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第5話「束の間の休息」

風呂から上がったあと、さっそく準備に取りかかることになった。制服や教科書、筆記具やその他必要なものをすべて彩貴が用意してくれるという。その間自分はというとリビングで待っていろと聞かないので仕方なく身体を冷ますことにした。


まだ入ったことのないリビングはやはり新鮮な光景で、そこまで広い部屋ではなかったが、ここも片付けが行き届いており、見た目よりも広く快適に感じた。


ただ、そんなキレイな場所であるにも関わらず異様なものが一つ。テレビボードの上にガラクタの入った小さな箱が置いてある。


件の携帯。ぱっと見ただけで動かないだろうとわかるほどに形が崩れており、修理に出すような考えが出るとは言いがたい代物だった。


それにこれは――明らかに意図的に壊したものだ。全体的にぼろぼろになっているものの、フレームが曲がっていない。つまり垂直から力を受けたことになる。落とした拍子に踏みつけられたとも考えられるが……ヒビが真ん中から入っているように見えるので、故意的なものだろう。これが本人かあるいは他者からなのかはわからないが……。


いじめとかがあったらどうしようか。自分自身、高校、大学と無難なポジションに落ち着いていたため、そんなものの耐性などはない。さっそく不安になってきたのだが――。


――しかし、いくらなんでも暇すぎる。そもそも待っていろとは言ってもリビングにはなにも無いじゃないか。それこそテレビを見てるぐらいしか……。仕方ない、普段つけたりしないが暇つぶしに見てみよう――。


目に付くところにあったリモコンを手にし電源をつけるとはじめに映ったのはバラエティ番組だった。最近話題の芸人が流行のグルメについて語っている。しかし、僕は外であまり食事を取らないのでまったく興味がわかなかった。


適当にチャンネルを回していく。田舎だからなのか6チャンネルしか種類がなかった。しかも半分が地元テレビ。内容はよくわからない地元ロケ。こんなので暇つぶしになるわけがない。


とりあえずテレビはつけたままにして、今度は部屋の探索をしてみることにした。別に自分の家なのだから、彩貴もうるさくは言わないだろう。


この部屋にあるのはテレビボードとその上のテレビ。食卓とキッチン、冷蔵庫などの家電。あと目ぼしいものは本棚くらいだった。


また、途中で止められるのも嫌なので、一番情報がありそうな本棚を最優先に物色する。運がよければこの娘のことが何かわかるものがあるかもしれない。それこそアルバムとか日記とか。


実際に覗いてみると本の背表紙から判断できるのは電話帳、医薬品の本、効率の良い睡眠の本などライフハック関係。ほか僕でも聞いたことのある自己啓発系の本などがあった。あとは漫画が数冊。家には女の子が多いにもかかわらず、少年漫画がおいてあった。


なんというか普通だ。普通で悪いことはないのだが――こういう異常に巻き込まれた身の上だと、どうも肩透かしを食らった気分になる。


まあ、そうか。今は二人暮らしをしているとはいえ、中身はごくごく普通の一般家庭。特段変わったものがおいてあるわけもないか。


探索は諦め、テレビ前のミニソファへと腰を下ろす。少々勢いをつけたため、髪が軽く宙に舞った。なるほど、これが長髪かと軽く感動する。彩貴が丁寧にケアをしてくれたおかげでサラサラヘアーは息を吹き返し、触ってみればその指どおりに鳥肌が立ってしまうほどだ。移動するたびにどこかしらに絡むのはすごく邪魔ではあるが――これは僕の身の振る舞いが悪いだけなのかもしれない。


――。


「お姉ちゃん……ってなにやってんの」


いきなり声をかけられたため、思わず身体をびくつかせてしまう。いつのまにか戻ってきたようだ。いけない、サラサラヘアーに夢中になっていた。


「ふふん。まあわからなくもないけどね。お姉ちゃん、髪だけは完璧だから」


「髪だけって……」


いやいや、容姿も十分なものだろうと思ったが、もしかすると彼女の高校のレベルが全体的に高いのかもしれないし、そもそも僕は女の子の顔など注目してみたことがないのでまともな判断ができないのかもしれない。とりあえずは黙っておこう。


「……で、準備できたんだよね」


「うん、そう。まあとりあえず最初にこれだけ渡しておこうかな」


彩貴が手にしていたのは革の入れ物。分厚さからしておそらく生徒手帳。


「はい、カレンお姉ちゃん。しっかり自分のことぐらいはリサーチしてよね」


「カレン――」


宮階花憐、生徒手帳の裏側にある身分証明証の顔写真横に書かれていた。


「えっと……みやかいかれん、かな」


「それは家ではみやしなって読むんだよ、お姉ちゃん」


「へ、へえそうなんだ……」


「あ、でも学校では苗字で呼ばれることは少ないから注意してね」


「どうして」


「そりゃあ、宮階さんが二人いるからに決まってるでしょ。私はサキ、お姉ちゃんはカレンってみんな呼び分けてたから。でも、私の場合クラスにサキちゃんがもう一人いるからミヤサキって呼ばれたりもするけどね。あ、お姉ちゃんはカレン一人だからカレン呼びが多いと思うよ」


「そ、そう……」


とりあえず、カレンという名前が呼ばれれば自分のことだと注意すればよいのだろう。苗字が同じクラスというのはえてして面倒なものだ。


生徒手帳を一ページめくる。内容は学校の規則について書かれた標準的なものだった。カレンダーや予定表、メモ帳などもついていたが、この娘はとくに特別なことは記載していないようだ。結局、生徒手帳からわかることは名前と、生年月日くらいだけだった。ちなみに8月12日生まれと書いてある。


「これ、ちゃんと持ち歩いてね。 これIC付きだから図書室に入ったりできるの。ほかにもお金もチャージできたりして、便利だし」


「うん、わかったよ」


「で、ほかの用意だけど筆箱とか教科書とかは一応明日の分はかばんにいれておいたから、これは明日確認してくれたらいいよ」


「そ、そう……」


「……」


「えっと、今日って日曜日なんだよね。 普段はなにしてるの」


今日は日曜、しかも昼間である。おそらく、この少女は普段アサルトエリアに入り浸ってばかりだったのだろうが――。彩貴がいる手前、しかも記憶喪失の人間がやることではないだろう。この娘の普段がわからないし、自分の普段も適用できない。


彩貴もわかっていたのだろう。暇をもてあますことが。少し考えた素振りを見せたあと僕に答える。


「私は友達と遊んでるかな。一人のときは漫画を読んでることが多いと思うけど。お姉ちゃんは……まあ、あのよくわからないゲームをやってたよね。とは言ってもはじめたのは結構最近だから、それより前は私と一緒にショッピングに行ってたりもしたよ。それ以外はまあ、自室で漫画でも読んでたんじゃないかな。勉強とかはするほうではなかったよ」


「そうか……えっと、今日はなにすればいいかな」


普通ならば、記憶にまつわるものを調べる、とかになるだろうがこの妹はどう答えるか。いくらなんでも不信感を煽るようなことはしないと思うので、そろそろ何かしら教えてくれると思うが。


「そうだね……お姉ちゃんは記憶取り戻したい?」


「うん、そりゃそうだよ」


そう答えるほかない。実際この少女のことを知らないと学校では困るだろうし。


「じゃあ、あのゲームでもしてたらいいんじゃないかな」


「え!?」


以外な答え、もっとも彩貴から出ないであろう発言だった。この少女は別にアサルトエリアを敵視しているわけではないのか?


「いや、あのゲームが原因で記憶がなくなったのならまたやれば直る可能性もあるかと思って……もちろん、やりすぎはだめだよ! また引きこもりになっちゃうかもしれないし」


「でも、引きこもりなところが記憶じゃないの? それが戻ってしまうことは彩貴はいやじゃないの?」


「ん? 仮に戻ったとしても、一回学校に復帰してしまえば問題ないんじゃないかな。そっちに慣れていくでしょ」


「そういうものかな……」


「私はそうおもってるよ。……まあこう提案したのは、いい暇つぶしが提供できないから仕方なくなんだけどね。別に今日は私も外出するつもりないから寝転がるだけになるだろうし。なにもすることがないなら、暇つぶしとしてはありなんじゃないかな。みんな楽しくやってたし」


「みんな?」


「ああ、友達のことね。学校でもやってる人はやってたから」


「……わかった。ちょっとやってみる」


「嫌なら全然やらなくていいよ。気分も良くなさそうだし、寝ててもいいし」


いや、内心すごくやりたい。もしかすれば、白騎士とコンタクトをとることができるかもしれないし。そうすれば携帯電話がなくても自身の身体の状態を確認できるかもしれない。


「することもないし説明書みながらやってみるよ」


「うん。じゃあ私は自分の部屋にいるから、なにかあったら呼んでね」


「うん――」

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