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第4話「身体」

MMOモノとして書き始めたのですが、おそらく日常パートが多くなりますね

あと戦闘メインより全容を探っていくような話になりそうです

家自体はそんなに広くなかった。よくある集合住宅地の核家族用のコンパクトな家みたいだった。階段を降りて真っ直ぐ進めばさも浴室であると言わんばかりに「bathroom」と書かれたプレートを提げた戸を見つけた。


中を見てみると水回りにしては案外綺麗なもので洗濯機も新品同然に見えるほど、手入れが行き届いているようだった。


掃除をしているのは彩貴か? 両親は? この身体の主が掃除をしてたという可能性もあるが、まあほとんどありえないだろう。


細かく観察するほどでもないのでさっそく脱衣にかかる。別に少女の裸を見たいわけではなく、ただ身体を洗うという目的を達成するだけだ。やましい気持ちは一切ない。もったいぶった方が余計変な気持ちになりかねないので、ここはいさぎよくぱぱっと衣服を放り出すことにする。


引きこもりであろうせいかノーブラだったので上のパジャマ一枚脱ぐだけで真っ裸になった。洗面台の鏡に映るのは凹凸のない身体。スレンダーと呼ぶにはあまりにもこじんまりとした貧相な体躯。要するに幼児体型だった。綺麗だと言うよりは穢れを知らないと言った方がニュアンスが近いかもしれない。


無駄毛はまったくなく、つるつるな肌だ。自分の若い頃を思い出して少しだけうらやましくなる。とはいっても僕の場合はこのころの年齢ではすでに生えていたが。


――アリアが、もし現実にいたのなら、このような姿をしていのかもしれない。この髪の毛が金髪で――そしてツインテールなら。


ふと髪を両手で束ねツインテールにしてみる。鏡に映る姿はより一層幼く見えた。戦うものとしては少々元気のない身体をしている。ちょっとばかしイメージとはずれてるみたいだ。


ふと我に帰る。少女の裸を見ながら僕は何をしているのだろう。遊ぶのもほどほどにしてさっさとシャワーを浴びよう――。


バスルームの戸を開けるともわっとした湯気が一気になだれ込んできた。浴槽にお湯が張ってあるみたいだ。つまり、僕の返事とかはどっちでもよくて、無理矢理にでも風呂に入れさせるつもりだったということだ。


お風呂に入るのには個々の家でルールがあると思うが、一応僕は身体を洗ってから湯に浸かるようにしている。マナーというか、僕自身がなんとなく許せなかったからだ。まぁ、最近はお風呂に入る時間すら短くなっていたからシャワーばっかりだったけれど。


お風呂マットに軽くお湯を掛けてから座る。女の子だからとか気にせず一番楽なあぐらをかいた。


目の前には鏡と小さな台があるが、そこにはシャンプーやらボディーソープやらはたまたそれ以外のなにかのボトルがいっぱいに並んでいた。


正直な話、僕は髪にはあまりこだわりはないのでシャンプーしか使わないし、あってもリンスインシャンプーしか使ったことがない。リンスだやらコンディショナーはなにがどう使うのかもさっぱりだ。この娘は髪だけは一人前に綺麗なのできっとそこらの手入れはきちんとしていたのだろう。


だが申し訳ない。僕はとりあえずシャンプーだけさせてもらうよ。この長さでコンディショナーまでやっているときりがない。だいたい背中の真ん中辺りまでぐらいある髪を、絡まずに泡立てて洗うのは困難極まりなかった。


また、身体を洗うのにしても、肌は簡単に傷つきそうなほど白くてどう扱うべきなのか戸惑うほど。でも、どちらかと言えば不健康にも思える。


どうでも良いことだが、誰かが使った垢擦りタオルを使うのは少し抵抗があった。いくら女の子とかが使ったものだとしてもやはりデリケートなところも洗うだろうし、何が付いてるかわかったものじゃない。ちゃんと洗っているとしても拭えない抵抗感。なんとなく譲れなかった。


あと長い髪が邪魔で仕方ない。水分を吸った髪は背中や胸にべたりとくっついて自由に動けない。とりあえずなるべく邪魔にならないよう、すべて背中に回してから身体につかないよう、身体を反った状態で洗うことにした。


そんなことばかりしてたせいか、女の子の身体を直に触っていると言うのに、あまり味わうことなく呆気なく洗いきってしまった。やはり、煩悩とは違うものでまぎらわすのが一番だ。


とは言ってもなんとなく勿体ない気がしたのでせっかくだから小さな胸を一掴みしてみた。が、残念なことに掴んだというしっかりした感触は得られたとは言えなかった。それに、触られたという感触もいまいち。やはり揉むのよりも揉んでもらうほうがいいのかもしれないな。まぁ、男が気にすることではないが。


身体を洗うという一苦労も終えたのでようやく浴槽へと足を入れる……が、それと同時に戸が開かれた。


「お姉ちゃん。遅くなってごめんね。髪、洗ってあげ……っともう洗っちゃったかな」


「なっ、おまっ」


男なので胸には気は回らず下だけ手で隠してしまう。浴槽を跨ぐ途中だったので、がに股で半身という滑稽な姿を見せてしまった。


当の侵入者はというと腕捲り足捲りの着衣スタイルで扉前に立っており、こちらを笑顔を向けていた。


「ちょっ、いきなり入って来ないでよ。ビックリするでしょ!」


焦りで地が出ないように気を付けながら答える。風呂を覗かれたことなどないため、これで正しいかはわからないが……。 依然、彩貴は笑顔で入ってくる。


「いや~食器の片付けをしてたから一緒のタイミングで入れなくてね。最初から二人で入ろうと思ってたんだけど。お姉ちゃん髪の手入れ雑だから私がしないとだし。んー案の定どうやらカラスの行水みたいだしね~」


なるほど、この娘の髪は妹により手入れされていたのか。ならば納得風呂に何日も入らないような女の子がサラサラの髪を維持してるわけだ。


いや、だからと言ってこの年齢の姉妹で一緒にお風呂はどうかと……変な想像をしてしまう。


落ち着いて一旦湯船に入りきってしまおうかと片足をあげようとするが、彩貴はそれを制止した。


「ストップ! よく見て! まだ泡がついたままだよ。そんな状態で入ったらお湯汚れちゃうよ!」


言われて僕は再度確認する。ぱっと見たところさほど目立ちはしないが、彩貴が髪を指で鋤いたところ、小さな泡が浮いてくる。どうやら重なった髪の中にまだ流しきれていないシャンプーがあったようだ。普段シャワーを上から被っていただけなので気がつかなかった。


いくら自分の身体ではないとは言え、誰かに裸姿のまま応対したくはない……が、指摘されてしまった以上仕方ないので、黙って湯船から足をあげ、洗い場につく。


自然と彩貴に背中を向ける形になった。彩貴はそのまま両手を僕の肩におき、座れと促してくる。先ほどはあぐらをかいていたが見られている手前なので正座にしておいた。ある程度高さがある方が弄りやすいだろうし。


「うんうん。大人しくて結構。じゃあまずは泡を流しきるね」


彩貴はシャワーを手に取り温度を確かめた後、目に入らないよう後ろからゆっくりと湯をかけてきた。やはり手慣れているのか、髪が鋤かれているだけで少し気持ちがいい。


ある程度シャワーを終えると彩貴の手が止んだ。もう解放されたのかと、顔の水分を払い後ろを振り向くと彩貴は再びシャンプーを手につけていた。


「ちょっ、シャンプーは今流したでしょ!?」


「いや、さすがに、これで洗ったはないよ。毛先の方まだべたついてるし……それにいつ入ったかもわからないのにこんな適当な洗い方じゃ私が心配だよ。全部私がやるから、じっとしててね、お姉ちゃん」


「え……」


つまり、失格ということか。結構がんばって洗ったのに少しショックなのだが。いつも5分もかからないところを10分はかけたのに……。


こちらの意思を確認することもなく、彩貴は手を動かす。シャンプーを髪先で軽く泡立てると撫でるように広げていく。このまま丁寧に進めていくのかと思えば今度は頭皮を鷲掴みする。


「髪だけじゃなく、頭皮も怪しいね。せっかくだからもういけるとこまでやっちゃうよ」


さながらマッサージ師のように頭を指の腹で撫でていく彩貴。思わず身震いするぐらい気持ちがよかった。そのあとは、また髪を細かく両手で洗っていき、よくシャワーで流した。


今度こそ解放か、と立ち上がろうとするが、


「待って、コンディショナーもするから!」


「……」








「はい、よし。入っていいよ」


合計20分ほどの末、解放される。長い期間手入れされなかったのだろうとは言え、シャワーだけで湯立ってしまいそうだった。


しかし、せっかくなので湯船には浸かる。僕は背を向けながら浴槽に入った。


「ちょっと、そんなに恥ずかしがらなくていいでしょ? って、髪まとめてない! お湯につかっちゃうでしょ!」


「そんなの入る前に言ってよ……」


あと出し的な注意にうんざりしながらも彩貴の方へ身体を寄せ、処置を待つ。すぐに彩貴はすでについてしまった水分を払ったあと、タオルで髪をまとめ上げてくれた。


「はい、おしまい」


「……はぁ。で、なんでまだいるの? もう用事はないでしょう? ゆっくりさせてよ……」


「いやいや、お話ししたいことがあったから。ちょっとね」


「話?」


彩貴の方に向き返る。少しだけ堅い表情を見せていた。


「お姉ちゃんさ、私が見る限りでもやっぱり記憶無いじゃない。しかも生活面のことを含めても全然。でもさ、前よりは状態がいいと思うの。だからね、普通の生活に戻るチャンスかなって」


以前……この身体の主はおそらく荒れていたのだろうか。少なくともアサルトエリアに心酔していたような身だ。自分で言うのもあれだが、まともだったとは言えないだろう。普通の生活のレベルがどの程度かはわからないが、ここまで真摯に向き合ってくれる妹を無下にすることは心が傷む。出来る限り形だけでも協力はしたい。


だが、自分のことも大事だ。僕としては若い身体が手に入ったのだから何もかも得をしたようなものだが、元の身体がどうなっているのかはやはり気になる。優先的に調べを始めたいのが現状だ。


「普通の生活って、どういう意味?」


「いや、そう身構えることはないよ。普通の学生生活に戻って卒業してもらうだけだから。まだ全然間に合うよ。あ、説明してなかったね。お姉ちゃんさ、最近不登校気味だったの。言って2ヶ月ぐらいだったかな。別にゲームを始めてからじゃなくてもうちょっと前からじわじわと……気がついたら家にいることが多かった」


彩貴の声色が少しだけ暗くなる。とくに僕の返答を待つことなく話を続ける。


「最初はお父さんも心配していて、いろいろと手を回してくれてたんだけど、単身赴任が決まって離れなくちゃいけなくなったんだ。それから……あ、いやなんでもない! とにかく、すぐに準備は出来ると思うから、明日にでも学校に戻ってほしいの。私と同じ学校だからフォロー出来ると思うし」


「いや、待ってよ。記憶がないんだよ? 勉強だってついていけるかわかんないし、友達とか先生とかわからないし」


「仲の良かった友達なら私にもわかるから。それに先生の名前や教室の場所とか席とかも。だから何事もなく戻ってくれさえすれば……」


「それって記憶喪失とは伝えないってこと? こんな宙ぶらりんな状態のなかでなんのサポートも無いまま戻るのは怖いんだけど……人間関係崩しかねないし、ここは皆にある程度フォローしてもらった方が……」


「なにも、なかった!」


彩貴は急に語気を強めて言う。思わず後ろを振り向きその表情を伺う。そこにはわずかに身体を震わせ焦点の定まらない目をした彼女がいた。


「さ、彩貴?」


「お姉ちゃんはちょっと、ちょっとだけきつめの風邪だった。そのせいで少しだけぼんやりするようになったりしたので、記憶違いな発言もたまにするようになった。それでいいじゃない。違和感ないよ? それに変に重い病気だとか記憶喪失だとか言っちゃうと皆気が引けちゃうかもしれないし、尚更学校に行きにくくなるよ。注目集めたくはないでしょ? お姉ちゃんはただ、いつもの学校生活に馴染んでいけばいいの。幸いよく話すような人は少なかったし適当にあしらって情報を聞き出しながら以前と同じような振る舞いを予想すればいいよ。こっちから話題振らなければボロが出ることもないから、あと……」


「ちょっと、彩貴! 落ち着いて! わかった! わかったから!」


「あっ……ごめんなさい」


この娘はなにか闇でも抱えているんだろうか。先ほどの表情はまともな人間のものには見えなかったが。問題があるのは姉の方か、妹の方か……わからないが彩貴の言うことに従っておく方が今は無難だろう。だが、メリットがない。ここは取引だ。


「ごめん、ちょっと、不安だったから否定してたけど、わ、私も自分のこと思い出したいから、学校には戻るよ」


「ほ、本当に! よかった……また引きこもりになったらどうしようかと……」


「ただ、やっぱり一人は不安なの。だから出来る限り彩貴と連絡が取れるようにしたい」


「えっ? どういうこと?」


「携帯、壊れてるって言ったよね。だから新しいのを……」


よし、完璧な流れだ。違和感なく、携帯購入への足がかりを作ったぞ。このまま順調に進めば連絡手段が手に入る……。


「ん? その必要はないよ? だってお姉ちゃんと同じクラスだから」


「へ?」


今、なんと……?


「あ、言ってなかったっけ。私たち双子だよ? 二卵性だからそこまでは似てないけど。だから同い年。んで、今年はたまたま同じクラス。携帯なんてなくても話し放題だから。席も私の前で近いし」


生まれてこの方双子など見たことがなかったので普通に驚く。まさか自分自身がその双子になろうとは。だが食い下がるわけにはいかない。


「よ、よかった~。でも友達とかの連絡先とか取り直したいからやっぱり……」


「ごめん、お姉ちゃん。そもそもの話なんだけど今は二人暮らしでお金がないから……ね?」


「えっと……つまり、我慢と?」


「うん」


「そ、そんな……」


「あ、結構長く浸かっちゃったね! 顔真っ赤だよ。そろそろ出ないと。ほら、早く!」


言われるがまま足をあげる。脱力感が身体をおおい、局部を隠す気力もない。見慣れてるのだろう、とくに彩貴も視線を向けはしない。僕が身体をよろめかせないよう手を引いてくれ、そのまま脱衣場へと向かう。


そのままの流れで髪や身体もタオルで拭いてくれた。自分で出来るが、もう好きにしてくれと言う感じだ。というか、彩貴は嫌じゃないのだろうか。こんな介護紛いなこと。


……いや、好きでやっているのだろう。彩貴の顔は笑顔で満ちている。たぶん姉のことが好きなんだ。


だったら……。あれはなんだったのだろう。入れ替わった瞬間に見た光景。涙を浮かべ懇願する彩貴、それを上から見下ろしていた僕……。


わからない。わからないし、今は知らない方がよさそうだ。彼女も言及を避けている。僕が今彩貴に出来ることはただ学校にいくことで、僕自身に出来ることは……まあ、おいおい考えよう。


どうやらタオルドライも済んだことだし、あとはドライヤーだけ……。


「あ、ちょっと、待って。今日はもうせっかくだからトリートメントもしておくよ! このまま髪乾かすと久しぶりだから荒れそうだしケアはきちんとしないとね。流さないタイプのやつをつけて……」


「……」


前途多難はもう始まっている。



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