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第7話「白の平野を統べる者」

ホワイトドレイク。通称コンクリート平野と呼ばれる場所に住む翼の無い大型の四足竜だ。コンクリート平野なる場所は、現実のマップでは市街地ではないことから、一般ユーザから収集した地図データが反映されない区域であるため、コンクリートの岩が散乱している殺風景なマップとなっている。基本的にこういったマップに大型のモンスターが配置される。そのため、都会から離れた田舎の方は大型モンスターの分布地になることが多い。


ベースフロントからは約10kmほどの距離。日本全域を対象に見れば比較的近いことになるが、歩いていくとなるとやはり何時間もかかる。だからプレイヤーは基本的に移動に加速魔法を使って走ったり、飛行魔法を使って飛んで行ったりする。また、瞬時に目的地に移動のできるワープ魔法が存在し、上位プレイヤーはこれを使うことが多い。しかし、ワープは移動する分魔力消費が激しいため、瞬間移動であるにも関わらず近場で使うことが多いのが現状である。


ホワイトドレイクはSAランク。任務ランクは下からF、E、D……A、S、XとありSの中でも同じように細かく区分けされている。SAランクというのはだいたい上位プレイヤーが装備を整えたうえで片手間に討伐しにいくぐらいの難易度だ。デフォルト装備だと武器だけを整えても厳しいくらい。また、S以上は装備を強化するための素材が手に入ることがあるので参加する人数は多い。


僕はそのワープ魔法によりすぐさま任務区域へと到着する。見晴らしのいい、巨大なコンクリートの塊の上へとアバターを出現させた。周りにも続々とほかのプレイヤーが集まり始めてくる。そこにいるのは誰も彼も協力な装備を付けたいわゆるガチ勢だ。流れ作業的に狩りをしている人が多いため、いちいち他人を気にすることなどはなく、特に僕が注目を浴びることがなかったのは幸いだった。こんな服装で戦場に立っている――というか、普通に歩き回っていること自体恥ずかしくてたまらないのだから。もちろん、現実世界とは違うので切り離して考えるべきではあるが。


「おいおい、魔法少女ちゃん着くの早いなあ。シュンヒィまで使えるとは思わなかったよ。僕なんかわざわざ走ってきたのに」


「あ、あぁ。またお前か。走ってきた割には早いな」


「<豪脚>スキルつけているからな。魔法メインで戦っていないからまあこんな感じよ」


「なるほど、まさにホワイトドレイクにはうってつけといった感じか」


「そそ。まあ見てなって俺が一捻りしてやるから」


「そうはいうが……」


いつのまにか人数は参戦人数は100以上。一人あたりの成果など目立つこともないだろう。何人かはもう敵に向かっていっているだろうし、完全に出遅れている。それにここからはまだ敵を視認することができないくらいだ。もう一つ向こうにある岩の向こうだろう。


「あっちみたいだな! よし、行くぞ」


「……」


高く跳躍し、空中に氷の足場を作りながらそこを目指す。近づくにつれ、空気が揺れるような咆哮が響いてくるようになる。


ギュゴオオオオォォォォッォオオオオオ!!!!!!!


何度か跳躍を繰り返したのち岩の上に足をつける。端まで歩き、下を見下ろすとそいつはいた。ホワイトドレイク、高さ18m、尻尾まで含めたは全長60mの巨体だ。


もうすでに幾人ものプレイヤーが回りを囲い込み剣撃、魔法を浴びせている。そのたびにやつは大きく体をうねらせ、爪を薙ぎ払い、尾を振り回している。まさにそこは原始時代よろしくの狩場と化していた。


凶暴な相手ではあるが、大人数で挑んでいるため討伐自体は容易である。だが、全員が無傷で生還できるわけではない。強力な攻撃が当たってしまえばプレイヤー一人一人を確実に駆逐する。だからこその物量戦なのだ。大きなダメージを負ったものはしばらく動けはしないが、ほかのプレイヤーがその間に攻撃する。それの繰り返しによって討伐する。これが大型モンスターのセオリーだ。


「おわあああああ!!!」


ぼーと眺めていると下から一人、男が勢いよく吹っ飛んできた。どうやら尻尾の振り払いを食らったらしい。こんな感じで攻撃を食らえばダメージに関せずとも遠くにぶっ飛ばされること請け合いなのだ。だがその男、少し楽しそうである。まあ、これが現実では絶対に楽しめない大型モンスターの醍醐味でもあるからやむなし。


岩の上には自分以外にも何人かプレイヤーがいる。おそらくSランクに上がりたてのプレイヤーだろう。比較的容易である遠距離攻撃による支援をしていた。だが、決してここが安全というわけではない。


プレイヤーの一人とホワイトドレイクの目が合う。するとホワイトドレイクの背のとげが光り帯電し始め、まもなくプレイヤーに向かい電撃が飛び込んでいった。経験の薄いプレイヤーに避けられるわけもなく、そのそいつは瞬時に真っ黒焦げになってしまった。そう、いくら離れていても敵のヘイトを集めてしまうとこうなる。だから戦わないのであれば何もせず離れたところでぼーっと見ているのが一番安全なのだ。


青年はというと、いつのまにか地上で他のプレイヤーと一緒に大剣を振っていた。まあ、別に自分とは赤の他人なので放っておいても罰はあたらないだろう。こっちは白騎士を探させてもらうことにする。


フィールドを見渡す――が、あの特徴的な鎧は見当たらない。だが、待て。もし僕と同じくグロウリンクの影響を受けているならば、あの鎧を装備できる可能性は低いのではないだろうか。同じような変化を受けたのだとしたら身長が20cm以上伸びているはずだ。どちらにせよ、体躯も変わっているため、同じ容姿をしている可能性は低いとみて間違いない。


それならば、ほかにやつを認識する方法はなにか。それはプレイヤーネームだ。サーチ系の魔法を使えば、アバターのプレイヤーネームを見ることができる。基本的に改名はできないため、つまるところ本人確認が可能だ。


指で魔法陣を描く。この世界では魔法は基本的に魔法陣を使うか魔装を使うことにより発動される。魔法陣とはいわば回路だ。決まった図形、ようするに回路を記述することである一定の効果を得ることができる。そして出来上がった回路に魔力を術名とともに吹き込む。


「デティン!」


視界がサーモグラフィのように青く染まり、その中でアバターたちの名前だけが赤く光る。少し経ってから目の前には入力フォームが現れる、そこに指で白騎士の名前を書く。こうすることにより検索が可能なのだ。


――HISA。それがやつのプレイヤーネームだ。別に彼も最初から白い鎧を着ていたわけではないので、普通の名前がある。白い鎧を着て、実力が頭角を現し始めたころに誰かが白騎士とそう呼び始めたのだ。


もし、このなかに――自分の半径100m以内に白騎士がいたのなら、そこに向かって赤い光の線が伸びるはずだ。


――いないか。まあ、身体が入れ替わってすぐにゲームをするっていうのも異常だから当然といえば当然だ。むしろ自分がおかしいのだ。いや、だからこそ……だからこそ、彼が――彼女が何をしているかが気がかりなのだ。もし、元の身体を取り戻したいならこちらに連絡を寄越すはずだ。電話番号はわかっているだろうからそれは可能なはず。もし白騎士がカレンならば、年端もいかない少女ならば、あんな男の身体になったとしたらすぐにでも元に戻りたくなるだろう。


「なにを……なにをしてるんだろうか」


「お前が何をしてるんだよ! アホ!」


「うえっ!?」


考え事をしている最中、急に罵声を浴びせられる。声の正体はさきほどの青年。いつのまにか岩の上まで戻ってきていたようだ。肩で息をしており、多少疲れているように見える。傷は思ったよりも少ないみたいで、案外優秀なことがうかがえる。装備もいつのまにか対策装備に変えられているようだ。


「アホってなんだよ」


「いや、せっかくSAに挑んでいるんだから一発殴っとけよ。もう三分の二は削ったぞ。規定ダメ与えないと協力報酬入らないんだから、何しに来たんだって感じだろうが」


「別に報酬が欲しくて来たわけではないんだが……」


「なんだそれ。つべこべ言わずやっとけ」


ドンッ。


「あっ」


青年に思いっきり背中をどつかれる。体重が軽いからか、勢いよく崖を超え、宙を舞う。そして、地面へと急降下する!!


「あの野郎! 仮にも女の子の姿をした僕によくもこんなことを!!」


高さは約100m。およそ5秒弱で着地することになるだろう。落下時にはその速度に応じたダメージが入るようになっているので――つまるところ結構痛い。だから、できる限り防ぐに決まっている。


「あぁ……武器は外れていないからこれを使うか……」


安物のロッド<テトラ>を手に出現させる。テトラは四大元素の収拾機構が備わった汎用魔術装備だ。そのため高い威力の魔法は使えないが、あらゆる分野の魔法に対応することが可能なのだ。加えてこれには戦闘用魔法がいくつかプリセットされているので魔法陣無しにそれらの魔法を発動させることが可能だ。


「フェル!」


術名を唱えると同時に光の羽が背中から生えてくる。フェルは飛行魔法だ。自由に宙を飛び回ることができるが、消費魔力も半端ではないのでそうそう戦闘には使えない。気晴らしに街を眺める時ぐらいに使うのが関の山だったりする。


たちまち落下速度は落ち、緩やかに着地する。気が付けば、ホワイトドレイクの真正面に位置していた。


ギュゴオオガアアアアアアアァァァオ!!!!!!!


間近での咆哮が耳に突き刺さる。こいつの鳴き声は顔の正面で受けると直接ダメージを伴うやっかいなものだ。その証拠にじわじわと体力が削られていくのを感じる。また、今の装備に音耐性はなかったようなのでダメージだけでなく軽いしびれも受けてしまった。


そんな颯爽と現れた水着ひらひら魔法少女の姿には一同の視線が集まる。さすがに戦場にでるような恰好ではないし、いままさにピンチのような様相に周りから警告の声が飛び交う。


「おい、嬢ちゃん。危ないぞ、下がれ!」

「そんな装備じゃ一発も耐えられんぞ!」

「どこのクラスタ!? 後で連絡先交換しよう!」

「今助けにいくぞ!」


――三者三様である。心配をしてくれているのだろうが、まあその必要はない。自分はあまり"狩り"は行わないほうだが、それでもほかのプレイヤーよりは腕がたつ自信がある。


「ホワイトドレイクぐらい近距離戦闘でやってやる。ジ・エンダー!」


しびれが取れると同時に大剣を取り出し両手で構え真正面から立ち向かう。派手な格好のせいでヘイトを集めたのかホワイトドレイクはその爪をこちらに振り払ってくる。しかし、瞬時に飛び上がりこれを回避する。そしてその勢いのまま顔面へと剣撃を浴びせていく。縦切り、切り返し、さらに回転切りと連続的に浴びせ、少し距離をとって着地。しかし休む間もなく今度は雷撃が降り注ぐ。その雷柱の間を縫うように走り抜け、今度は腕を切りつけに行った。


ホワイトドレイクは大振りな攻撃が多い。しっかりと見極めれば物理攻撃を回避すること自体はそれなりの瞬発力さえあれば難しくない。問題は雷撃のほうだ。こちらはプレイヤー周辺でランダムに降り注ぐため回避が難しい。しかし、見えない速度で落ちてくるわけではないなので常に走りまわり速力を維持しながら移動すれば一撃一撃を回避することは十分可能だ。それに加えて雷撃に囲まれて逃げ場を失わないように気を付ければ問題ない。


「ぐ、剣が重い……それに、一歩一歩の移動量が少なすぎる。攻撃力も減ってるような気がするけど……これ効いてんのか? 早く終わらせたい……!!」


勢いにまかせ、次々と剣撃をぶつけていく。このような大胆な正面での攻撃はもちろん危険を伴うが、そのかわり敵のヘイトをためやすい。そしてヘイトがたまりきると敵は多くの場合特殊行動に移る。それの誘発を狙うのも作戦というわけだ。


予定通り、遂にホワイトドレイクの怒りは沸点に達したようだ。短く唸り周りのプレイヤーを撥ね飛ばすと、大きく息を吸い込み始める。ブレスを放つ体制だ。僕はそれを確認してから、氷球魔法を浴びせながら退避する。


「ほーやるじゃん、魔法少女」


ホワイトドレイクの放つブレスはホワイトブレスと言われ、雷属性の付与された広範囲攻撃である。まともにくらうとダメージだけではなく、感電を受けてしまいその場を動けなくなってしまう。そして、強力な爪撃を食らいダウン。これが最悪の流れである。今の装備はどうやら感電耐性はついていないようなので、ブレスを食らえば、その場から動けないほどしびれてしまうのは間違いないだろう。


息を吸い切ったホワイトドレイクは遂にブレスを吐き出す。プレイヤーは皆退避し正面から離れている。ドレイクはそのまま首をひねりところかまわずブレスをまき散らす。正面だけではなく、上を向いたり後ろを向いたりするため、動きを観察しないとどこにいてもそれをくらってしまうだろう。僕はやつの頭を注意深くチェックしながら体の後ろへと周る。そこは比較的安全地帯であると同時にこちらの攻撃チャンスの場なのである。


ホワイトドレイクはブレスを吐きながらは俊敏な動きが取れない。そのため、尻尾による強力な薙ぎ払いを受けることはないのだ。だから今尻尾を攻撃すれば――。


「がら空きだ!!!」


自分の他、何人ものプレイヤーが尻尾を攻撃する。それと同時に一斉に遠距離支援者もやつに向かって魔法を放つ。一斉掃射――!。


ギュグワアアァオオオゴゴォォォ……オオ……。


ホワイトドレイクは悲痛な叫びとともに、その巨大な身体を仰け反らせ沈んだ。



モンスター紹介


ホワイトドレイク

背中の高さ18m。そこについている突起も含めると20mほど。尻尾も含めて全長は60mぐらい。肩幅30m。運動場にある200mのトラックに収まるかどうかっていうとわかりやすい?コンクリートに覆われた平野に生息しているので、身体もその色に擬態した明るい灰色になっている。

背中の突起は避雷針になっていて、天気の悪い日とかに雷を受け止めて蓄えるとかなんとか。蓄えた電気はそこから放電する。潜在的に持っている魔力が低い分はそれで補われている。放電は魔力によって軌道をある程度制御するけど、そこまで賢くはないのでわりと狙いはいい加減。

全身はゴムみたいな素材になっていて感電したりはしないらしい。でも傷がつくとそこから感電するので、基本的には硬質な背中からしか放電はしない。

両手にはするどい爪をもっており、プレイヤーに対してひっかきや払いなどを行ってくる。ただ、関節の稼働範囲はそんなに大きくないので、慣れれば簡単によけることは可能。

翼は生えていないので飛ぶことはできない。ジャンプもできない。でも意外と俊敏なため旋回性能はそこそこ高い。トカゲみたいに這うように移動することが多い。

大きな口からは地響きのするほどの咆哮を発する。わずかに魔力を載せているので、プレイヤーが正面から受けると魔力酔いに当てられたり、振動でしびれてしまうことがあり危険。しかし基本的に咆哮を行っているときは動かないので、落ち着いて対処することが重要。

モンスターは追い詰められたり、怒りが頂点に達したりすると特殊行動を行う。ホワイトドレイクはホワイトブレスと言われる雷属性の付与された息を広範囲にまき散らそうとする。その際には顔の正面に気をつけなければならないけれど、背中からの放電も合わせて行われるため広い視野を持つことが重要。ブレス中は比較的尻尾側が安全なため、そこを攻撃する。また、ブレスを終えたら息切れを起こすので一早く尻尾に向かい、ブレス中も含めて攻撃行動ができると一気に片を付けることができる。

ランクはSAと比較的高めに設定されているが、大人数で挑めばまず負けることはないし、慣れればほとんどの攻撃をかわすことができる。ただ、皮膚の装甲が固いので、力や魔力の低い者の攻撃は一切通らず、報酬をもらえる既定のダメージに届かないことが難易度の理由ともいえる。弱点はとくにないので、威力のある攻撃をばんばんと当てられればよい。




アサルトエリアに存在するモンスターは<設定モンスター>と<進化モンスター>の大きく二種類にわけられる。設定モンスターは開発者らが自らがステータスを決めたモンスター。進化モンスターは人口知能を用いて特定ランクのプレイヤーに勝てるよう能力や姿を学習されたモンスター。ホワイトドレイクは設定モンスターに分類される。

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