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次の日、若い男は銀で出来た小さな不思議な形をした鳥の人形を持ってやってきました。
「かわいいけど、この鳥はなんていう鳥なの?私、こんな鳥を見たのは初めてよ!」
王女様は銀で出来た鳥の人形を机に飾りながら、はしゃいだ声で言いました。
「その鳥はね、フクロウといって、知恵の女神の化身らしいんだよ」
若い男が言いました。
「この国にはいないんだってね。僕の国にも、フクロウなんていう鳥はいなくてね。僕も初めてその鳥のことを知ったんだ」
「あら?じゃあ、このフクロウの人形はどこで買ってきてくれたの?街に売っているのはみたことないわ」
王女様は言いました。
「これはね、街で買ったものじゃないんだよ」
若い男は言いました。
「今日はね、お城で知識人ばかりの集まりがあったんだよ。とてもおもしろそうだったし、僕も参加してみたんだ。そしたらね、3年前まであの王女様に追放されて遠い国にいたというお城の神官がやってきてね。その神官がこのフクロウという鳥の話を披露してくれて、この人形をくれたんだよ。フクロウという鳥はね、凄いんだ夜行性で…」
若い男が話してくれるフクロウの話は、王女様の耳には入ってきませんでした。
神官が帰ってきているですって?!
王女様は怒りました。
図々しくも私に注意し、王女である私ではなく大臣の娘に味方した、あの神官の娘が私がこの塔に追放されてから帰ってきているって?!
なんてことかしら!
王女様は憤りました。
自分が追放された代わりに、神官一家が帰ってきたのが許せなかったのです。
自分は王女という地位をはく奪され、薄暗くて汚い、誰も来ない塔に閉じ込められているのに、神官の一家は元の地位に戻り、お城で生活しているのです。
王女様はそのことにとても腹を立てました。
「ねえ、さっきから珍しく黙りこくっているけど、フクロウの話はつまらなかったかい?」
若い男が困ったように聞きました。
「ち、違うのよ!フクロウの話はとても興味深かったわ。夜行性の鳥がいるなんて知らなかったわ、それにえーっとなんだったかしら、ほら、ふつうの鳥とは全然違うのね」
若い男の困ったような声を聞いて、王女様は慌てて言いましたが、しかし、話など聞いていなかったので、取り繕うことはできませんでした。
「どうやらぼんやりしてたみたいだね」
若い男がクスクス笑いながら言いました。
「ごめんなさい。フクロウの話にはとても興味があったのだけど、少し考え事をしていたの」
王女様は言いました。
「何か悩み事があるのかい?僕でよければ話を聞くよ」
若い男が優しく言いました。
「いいえ、悩み事というほどでもないのよ」
王女様は首を振りました。
「ただ、昔、私に意地悪をした神官の娘が街に帰ってきていると聞いて驚いたのよ」
王女様は意地悪くそう言いました。
「神官の娘に意地悪なことをされたのかい?」
若い男が心配そうに言いました。
「ええ、神官の娘は何かと私に注意したりしてきたのよ」
王女様が言いました。
「注意されたことがあったんだね。でも、それは神官の娘も君のためにと思っていったことかもしれないよ」
若い男が優しく諭します。
「まさか!ありえないわ!あの神官の娘は私より、自分の方が正しいと思い込んでいるのよ!」
王女様は叫びました。
「本当に正しい人間なんていないんだよ。もう一度その注意されたことを思い出してみてごらん?理不尽な注意だと思うことはあるかい?」
若い男は優しく聞きました。
私は王女よ!王女の私にたてつくなんて許されたことじゃないわ!!
王女様は、そう叫びたいと思いましたが、ぐっと堪えました。
何しろ、今の自分は王女ではなく、悪い魔女に閉じ込められた可哀想な花売りの少女なのだから。
それに…。と、王女様は大臣の娘にした酷い仕打ちのことを思い出しました。
大臣の娘にしたことは、私が悪かったわ。
あんなことをするべきじゃなかったのは、私も分かった…。
そういえば、神官の娘は注意するとき、頭ごなしに私に言ってこなかったわ。
ちゃんと、私の話を聞いてくれて、話し合ってくれた…。
そう思うと、王女様は神官の一家のことを気の毒に思いました。
神官の娘は、私のことを思って間違いを正そうとしてくれていたのに、私はそんな優しい人を遠い極寒の地に追いやってしまったわ…。
王女様は、神官の一家にやってきたことを気の毒に思い、後悔し、反省しました。
「あなたの言った通り考えたら、神官の娘が、私に理不尽なことを言ったことなんて一度もなかったわ。彼女はすべて私のためを思って言ってくれていたのよ」
王女様は言いました。
王女様の言葉に、若い男が微笑むのを感じました。
「君は偉いね。自分の間違えを正す言葉と向かい合うのは勇気がいることだ。そして相手が正しいと認めることもね。神官の娘の言葉を理不尽だと決めつけず、その中から彼女の優しさを見つけられた君の勇気と素直さが僕はとても嬉しいよ」
若い男はそう優しく、王女様を褒めました。
その夜、王女様は神官の一家の幸せを思って眠りにつきました。