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第6話「スターター」

黒く、未来的な光沢のあるフレーム。余計な光を目に通さないためのバイザー。通信速度をあげるための有線接続と伝送処理装置。


通称アサルトフロント。アサルトエリアを遊ぶための装置の名称だ。この家にあるのは初期型のとくに仰々しいもの。つけて歩き回ることは想定されておらず、基本は身体の固定できる椅子に座るか、ベッドに寝転がってプレイする。


だが、よく思い出すとこいつは着けたまま立っていた――こういった状態を半ダイブという。完全にアサルトエリアに意識を接続せず、現実世界の五感も一部残した状態だ。現実で身体を動かすとアサルトエリアでも動くという中途半端な状態。とてもゲームをまともにできるような環境ではない。


しかし、白騎士がこの少女で、あのとき僕と戦っていた人物本人なら、あの戦闘技術を半ダイブで行っていたことになる。


そんなことが可能なのか? そんなことをすることになんの意味がある? ――何れにせよやつに直接確認したい。


フロントを装着する。フリーサイズなのでアジャスター付きでも少女にとっては少し大きめだ。動き回るとすぐずれるのでおとなしくベッドに横になる。後頭部には低反発クッションがついているため仰向けが楽である。あまり寝返りは打てないが。


右についている2つのボタンのうち、下にある電源ボタンを押す。瞬間、小さな痺れが全身をかける。一次接続といわれ、脳波や心拍数を計り、可能シンクロレベルを測定しているのだ。バイザーの半透明ディスプレイには初期シンクロ率が表示される。74.5%。だいたい標準よりやや高めの数値。それとともに緑文字でClearと表示されている。問題なくゲームがプレイできるかを表示したものである。


僕は一連のメッセージを確認したあと、電源ボタンの上にある接続ボタンを押す。


先ほどのような小さな痺れが絶え間なく起こる。そしてそれが次第に薄れていくとともに身体の感覚も薄れていく。目を開けているにもかかわらず視界が黒い海に落ちるかのように暗くなっていく。


僕はこの瞬間が結構好きだった。








――ベースフロントへ接続。認証開始。ユーザID、ARIA1209と判断。身体ステータスの確認。良好、更新。エリアビジョンの取得――更新無し。前回のデータを参照中――終了に異常を検知、リスタートポイントをベースフロントに設定、データ修正。以上、アサルトエリアへお連れします――。





少し固いベッドの上、僕は意識を取り戻す。寝ていたような感覚から覚めたばかりであるにもかかわらず、ドーム状の天井より差し込む光からまぶしさを感じるようなことはない。


ベースフロント、すべてのプレイヤーが最初に訪れる場所に僕はいた。


身体を起こす。とくに気だるさも、体の重さも感じることなく立ち上がることができる。


アサルトエリアはヘッドアクセから脳派などにより個人を識別する機能があるので、どのヘッドアクセからでも登録アバターは同じようにアクセスすることができる。そのため僕は再び自身のアバターであるアリアとしてここに立っているのだ。


とりあえず前回が異常状態の心配もあるので、データを一通り確認する。人差し指と親指で丸作り、身体の前で念じる。すると瞬時に丸の中心からホログラムが展開され、自分のステータスが表示された。


――どうやら装備品や取得アイテムなどは以前のまま問題なく引き継がれているようだ。


「よし、とくに問題ないか……」


「おっと? おいおい、こんなところに幼女がいるぞ!?」


データの確認中、何者かがこちらに向かい何かを言ってきた。ここは広い円形の部屋に同心円状にベッドがならんでおり、そこからアバターが目を覚ます。つまり、自分以外ほかのプレイヤーが多くいるのだ。知らない人間に話しかけられることも少なくはない。


だが、待て。幼女だと? 確かにこのアリアは小柄な少女キャラクターだがよくもそんな口が聞けたものだ。仮にもアサルトエリアNo.2であろう僕を知らないというのかこの輩は。


振り返るとそこにいたのは黒いブレザーをアレンジした装備を身に着けている一見若そうに見える少し青みがかった短髪の青年がいた。特に見覚えがないのでロールプレイングを楽しんでいるミドルプレイヤーなのだろう。


「なんだ。僕になにかようか?」


「おぉ、幼女でボクっ子かよ。すげーやつだな。将来が思いやられるぜ」


「……こういう言い方はしたくなかったが、お前、僕を知らないのか?」


「知らないなぁ。俺は初期プレイヤーだけどお前みたいなちっこいやつは初めてみた」


「ちっこいちっこいって……僕を知らないのは100歩譲ったとしても僕と同じくらい小さな身丈のアバターはいっぱいいるだろう。あと初対面の相手に失礼だぞ」


「いやあ、すまんすまん。初めてこんな小さいサイズのアバター見たもんで感動してしまってなあ」


「感動って……」


「いや、だってそのサイズだと元の身体もわりと小学生レベルじゃねえの?」


「はあ?」


アサルトエリアでの身体の特徴はアバターメイクのときに行われる。その際には身長や体重、フェイスや声など自分の好きな身体特徴を設定できるが、元の身体と大きく違う場合うまく操作ができない、もしくは元の身体に悪い影響を与える恐れがあるので元身長のプラスマイナス25cmまでの範囲でしか設定できないようになっていた。


僕は元身長が175cmなので、アリアを限界の150cmに設定している。もちろん、最大設定値の25cmはかなり影響が大きいが、ゲームとしての幅を広げるための開発者側の譲歩らしい。そもそも開発当初は自由に設定できるようにしていたが、極端に離れた値にしたとき、実生活で支障が起きたから制限を設けたのだとか。


とにかく、150cmぐらいだと幼女と言われるには結構微妙なラインのはずだが――いや、まて、なにかがおかしい。今気がついたが装備品が全て外され、デフォルトの体操服みたいな装備になっている。今まで着けていたものは、なぜかサイズ不一致で装備不能になっているようだ。


――サイズ不一致? いやそんな身体サイズがいきなり変わるなんて……あるじゃないか。心当たりが。


思い出した。アサルトエリアのアバターにはとある機能がある。それはグロウリンク機能と呼ばれていて、現実世界での身体変化はアサルトエリアのアバターにも反映されるというもの。


例えば身長が伸びればアバターの身長も伸びる。体重が増えればアバターの体重も増える。そうやって、現実世界の身体との極端な解離を防ぐシステムになっているらしい。


つまりだ――現実世界で身長が減った場合はどうなるかと言えば……。


「な……なな……なんだこりゃああぁぁ!」


アリアの身長は120cmほどになっていた。起動時には気がつかなかったが、明らかに青年との目線の違いが大きすぎる。立ち上がっているにも関わらず首が痛いくらいに見上げているではないか。


「おいおい、どうしたんだいきなり大声なんか出して」


「あ、いや。なんでもないなんでもない」


おもむろに足を動かしてみる。一歩、二歩。三歩歩いてみたところでこけそうになる。重心のバランスが悪いのだ。それに肢体も相対的に短い。以前のアバターには慣れがあったが、これはかなり癖がある。なんせ元身長と50cm以上違うのだから。


……念のため装備の確認をする。人差し指で小さな魔方陣を書くと申し訳程度のカーテンが周りを覆う。簡易フィットルームだ。一応このフィットルームは戦闘報酬なのである程度任務をこなしているプレイヤーしか持っていない。青年もこんな矮小がそれを出したのが予想外だったのか、驚いた顔をする。だが、今は無視だ。


ホログラムのメニューを開き、インベントリを確認する。所持アイテムはこれでアバターとの適正を確認することができるのだが――自分の使っていた比較的強い装備は軒並みにサイズ不一致となっていた。武器に関してはフリーサイズではあるが、適正はほとんどマイナス値に振りきっている。


はっきり言ってやばい。積み重ねてきた努力が今まさに無駄だと掲示されているわけだ。もちろん、ゲームなんてやっているような状況ではないが、最近の自分はココが全てだったのだから……これは存在が否定されたようなものだ。唯一装備できる服は、いつ手に入れたかも思い出せない、フリルがひらひら全開の水着のような何か。首もとには大きなリボンが付いていてさながら魔法少女のよう……。


僕は無言でそれを装備する。少なくともデフォルトの100倍はましなステータスだった。


「おっと出てきたか。ってなんだその装備! 狙い過ぎだろ、デフォルト装備着た初心者かと思いきやいきなりそんな派手な装備にしやがって。なんなんだあんた」


「まあ、なんだ……気にしないでくれ……」


ウーウー!!! ウーウー!!!


落胆しているところにサイレンが鳴り響く。これは集合任務のアラートだ。不定期に強大モンスターが現れ、複数人で討伐を目指すというイベントの開始合図である。


――緊急任務発生、緊急任務発生。エリアAC-C-3にホワイトドレイクが出現。ランクはSA。当該ランクを満たすものは参戦可能。直ちに現地に向かってください――。


「お、近いな。しかもSランってことは強化素材ありか。これはいかなくちゃなぁ」


「……」


白騎士は狩専、つまりこういった討伐任務を常に細々とこなしている。もし彼がログインしているならば……会える可能性は高いかもしれない。


「よし、ほいじゃ行くとしますかあ」


「待て、僕も行く」


「えあ? 魔法少女ちゃん、あんたみたいなちびっこが相手するようなモンスターじゃないぜ? ホワイトドレイクは物理主体の大型モンスター。体重が低いとすぐぶっ飛ばされることで有名だ。しかも背中の突起からは強力な雷撃を放つ。遠距離攻撃にも事欠かないオールラウンダーだ。悪いことは言わないからそこらで散歩でもしてなって」


「そんなことは熟知してる。様子を見に行くだけだ」


「ふーん……まぁ、条件満たしたプレイヤー以外当該区域には入れないし、それ相応の実力はあるんだろうけど……まあそこまで言うなら好きにすりゃいいさ」


「言われなくても」


今のアバター、装備でどこまで戦えるかはわからない。だが、奴に会う必要が僕にはある。だから、ただ向かうだけだ。


小指と親指で丸を作る。強く念じると目の前に地図が表示された。ホワイトドレイクが出現しているエリアは赤く点滅している。僕はそこを軽く指で触れた。すぐさま、身体全体を光の輪が包み込む。瞬間、強い光と共にその場を立ち去った。


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