プロローグ「ローディング」
たぶんVRMMOもの
よろしくお願いします
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
耳をつんざくような喚き声で僕は意識を取り戻す。朦朧とした意識のなか、目を開くと僕の前には一人の少女がいた。
少女は蹲り、腹を押さえて泣いている。だが、そんな嗚咽を漏らしている苦しそうな状況でも、こちらに向かいなぜか謝り続けていた。
途端身体のバランスが取れなくなり、尻をついてしまう。そもそも自分が立った状態だったいうことに今気がついた。
大きな音を立てて尻餅をついてしまったせいか、余計に彼女を怯えさせてしまった。
「い、いたた……は、ははは……ど、どうかした?」
場を取り繕うため、僕は少女に問いかける。少女は顔を上げるが視線を僅かに反らして言う。
「い、痛いです……。もうやめてください。今日は……今日のところはもう許してください……せめて、あと一回だけで……」
「え? えっと……なにをかな?」
「えっ……」
少女はくいっと首を上げる。その目には涙をいっぱい蓄めていた。僕の顔を確認した途端、呆気に取られたような顔をする。
「お、怒ってない……ですか?」
「いや……怒るもなにも君とは初対面だけど……ん?」
いきなりの光景に僕は気圧されていた。だから、気が付かなかった。自分の声がおかしいことに。そっと喉に手を当てる。そこにあったのはなめらかな曲線――。
自分の置かれている状況を把握しようと必死な僕に関わらず、少女は僕の足にしがみついていた。
「な、なんで、なんで、なんでっ……どうして?」
「え、いや、えっと……」
その剣幕にたじろいでいると少女から耳を疑うような言葉が発っせられた。
「なにかの冗談でしょ! お姉ちゃん!」
「はぁ?」
もちろん、僕は生まれてこの方男として生きてきた。そして、今日もそれを実感していたはずだ……。なのに、その僕にお姉ちゃん?
いくら初対面とは言え、この容姿の僕を女に見間違うか? 数日髭は剃ってなかったし、それに髪だって……。
「あ、れ?」
首筋から指を滑らせ顎を触る。が、同じようにそこはツルツルだった。あり得ない。記憶違いか?
「か、鏡を見せろ」
「え?」
今さらではあるが、ここはさきほどまでいたはずの僕の部屋なんかではないことには気が付いていた。それに関しては目を瞑ろう。
しかし、それ以上のことが今、起きちゃっている気が――。
「お、姉ちゃん……姿見が……」
少女が指差す。その方向には120センチ代の姿見が壁際に立てられていた。そこにはもちろん僕が映っている……はずだった。
しかし、現実に映っているのは苦しがっていたさきほどの少女と……もう一人、ヘッドアクセを被った少女が立っていた。
もう一人の少女は長い黒髪、肌は体調が悪そうに見えるほどの蒼白。ほかには栄養不足気味の細い体型が気になるくらい。しかし、ヘッドアクセについているバイザー型ビジュアライザのせいで顔は隠されてよくわからない。
そして、おそらくその少女の中にいるのは……。
「僕なのか?」
「お、お姉ちゃん? いきなりどうしたの……いつもみたいに……いや、違う! それを望んでるわけじゃないけど! だから、今のは……」
「お姉ちゃん? 僕は君の姉なのか?」
「……えっ?」
ここの切り返しを僕は誤ってしまったと思う。なぜなら、
「お姉ちゃん……記憶喪失なの?」
彼女に面倒くさい勘違いを与えてしまったからだ。
しかし、訂正する気は薄れてしまった。
そこに、涙をためながらも満面の笑みを浮かべる彼女がいたから。
「そう……そうだね。お姉ちゃん、心配しないで。大丈夫、記憶なんてなくたって私たち仲良くなれるよ。私、頑張るから、お姉ちゃんと一緒にっ!」
僕の手を取りぎゅっと強く握る少女。その手はあまりにも冷たく、鳥肌がたってしまうほど。
しかし、それよりも冷たそうな華奢な手の平がそこに包まれていた。