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どうも、魔王のツノを取った責任をとって、結婚することになった聖女です。

掲載日:2026/07/03

よろしくお願いいたします。


 あぁ……、何度見ても立派なツノだ。

 スベスベしているのかな。


 人族と魔族の和平交渉の話し合いの中、聖女として参加した私の視線は魔王、アーノルディオスのツノに釘付けだ。


「何か?」

「あ、いえ……。何でもないです」


 しまった。見過ぎた……。

 なんて思いつつ、一時間ほどの休憩となった。


「聖女ディアナよ。触るか?」

「……えっと、何をですか?」


 休憩用の談話室の前で、アーノルディオスが自身のツノを指差す。


「見てただろ? 人族には、珍しいのかと思ったのだが。気のせいなら、いい」


 長いマントを(ひるがえ)し、向けた背中に、思わず呼びとめる。


「触って、いいんですか!?」


 気になっていた。

 転生し、聖女となり、初めて魔族の姿をみた時からずっと。


「ん……」


 目の前にしゃがんでくれ、そっと手を伸ばす。


 やっぱり、頭皮から直接生えてるんだよね?

 異世界って感じがして、トキメク!!


 あ、思ったよりヒンヤリしてる……。


 ──バチッ!


「えっ!?」


 強い静電気を感じ、慌てて手を離す。


 ──バチバチバチッッ!!


 青白い小さな稲妻(いなずま)は止まらない。

 アーノルディオスのツノから、出続けている。


「えっと、大丈夫ですか?」

「……たぶん」


 アーノルディオスが答えた瞬間、その頭から何かが落ちた。

 とっさに、それを手でつかむ。


「………………え?」


 ツヤツヤしてて、ズッシリと重い。

 視線をアーノルディオスの頭へと向ける。


「あの、これって……」

「ツノだな」


 鮮やかな赤色の瞳をツノに向け、アーノルディオスは淡々と言う。


「も、元に戻ったりとか……」


 そっと、元にあった場所へとツノをのせる。

 が、当然のごとく、くっつかない。


「ツノ、取れた」

「取れたな。聖女ディアナよ、頭の重さのバランスが悪い。もう一つも取ってもらえないだろうか?」


 え? 何を言ってるの?


「取ってくれる謝礼は、ツノでいいか?」

「くれるんですか?」

「いらないからな」


 ん? ということは、ツノはアクセサリーみたいなものなのかな?


「もらえるなら、もらいます。実はすごく大事なものとか、持っていたら命を狙われるとか、ないですよね?」

「特にはない。……あぁ、魔力を貯められるのは、人族にとっては便利かもな」

「つまり、魔王様にとっては、魔力貯蔵は不要だと」


 アーノルディオスは考えるように小さく首を傾げてから、頷いた。


「あると便利だが、なくても困らない。違いは、一瞬で人族を滅ぼせるか、数時間かかるかの差だ」


 あ、うん。

 これはお預かりさせてもらった方がいいかも。


「もう片方も外してくれ」

「承知しました」


 人族の未来のために、やらせていただきます!


「こっちのツノ、持っててもらってもいいですか? 絶対に落とさないでくださいね」


 最初のツノをアーノルディオスに渡し、残っていたもう一本のツヤツヤなツノに触れる。


 ──バチッ! バチバチバチバチッ!!


 青い火花を散らし、もう一本のツノが取れた。


「うむ。頭が軽い。肩こりが解消されそうだ」

「重たいですもんね。あ、ツノのお礼に肩もみでもしましょうか?」


 そう聞いた私に、アーノルディオスは困惑の表情を向ける。


「何故、ツノに頬ずりしてるんだ?」

「へっ!? あ、いや、これはその……」


 無意識、怖い!

 これじゃ、ただの変態じゃないか。


「好きなのか?」

「そ、そうなんです!! 特に魔王様のツノは誰よりも艷やかですよね! このどこまでも深い闇色は気高く、触れれば陶器のように滑らかで、ヒンヤリとした感触はツノの神秘性を引き立てていて、それに──」

「分かった。分かったから、もういい」


 ここからが、いいところなのに……。  

 って、あれ? アーノルディオスの耳が赤い。

 というか、耳が尖ってる。


「耳の尖ってるとこ、骨が入ってるんですか?」

「触るか?」

「……耳、取れませんよね?」

「さすがに取れないだろ。取れたら、耳も聖女ディアナにやる」


 耳は、いらないな。

 何か、怖いし。

  

「ほら……」


 アーノルディオスの大きな手が私の手を掴む。

 また強烈な静電気が来るのでは……と身構えたけれど、何も起きない。


「では、失礼して」


 尖った耳に触れる。


「おぉっ! ちゃんと軟骨が入ってる!! あ、私の耳も良かったら、触ってください!」


 互いの耳をふにふにと触り合う。

 すると、そこへ──。


「魔王様! 午後の話し合いが始まるそうで…………って、ギィアアアアア!! ツノが! 魔王様のツノがぁぁぁぁぁ!!」


 あまりの声量に、互いの耳をふさぎ合う。


「うるさいぞ、ペテルギ。たかが、ツノくらいで」

「たかがツノ!? たかがではございませんぞ!! くそ、聖女め……。だから、私は和平など反対だったのです。魔王様、今からでも人族を我々の支配下に──」

「嫌だ」

「魔王様っ!!」


 足をダンダンと踏みながら、ペテルギと呼ばれた魔物はまた叫ぶ。


「嫌なものは嫌だ。俺の仕事を増やすな。何のための和平だと思ってるんだ」

「何のためですか?」


 思わず聞けば、ペテルギに睨まれる。


「俺の仕事を減らすためだ。魔王とは言っても、雑務ばかりやらされるからな」

「え? 聖女もですよ」


 互いに無言のまま、じっと相手を見る。

 そして頷き合うと、ガシリと握手を交わす。


「聖女、聖女と祭り上げられて、王家がやらかせば矢面に立たされる……。最近では便利屋扱いですよ」

「大変だな。俺もけんかの仲裁(ちゅうさい)や、その後始末(あとしまつ)、それに加えて国家の運営……。人族の支配なんてしてみろ、仕事が倍どころか三倍以上になるってのに、すぐに支配しろとか言いやがる」


「やってられるか!」

「やってられません!」


 アーノルディオスと声が重なる。


「時々、面倒で逃げたくなる」

「私もですよ。聖女やめたい……」

「なら、次は魔王なんてどうだ?」

「ツノが生えるなら、考えておきます」


 そう答えた瞬間、アーノルディオスはツノを掴むと、私の額にくっつけた。


「そんなことしても、くっつきませんよぉ!?」


 え? 何?

 頭、めちゃくちゃ重い!!


「ついたぞ」

「はい!?」


 どういうこと!?

 視線を上げれば、視界に黒い艷やかなツノがある。


「あっ……ぁぁっ……ツノが…………」


 憧れのツノが私の額に……。


 せっかくなので、鏡で見なくては! と思ったその時──。


 バタンっ!


 大きな音がした。

 音の方に首を向けようとするけれど、頭が重くて無理だ。

 とりあえず、ついてしまったツノは手で支えよう。

 そう思って、ツノに触れた。


 ──バチッ!!

 ──バチバチバチッッ!!


 青白い小さな稲妻と共に、私の手には取れたツノがある。


「やはり、聖神力で外せるのか」

「……ということは、私の力で外せて、魔王様の力でつけられる?」

「そうなるな」


 アーノルディオスはそう言いつつ、ペテルギを片手で拾い上げた。


「あ、白目……」

「何だ、寝てるのか」


 ため息をつくと、ペテルギをソファーに寝かせている。


「ペテルギのツノも取るか?」

「いえ、魔王様のツノがあるので、大丈夫です」


「そんなに俺のツノが好きか?」

「大好きです!!」


 そう答えれば、アーノルディオスは悪い顔をして、両手にツノを持つ。


「あぁっ!! 私のツノ!!」


 なんと、自身の頭に戻してしまったのだ。


「ひどいじゃないですか。くれるって言ったのに!!」

「誰もあげないとは言ってないだろ。ツノはやる。ただし、俺付きだ」

「魔王様はいりません。ツノだけください!」


 ツノを取るために手を伸ばすけれど、避けられてしまう。


「話が違います!」

「まぁ、待て。俺の話を聞いてくれ」

「何ですか?」


 ふむふむ。おぉ!!

 なるほど。


「それでいきましょう!!」


 アーノルディオスのツノを再び外すと、それを抱っこして午後の会議へと向かった。



 ***



 扉を開ければ、こちらを見た人や魔族の動きが止まる。

 魔王様の頭を指差す者、ポカンと口を開ける者、魔王様と私の腕の中を何度も見る者など、様々だ。


「「「「「「「「#@¿£#$%9√∆※×€!!!!!!」」」」」」」」


 声にならない悲鳴があがる。


「ま、まままままま魔王様ぁぁ!」

「何だ?」

「何と、おいたわしい……。その女が原因ですね。今すぐ始末を──」


「聖女よ、よくやった! 聖女の力さえあれば、魔王など怖くはないわ。今すぐ、魔王を殺せ!!」


 ほほぅ。アーノルディオスの言った通りだ。

 というか、ツノが取れたからって、アーノルディオスに勝つのは無理。


「始末するな」

「私に死ねと?」


 アーノルディオスと言葉が重なった。


「殺すわけないだろ。和平が結べなくなる」

「…………人族を滅ぼした方が、仕事減るんじゃないですか?」


「聖女、何を言ってるんだ!」


 宰相のおっさんがうるさい。


「それはそうだが、いいのか?」

「和平交渉を水の泡にしようとしたのは、おっさ……じゃなくて宰相です。先にけんかを売ったのは、その男ですから」


 微笑めば、楽しげにアーノルディオスも笑うと牙が見える。

 うむ。何とも攻撃的だ。


「なるほど? で、滅ぼしたことによる利益は何だ?」

「和平を結ぶという手間がなくなり、焼け野原が残ります」

「その土地の管理はどうする?」

「人っ子一人残らなければ、管理は不要かと」


 アーノルディオスの眉間に深いシワができる。


「焼け野原にも管理がいる。魔族の中には勝手に縄張りを作る種族がいるんだ。それに、うっかり人族の生き残りが出てみろ。報復を企てられたら、面倒だろ」

「あー……。駄目ですか」

「考えとしては、悪くないがな」


 人は人で大変だけど、魔族もいろいろと厄介なのかぁ。


「というわけで、人族の宰相殿。今の貴殿の失言と俺のツノを取った罪は、聖女ディアナで許してやる」

「聖女ディアナの命一つで許されるならば……」


 ん? このおっさん、自分の罪を私で払う気か?


「あ゛ぁ?」


 ──ヒュンッ。

 ドゴーン。ガラッガラガラガラ……カラン…………。


 んぇ!? 壁ぇぇぇぇぇえっ!!


「ひ、ひぃぃぃぃ……」


 おっさんが尻もちをつき、這いつくばってきて、私を盾にした。


「面白くない冗談だなぁ? 宰相殿?」


 黒い笑みを浮かべ、アーノルディオスは次の一発を用意する。


「こ、これ以上、壊さないでぇぇ! 後処理が大変なんですっ!」


 アーノルディオスの手の中──球体の中でぐるぐると回っている真っ黒の魔力を指差す。


「それ、しまってください!」

「あ、悪い……」


 アーノルディオスが手のひらを握れば、魔力は消滅した。


「後処理のこと、忘れてた」

「いえ。私のことで怒ってくださり、ありがとうございます」


 赤い瞳を見つめてお礼を口にすれば、アーノルディオスは少し考えた様子を見せたあと、フッと小さく笑う。


「どういたしまして」


 そう言いつつ、伸びてきた指先は私の頭に触れる前に、ピタリと止まる。


「触れてもいいか?」

「静電気が起きないのなら」


 優しく私の頭にアーノルディオスの手がのる。


「聖女ディアナ、あなたは俺の妻となるのだから、これから先、全身全霊で守ると誓おう」


 ……すごい。イケメンが言うと、くさいセリフもサマになるのか。


「では、私は神聖力を駆使して、魔王様が決して死ぬことがないようにしましょう。腕がもげようと、頭が飛ぼうと、心臓さえ止まらなければ、蘇生できますから」

「……さすがの俺も頭が飛べば、心臓が止まる」


 あ、そうなんだ。

 勝手に大丈夫だと思ってた。


「じゃあ、死んでも蘇生できるよう修行します」

「死神召喚しか方法はない。魂を食われるから、止めておけ」


 苦笑しながら、頭をわしわしとなでられる。

 まるで子ども扱いだ。


「あ、あの、魔王様……。妻というのは……」


 恐る恐る、アーノルディオスの配下が話す。


「聖女ディアナだ。ツノを取った責任をとって、俺と結婚してもらう」

「「「「「「「「#@¿£#$%9√∆※×€!!!!!!」」」」」」」」


 声にならない悲鳴が再び室内に響く。


「話はついたし、行くか」

「はい!」


 私はアーノルディオスの妻として、魔族の国──ルディーアへと身一つで向かった。



 ***



「いやー、こんなにうまくいくとは思いませんでした」


 人生初のドラゴンに乗り、ピッタリと真後ろに座るアーノルディオスへと話しかける。


「作戦通りだっただろ? これで、聖女ディアナは人族の国での仕事はなくなったわけだ」

「代わりに魔王様のお仕事を一緒にやりますけどね」

「配下を売り飛ばすゲスと働くよりいいだろ」


 たしかに。

 というか、絶対にアーノルディオスと働いた方がストレスはないと思う。

 何でもかんでも、最後は聖女に何とかさせようとしてこないだろうし。


「ツノ付きですしね!」

「あとで二本とも頭につけてやろうか? 女魔王をしてもいいぞ?」

「え゛! 絶対に嫌ですよ」

「だよな……」


 あ……。今、半分本気だったな。


「魔王様のこと、支えますから」

「……アーノルディオスでいい」

「長いから、ノルでいいですか? 私のことはディアと呼んでください」


 そう言った瞬間、後ろから抱きしめられる。


「ディア……、我が妻。大切にする」

「急にどうしたんですか?」

「人族の国から、たった一人で連れ出したんだ。俺の欲望のために」


 私を抱きしめるノルの腕の力が、ほんの少し強くなる。

 欲望って、大げさだな……と思いつつ、ぽんぽんとその腕をあやすように優しい力でたたく。


「大丈夫ですよ。私は、私の意思でノルの提案にのったんですから」

「…………ありがとう。受け入れてくれて」

「別にお礼を言われるようなことはしてませんよ」


 私はツノがあれば、幸せだしね。

 胸に抱えたツノに頬ずりをする。

 けれど次の瞬間、ツノは私の腕からいなくなった。


「あぁ! ツノ!!」


 振り向けば、ノルの頭にツノが二本。


「没収だ」

「何で!?」

「俺がツノに嫉妬するからだ!!」


 ……ツノに嫉妬?


「ツノに勝るものなどこの世にないのですから、嫉妬は無意味です。返してください!」

「今は嫌だ。ツノばかりじゃなくて、少しは俺も見てほしい」


 ……? 別に無視なんてしていない。


「見てますよ」


 そう答えれば、重たいため息が返ってくる。


「まぁ、いい。やっと手に入れたんだ。これからが勝負だ」


 ツノが、月明かりに照らされてわずかに輝く。

 あぁ、なんて神秘的なんだろう……。


「ほら、もうすぐ着くぞ。あれがルディーア国だ」


 前方には、無数の街明かりが広がっている。


 こうして私は『魔王のツノを取った責任をとって、結婚した』のだった。




 ──End──


  



  

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