
「僕は君に笑っていてほしいから、贈り物をするんだ」
若い男は王女様の言葉にそう返します。
「君になにか返して欲しいんじゃないんだよ。僕が贈るもので、少しでも君の寂しい気持ちや、悲しい気持ち、そんな気持ちが少しでも君の心からいなくなってくれればいいんだ」
若い男は優しくそう言いました。
そんな若い男の優しい言葉に、王女様は微笑みます。
「私はあなたがこうやって毎日、私に会いに来て話相手になってくれて、本当に感謝しているの。あなたがいないと、私は本当に独りぼっちだわ。あなたの存在に救われているし、あなたはいつも私を笑顔にしてくれる」
「あなたには本当に感謝しているの」
王女様は力強くそういいました。
「君の支えになれて僕はとても嬉しいよ。今、君は塔に閉じ込められているけど、僕は君の魔法が解ける方法を見つけ出してみせるよ」
若い男は優しい声でそういいました。
「ありがとう…。でも、私のこの魔法は解けることはないの…」
決してこの魔法が解けることなどないのだ…。
王女様は思います。
私が、嘘つきで意地悪く、ずる賢く、卑怯で、高飛車で、他人を欺き、陥れ、人を不幸にする王女であった過去があるかぎり、私はこの塔から出ることは出来ないの。
過去は変えられない…。
国民や実の両親は今でも私のことを憎んでいる。
私がこの塔を出ることは一生ないのよ…。
「そんな悲しいことは言わないで、僕は君をこの塔から解き放つためにはなんでもしよう」
若い男は優しく言いました。
その言葉は、王女様の悲しかった気持ちを少し暖かくしてくれました。
若い男は、また明日も来るといって、帰っていきました。
若い男が帰ったあと、王女様は彼のことばかりを考えていました。
「彼がいってくれる言葉はどうしてこんなに温かいのかしら…?」
王女様は鏡に映る自分に問いかけます。
毎日、若い男が塔の下に来てくれるのを今か今かと待っています。
沈んでしまう太陽がとても恨めしく、早く朝を連れてきてくれと星たちにお願いします。
最近では、夢中になっていた本も、若い男が聞かせてくれる話のように熱中することはありませんでした。
何をしていても、あの若い男のことばかり考えてしまうのです。
王女様は、若い男に恋をしていました。
王女様もそれに気づきました。
私にも恋が出来るんだわ…!
王女様は嬉しく思います。
でも…。
同時に、王女様は不安になりました。
もし、彼に、私が嘘つきで意地悪く、ずる賢く、卑怯で、高飛車で、他人を欺き、陥れ、人を不幸にする王女であることがばれてしまったらどうしよう…!
王女様は脅えました。
絶対にバレてはいけない。隠し通さなければいけない…。
私は悪い魔女に塔に閉じ込められた可哀想な花売りの娘なのだ…。
彼に自分が嘘つきで意地悪でみんなから嫌われ者の王女だと知られないために、この塔から一生出てはいけない…。
王女様はそう心に決めました。