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次の日の夕方、若い男は街で買ったという花を持って王女様に会いに来ました。
美しい美しい花でした。
また次の日の夕方、若い男は森でとれた新鮮な林檎を持って会いに来ました。
真っ赤な真っ赤な林檎でした。
毎日毎日、若い男はお昼や夕方にやってきては、日が沈むまで話にやってきました。
王女様に小さなプレゼントを携え、毎日毎日会いに来ました。
小さなプレゼントも、若い男が話してくれる街の話も、王女様にとって、とても嬉しいものでした。
ある日のことでした、その日も若い男は街で買った貝殻の髪留めを持って王女様に会いに来ました。
「今日は、街で大きな結婚式があったんだ。街中が飾り立てられていてね。まるでお祭りのようだったよ。花嫁のウェディングドレスはそれは見事でね。花嫁も花婿も、街の人もみんなとても幸せそうだったよ。君にも見せてあげたかったよ。」
貝殻の髪留めを塔に上げるための籠にいれながら、若い男は言いました。
「まあ、結婚式なんて素敵ね!誰の結婚式だったの?」
王女様は、貝殻の髪留めにうっとりしながら言いました。
貝殻の髪留めは夕日に照らされて、温かく輝いています。
「大臣の娘の結婚式だったよ」
若い男の言葉に王女様が髪飾りを夕日に翳す手が止まりました。
「素敵な結婚式だったよ。花嫁と花婿は昔、あの嘘つきで意地悪でみんなから嫌われ者の王女様に仲を引き裂かれたことがあったらしいけど、乗り越えたんだって。むしろ愛は深まって、今、二人はとても幸せそうだったよ」
「まあ…、それは…なんて素敵な話なのかしら…」
王女様の声は、震えていました。
それは紛れもなく、怒りのせいでした。
私の追放に加担した、あの大臣の娘が結婚したですって?!
私をこんな薄暗く汚い塔に独りぼっちで追放して、自分は幸せになるですって?!
許せない…!許せるわけない…!
王女様は唇を噛みました。
「でも、あの大臣の娘は、3年前ずっと部屋に引きこもっていたのよ?しかも、一度別れたんだし、結婚してもどうせ同じ過ちを繰り返すに決まっているわ」
王女様は意地悪くそう言いました。
「そんなことを言ってやらないでおやり」
若い男は優しい声で諌めます。
「大臣の娘は元々、明るく、心優しくて大勢の友達がいたらしいじゃないか。とても素敵な娘さんだと、みんな言っていたよ。人のいい面を見つけるのが得意の素直でいい子だってね」
若い男は優しい声でいいました。
若い男の言葉に、王女様は昔のことを思い出します。
確かに、大臣の娘は、とても明るく、心優しい娘でした。
王女様が傷つける前は、王女様の一番の親友として、毎日一緒にいて、お互いの秘密を共有し、一緒に笑合った仲でした。
王女様は大臣の娘と過ごした幸せな日々を思い出すと、急に胸が苦しくなりました。
懐かしさと悲しさと後悔でした。
あんなに幸せだったのに、大臣の娘は私の傍に優しく毎日居てくれたのに、私はそんな彼女に酷い仕打ちをしてしまった。
あんな酷いことをするべきではなかったのだ、そうすれば、きっと今も親友として彼女の幸せを心から喜べたのに…。
王女様は自分が大臣の娘にした酷い仕打ちを反省しました。
「そうね…。私も花売りの頃に、大臣の娘さんに会ったことがあるわ…。優しくて、明るくて、とても親切な方だったわ…。私も彼女が幸せになったのはとても嬉しい」
王女様の言葉に、若い男がにっこりと笑うのを王女様は感じました。
「君が花嫁と花婿の幸せを喜んでくれて嬉しいよ。誰かの幸せを一緒に喜んであげることは、とても素敵なことだ。それができる君は、とても素敵な人だよ」
若い男は優しく王女様に言いました。
若い男はまた明日、会いに来ると約束して帰って行きました。
王女様は、その日、一つ、過去の過ちを反省することが出来ました。