諦めない心
「お前が......魔王なのか.......」
「うふふふ。馬鹿なの勇者! 私以外の他に誰がいるの?」
「だってお前、人間にしか見えないぞ?」
「私は立派な魔族よ。何人もの人を殺した......」
辺りが漆黒の闇に包まれている魔王城。俺は最深部の魔王のいる部屋に到達した。
それにしても信じられない。だって見た目が普通の少女にしか見えないんだぜ?しかもすらっとした体系でとても可愛いし。
俺は勇者の血を引く者。父はいつも俺に「勇者は弱き者を助け、どんな時でも正義を貫きとおすものだ。そして人類に希望とならん」とおっしゃった。
だから俺は昔から正義感がかなり強く、父のような立派な勇者になるために日々猛稽古に励んだ。ずっと続くと思っていた当たり前の日常。だけど、それは長くは続かなかった。魔界より魔物達の侵攻が始まったからだ。それで俺は偉大なる国王陛下から魔物の頂点に君臨する魔王討伐の命を受け旅に出た。
そう、この世界を救うことが俺の使命なんだ。
「何故だ。何故。こんなことをするんだ.......」
「あっははは!!! 下等生物の人間を殺して何が悪いの?」
「っ......お前!!」
だけど俺は......守れなかった。それに、あまりにも犠牲が多すぎた。
俺の仲間は魔王城に来るまでに皆戦死してしまった。いつもツンツンしていたけど、俺が好きだった美少女の魔道士。ほんとにあいつ可愛かった......
それに黙っていたらイケメンの聖騎士。よく意見が合わず喧嘩したっけ。そしてどんなに辛い時でも笑顔を絶やさず、仲間内での調停役だった優しい姉のような僧侶。たくさんの勇気をもらった。
皆......俺の大事な仲間だった。
だけど皆、俺のせいで死んだんだ。俺があの時もっとしっかりしていれば......俺があの時......変わりに死んでいれば......
そして俺は、罪のない人々を助けることも.....出来なかった。
「俺は! 俺は!! 許さない、お前を絶対に」
「よく言うわよ。何も出来なかったくせに」
俺は腰に下げている聖剣、デュランダルを構える。これでお前を使用するのが最後だ。
......頼むぞ。
「久しぶりだな、これを使うのは!」
魔王も腰に下げていた剣を抜く。
確か、あの剣は伝説の邪剣ダークナイト。
噂には聞いていたがほんとにあったとはな。
まあ、良い......俺の実力をみせてやる。
「くらえ!!」
渾身の力を剣に込めて、魔王に向かって走り出す。俺は剣を大きく振り下ろした。剣と剣が激しくぶつかり合う。だが、魔王はそれを糸も簡単に受けとめた。
馬鹿な......その白くて細い腕の何処にそんな力があるんだ!?
「勇者の実力ってこんなものなの?」
魔王がそう発言した瞬間、回し蹴りが俺のみぞおちに直撃した。俺は飛ばされ魔王の部屋の壁に激突する。うっ。これはかなりまずい。口から血を嘔吐する。内臓がやられたのかもしれない。
くそ......
あまりの激痛で立つことが出来ない。勇者とは言え俺は所詮人間だ。魔王は不適な笑みを浮かべ俺に近づいてくる。
「あははは! もう終わりなのかな、勇者? 今さっきの威勢はどうしたのかな?」
「......まだ、終わっちゃいない」
俺は魔王のことを舐めていたようだ。渾身の力で自分を奮い立たせ、何とか立つことが出来た。だが、今さっきの一撃で想像以上のダメージを受けた事は確かだ。短期決戦に持ち込まないと俺に勝てる要素はないかもしれない。
「煉獄」
魔王は魔法を咏唱する。
つっ......ここで魔法が来るとは。巨大な青い炎が俺に襲いかかる。
「......」
駄目だ。早すぎる。わずか数秒の咏唱でこのような魔法を使えるとはな.....体が反応出来ない。俺は目を閉じる。ごめん......ほんとにごめん。皆、俺は魔王を討伐することが出来なかった......そして、皆の希望になることも出来なかった.......
「......勇者!!」
「おい、勇者!!」
「......勇者さん!!」
あれ.......何故だろう。誰かが俺を呼んでいる。
目を覚ますと辺りには見渡す限り一面に草原が広がっていた。空気が澄んでいてとても気持ち良い。しかしここは何処だ? 確か......俺は魔王と戦闘していて......
「何弱気なっているのよ! あたしの分まで頑張りなさいよ!! あんたが諦めたら.......あんたが諦めたら!! 誰がこの世界を救うのよ?」
えっ? その声って......まさか、お前は魔道士なのか?
「勇者。まだ諦めたら駄目だ!! 俺はお前の事を......信じてる!!」
おい!! 返事してくれ!! お前は聖騎士か?
「勇者さんに希望を託した人はたくさんいます。だから勇者さん諦めてはいけません。勇者さんなら......必ず出来ます!」
僧侶......だよな。何処にいるんだ!!
「くっ、眩しい」
目も開けてられないほど眩しい光が俺に降り注ぐ。でも、なんだろう。この光、とても暖かい。そして体に力が満ち溢れてくるようなこの感じ。
「はっ!?」
気がつくと魔王城に戻っていた。俺は光の壁に防がれていて青い炎が届いていない。魔王は何度も魔法を咏唱するが俺は全くダメージを受けていなかった。傷だらけの体だけど、そんなの関係ない。俺は握りこぶしを作った。
魔道士、聖騎士、僧侶、そして俺に希望を託してくれた皆。そう、俺は皆の希望なんだ。絶対に諦めない。
諦めるものか!!
やるよ。
だから......お願いだ。俺のことを見守っておいてくれ。
俺は電光石火の如く、走り出す。魔王は俺にいろんな属性の魔法を討ち放つが全くダメージを受けない。
「なんで!? こいつ......急にどうして!?」
魔王は酷く混乱している。俺はその隙に腰に下げている聖短剣を引き抜いた。
「これで終わらせる!」
俺は魔王に襲いかかる。魔王は邪剣でデュランダルの攻撃を防ぐ。だが魔王は気づいていない。俺がもう一本剣を隠していることを!!
「剣術 二刀流!!」
俺は聖短剣に全力を込め、魔王の腹に突き刺す。魔王はようやく自分の状況を理解したらしいがもう遅い。ひるんだ瞬間を見逃さなかった。俺が聖短剣を引き抜くと魔王から血が噴き出た。
「お、おのれ......人間の分際で......」
魔王も邪剣で抵抗を試みる。だが俺はそれをものともしない。この愛剣デュランダルに全力を込め、大きく振りかぶる。
「これで.......終わりだあああああああああああ!!」
「うっ......」
光を纏った強力なデュランダルの一撃が魔王の体を切り裂く。バタリと倒れた。
俺は両方の剣を鞘に納める。
「皆......ありがとう.......」
俺は悲願の魔王討伐を成し遂げた。
*****
「ただいま戻りました。国王陛下」
俺は魔王を討伐したあと、しばらくして王国に帰還した。今、王宮に魔王討伐の報告をしに来たところだ。
「おお、勇者よ。よくぞやってくれた!! しかし他の者は......」
「魔王討伐の旅で命を......落としました。残ったのはただ私一人だけです。ですが私1人だけの手柄ではありません。4人で成し遂げたものです」
「分かっておる。そなたたち4人は世界を救った英雄じゃからな。 さて今日は祝いじゃ! 勇者も今日は楽しむと良い!!」
*****
日もすかっり暮れ、夜になった。夜空には満点の星空が広がっている。
久しぶりに夜空を見た気がする.......
俺は今、魔王討伐の祝いに参加している。豪勢な食事に飲み物。民も魔王討伐の祝いをしており王国中でパレードのようになっている。大臣には祝福の声を掛けられてばかりだ。まあ、体はまだ痛むが....少しはましになった。
「ん?」
俺のコートの内ポケットから何かがヒラヒラと落ちた。どうやら、穴があいてしまったようだ。
それを拾い上げて気付いたが、少し光を帯びているような気もする。
「こ、これは!?」
光の護符と書かれたお守り。強力な魔力を感じる......
そう言えばこれは確か、魔道士が持っていた大切なお守りだったような......何で俺のポケットに入っているんだ。
「お?」
それともう一つ何か一緒に落ちていたらしい。
「......」
俺の涙腺は崩壊した。
そこには見覚えのあるとても懐かしい、そして可愛らしい字で書かれた一通の手紙があったからだ。
勇者へ
これを読んだ時、あたしたちはもうこの世にはいないかもしれない。聖騎士や僧侶と話し合って決めたことだから。この光の護符はあたしの家に伝わる伝説のお守り。ピンチの時に助けてくれると思う。ごめんね。勇者が寝てる時にこっそり入れちゃった。
この世界を救うのは勿論だけど、あたしたちはあんたを命に変えてでも守る。勇者は皆の希望であると同時にあたしの希望でもあるの。覚えてるでしょ? あたしたちが王国から旅立つ時、皆「勇者様がんばれ!!」って言ってたじゃない。だから、あたしたちが死んでも......悲しまないで。あたしたちはどんな時でもあんたを見守ってる。傍にいてあげるから。だから、どんなに辛くても、どんなに苦しくても諦めないで。諦めない心が大切なの。
そして最後に一言書くわ。
それはあんたに一番伝えたかった事......
いつも素直になれなくてごめんね、あんたのことが大好きだったよ。
「つっ........魔道士......俺も、俺も!! お前のことが大好きだった!!」
俺は満点の星空に向けて大声で叫んだ。
読んで頂き本当にありがとうございました。
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