どうも、魔王のツノを取った責任をとって、結婚することになった聖女です。
よろしくお願いいたします。
あぁ……、何度見ても立派なツノだ。
スベスベしているのかな。
人族と魔族の和平交渉の話し合いの中、聖女として参加した私の視線は魔王、アーノルディオスのツノに釘付けだ。
「何か?」
「あ、いえ……。何でもないです」
しまった。見過ぎた……。
なんて思いつつ、一時間ほどの休憩となった。
「聖女ディアナよ。触るか?」
「……えっと、何をですか?」
休憩用の談話室の前で、アーノルディオスが自身のツノを指差す。
「見てただろ? 人族には、珍しいのかと思ったのだが。気のせいなら、いい」
長いマントを翻し、向けた背中に、思わず呼びとめる。
「触って、いいんですか!?」
気になっていた。
転生し、聖女となり、初めて魔族の姿をみた時からずっと。
「ん……」
目の前にしゃがんでくれ、そっと手を伸ばす。
やっぱり、頭皮から直接生えてるんだよね?
異世界って感じがして、トキメク!!
あ、思ったよりヒンヤリしてる……。
──バチッ!
「えっ!?」
強い静電気を感じ、慌てて手を離す。
──バチバチバチッッ!!
青白い小さな稲妻は止まらない。
アーノルディオスのツノから、出続けている。
「えっと、大丈夫ですか?」
「……たぶん」
アーノルディオスが答えた瞬間、その頭から何かが落ちた。
とっさに、それを手でつかむ。
「………………え?」
ツヤツヤしてて、ズッシリと重い。
視線をアーノルディオスの頭へと向ける。
「あの、これって……」
「ツノだな」
鮮やかな赤色の瞳をツノに向け、アーノルディオスは淡々と言う。
「も、元に戻ったりとか……」
そっと、元にあった場所へとツノをのせる。
が、当然のごとく、くっつかない。
「ツノ、取れた」
「取れたな。聖女ディアナよ、頭の重さのバランスが悪い。もう一つも取ってもらえないだろうか?」
え? 何を言ってるの?
「取ってくれる謝礼は、ツノでいいか?」
「くれるんですか?」
「いらないからな」
ん? ということは、ツノはアクセサリーみたいなものなのかな?
「もらえるなら、もらいます。実はすごく大事なものとか、持っていたら命を狙われるとか、ないですよね?」
「特にはない。……あぁ、魔力を貯められるのは、人族にとっては便利かもな」
「つまり、魔王様にとっては、魔力貯蔵は不要だと」
アーノルディオスは考えるように小さく首を傾げてから、頷いた。
「あると便利だが、なくても困らない。違いは、一瞬で人族を滅ぼせるか、数時間かかるかの差だ」
あ、うん。
これはお預かりさせてもらった方がいいかも。
「もう片方も外してくれ」
「承知しました」
人族の未来のために、やらせていただきます!
「こっちのツノ、持っててもらってもいいですか? 絶対に落とさないでくださいね」
最初のツノをアーノルディオスに渡し、残っていたもう一本のツヤツヤなツノに触れる。
──バチッ! バチバチバチバチッ!!
青い火花を散らし、もう一本のツノが取れた。
「うむ。頭が軽い。肩こりが解消されそうだ」
「重たいですもんね。あ、ツノのお礼に肩もみでもしましょうか?」
そう聞いた私に、アーノルディオスは困惑の表情を向ける。
「何故、ツノに頬ずりしてるんだ?」
「へっ!? あ、いや、これはその……」
無意識、怖い!
これじゃ、ただの変態じゃないか。
「好きなのか?」
「そ、そうなんです!! 特に魔王様のツノは誰よりも艷やかですよね! このどこまでも深い闇色は気高く、触れれば陶器のように滑らかで、ヒンヤリとした感触はツノの神秘性を引き立てていて、それに──」
「分かった。分かったから、もういい」
ここからが、いいところなのに……。
って、あれ? アーノルディオスの耳が赤い。
というか、耳が尖ってる。
「耳の尖ってるとこ、骨が入ってるんですか?」
「触るか?」
「……耳、取れませんよね?」
「さすがに取れないだろ。取れたら、耳も聖女ディアナにやる」
耳は、いらないな。
何か、怖いし。
「ほら……」
アーノルディオスの大きな手が私の手を掴む。
また強烈な静電気が来るのでは……と身構えたけれど、何も起きない。
「では、失礼して」
尖った耳に触れる。
「おぉっ! ちゃんと軟骨が入ってる!! あ、私の耳も良かったら、触ってください!」
互いの耳をふにふにと触り合う。
すると、そこへ──。
「魔王様! 午後の話し合いが始まるそうで…………って、ギィアアアアア!! ツノが! 魔王様のツノがぁぁぁぁぁ!!」
あまりの声量に、互いの耳をふさぎ合う。
「うるさいぞ、ペテルギ。たかが、ツノくらいで」
「たかがツノ!? たかがではございませんぞ!! くそ、聖女め……。だから、私は和平など反対だったのです。魔王様、今からでも人族を我々の支配下に──」
「嫌だ」
「魔王様っ!!」
足をダンダンと踏みながら、ペテルギと呼ばれた魔物はまた叫ぶ。
「嫌なものは嫌だ。俺の仕事を増やすな。何のための和平だと思ってるんだ」
「何のためですか?」
思わず聞けば、ペテルギに睨まれる。
「俺の仕事を減らすためだ。魔王とは言っても、雑務ばかりやらされるからな」
「え? 聖女もですよ」
互いに無言のまま、じっと相手を見る。
そして頷き合うと、ガシリと握手を交わす。
「聖女、聖女と祭り上げられて、王家がやらかせば矢面に立たされる……。最近では便利屋扱いですよ」
「大変だな。俺もけんかの仲裁や、その後始末、それに加えて国家の運営……。人族の支配なんてしてみろ、仕事が倍どころか三倍以上になるってのに、すぐに支配しろとか言いやがる」
「やってられるか!」
「やってられません!」
アーノルディオスと声が重なる。
「時々、面倒で逃げたくなる」
「私もですよ。聖女やめたい……」
「なら、次は魔王なんてどうだ?」
「ツノが生えるなら、考えておきます」
そう答えた瞬間、アーノルディオスはツノを掴むと、私の額にくっつけた。
「そんなことしても、くっつきませんよぉ!?」
え? 何?
頭、めちゃくちゃ重い!!
「ついたぞ」
「はい!?」
どういうこと!?
視線を上げれば、視界に黒い艷やかなツノがある。
「あっ……ぁぁっ……ツノが…………」
憧れのツノが私の額に……。
せっかくなので、鏡で見なくては! と思ったその時──。
バタンっ!
大きな音がした。
音の方に首を向けようとするけれど、頭が重くて無理だ。
とりあえず、ついてしまったツノは手で支えよう。
そう思って、ツノに触れた。
──バチッ!!
──バチバチバチッッ!!
青白い小さな稲妻と共に、私の手には取れたツノがある。
「やはり、聖神力で外せるのか」
「……ということは、私の力で外せて、魔王様の力でつけられる?」
「そうなるな」
アーノルディオスはそう言いつつ、ペテルギを片手で拾い上げた。
「あ、白目……」
「何だ、寝てるのか」
ため息をつくと、ペテルギをソファーに寝かせている。
「ペテルギのツノも取るか?」
「いえ、魔王様のツノがあるので、大丈夫です」
「そんなに俺のツノが好きか?」
「大好きです!!」
そう答えれば、アーノルディオスは悪い顔をして、両手にツノを持つ。
「あぁっ!! 私のツノ!!」
なんと、自身の頭に戻してしまったのだ。
「ひどいじゃないですか。くれるって言ったのに!!」
「誰もあげないとは言ってないだろ。ツノはやる。ただし、俺付きだ」
「魔王様はいりません。ツノだけください!」
ツノを取るために手を伸ばすけれど、避けられてしまう。
「話が違います!」
「まぁ、待て。俺の話を聞いてくれ」
「何ですか?」
ふむふむ。おぉ!!
なるほど。
「それでいきましょう!!」
アーノルディオスのツノを再び外すと、それを抱っこして午後の会議へと向かった。
***
扉を開ければ、こちらを見た人や魔族の動きが止まる。
魔王様の頭を指差す者、ポカンと口を開ける者、魔王様と私の腕の中を何度も見る者など、様々だ。
「「「「「「「「#@¿£#$%9√∆※×€!!!!!!」」」」」」」」
声にならない悲鳴があがる。
「ま、まままままま魔王様ぁぁ!」
「何だ?」
「何と、おいたわしい……。その女が原因ですね。今すぐ始末を──」
「聖女よ、よくやった! 聖女の力さえあれば、魔王など怖くはないわ。今すぐ、魔王を殺せ!!」
ほほぅ。アーノルディオスの言った通りだ。
というか、ツノが取れたからって、アーノルディオスに勝つのは無理。
「始末するな」
「私に死ねと?」
アーノルディオスと言葉が重なった。
「殺すわけないだろ。和平が結べなくなる」
「…………人族を滅ぼした方が、仕事減るんじゃないですか?」
「聖女、何を言ってるんだ!」
宰相のおっさんがうるさい。
「それはそうだが、いいのか?」
「和平交渉を水の泡にしようとしたのは、おっさ……じゃなくて宰相です。先にけんかを売ったのは、その男ですから」
微笑めば、楽しげにアーノルディオスも笑うと牙が見える。
うむ。何とも攻撃的だ。
「なるほど? で、滅ぼしたことによる利益は何だ?」
「和平を結ぶという手間がなくなり、焼け野原が残ります」
「その土地の管理はどうする?」
「人っ子一人残らなければ、管理は不要かと」
アーノルディオスの眉間に深いシワができる。
「焼け野原にも管理がいる。魔族の中には勝手に縄張りを作る種族がいるんだ。それに、うっかり人族の生き残りが出てみろ。報復を企てられたら、面倒だろ」
「あー……。駄目ですか」
「考えとしては、悪くないがな」
人は人で大変だけど、魔族もいろいろと厄介なのかぁ。
「というわけで、人族の宰相殿。今の貴殿の失言と俺のツノを取った罪は、聖女ディアナで許してやる」
「聖女ディアナの命一つで許されるならば……」
ん? このおっさん、自分の罪を私で払う気か?
「あ゛ぁ?」
──ヒュンッ。
ドゴーン。ガラッガラガラガラ……カラン…………。
んぇ!? 壁ぇぇぇぇぇえっ!!
「ひ、ひぃぃぃぃ……」
おっさんが尻もちをつき、這いつくばってきて、私を盾にした。
「面白くない冗談だなぁ? 宰相殿?」
黒い笑みを浮かべ、アーノルディオスは次の一発を用意する。
「こ、これ以上、壊さないでぇぇ! 後処理が大変なんですっ!」
アーノルディオスの手の中──球体の中でぐるぐると回っている真っ黒の魔力を指差す。
「それ、しまってください!」
「あ、悪い……」
アーノルディオスが手のひらを握れば、魔力は消滅した。
「後処理のこと、忘れてた」
「いえ。私のことで怒ってくださり、ありがとうございます」
赤い瞳を見つめてお礼を口にすれば、アーノルディオスは少し考えた様子を見せたあと、フッと小さく笑う。
「どういたしまして」
そう言いつつ、伸びてきた指先は私の頭に触れる前に、ピタリと止まる。
「触れてもいいか?」
「静電気が起きないのなら」
優しく私の頭にアーノルディオスの手がのる。
「聖女ディアナ、あなたは俺の妻となるのだから、これから先、全身全霊で守ると誓おう」
……すごい。イケメンが言うと、くさいセリフもサマになるのか。
「では、私は神聖力を駆使して、魔王様が決して死ぬことがないようにしましょう。腕がもげようと、頭が飛ぼうと、心臓さえ止まらなければ、蘇生できますから」
「……さすがの俺も頭が飛べば、心臓が止まる」
あ、そうなんだ。
勝手に大丈夫だと思ってた。
「じゃあ、死んでも蘇生できるよう修行します」
「死神召喚しか方法はない。魂を食われるから、止めておけ」
苦笑しながら、頭をわしわしとなでられる。
まるで子ども扱いだ。
「あ、あの、魔王様……。妻というのは……」
恐る恐る、アーノルディオスの配下が話す。
「聖女ディアナだ。ツノを取った責任をとって、俺と結婚してもらう」
「「「「「「「「#@¿£#$%9√∆※×€!!!!!!」」」」」」」」
声にならない悲鳴が再び室内に響く。
「話はついたし、行くか」
「はい!」
私はアーノルディオスの妻として、魔族の国──ルディーアへと身一つで向かった。
***
「いやー、こんなにうまくいくとは思いませんでした」
人生初のドラゴンに乗り、ピッタリと真後ろに座るアーノルディオスへと話しかける。
「作戦通りだっただろ? これで、聖女ディアナは人族の国での仕事はなくなったわけだ」
「代わりに魔王様のお仕事を一緒にやりますけどね」
「配下を売り飛ばすゲスと働くよりいいだろ」
たしかに。
というか、絶対にアーノルディオスと働いた方がストレスはないと思う。
何でもかんでも、最後は聖女に何とかさせようとしてこないだろうし。
「ツノ付きですしね!」
「あとで二本とも頭につけてやろうか? 女魔王をしてもいいぞ?」
「え゛! 絶対に嫌ですよ」
「だよな……」
あ……。今、半分本気だったな。
「魔王様のこと、支えますから」
「……アーノルディオスでいい」
「長いから、ノルでいいですか? 私のことはディアと呼んでください」
そう言った瞬間、後ろから抱きしめられる。
「ディア……、我が妻。大切にする」
「急にどうしたんですか?」
「人族の国から、たった一人で連れ出したんだ。俺の欲望のために」
私を抱きしめるノルの腕の力が、ほんの少し強くなる。
欲望って、大げさだな……と思いつつ、ぽんぽんとその腕をあやすように優しい力でたたく。
「大丈夫ですよ。私は、私の意思でノルの提案にのったんですから」
「…………ありがとう。受け入れてくれて」
「別にお礼を言われるようなことはしてませんよ」
私はツノがあれば、幸せだしね。
胸に抱えたツノに頬ずりをする。
けれど次の瞬間、ツノは私の腕からいなくなった。
「あぁ! ツノ!!」
振り向けば、ノルの頭にツノが二本。
「没収だ」
「何で!?」
「俺がツノに嫉妬するからだ!!」
……ツノに嫉妬?
「ツノに勝るものなどこの世にないのですから、嫉妬は無意味です。返してください!」
「今は嫌だ。ツノばかりじゃなくて、少しは俺も見てほしい」
……? 別に無視なんてしていない。
「見てますよ」
そう答えれば、重たいため息が返ってくる。
「まぁ、いい。やっと手に入れたんだ。これからが勝負だ」
ツノが、月明かりに照らされてわずかに輝く。
あぁ、なんて神秘的なんだろう……。
「ほら、もうすぐ着くぞ。あれがルディーア国だ」
前方には、無数の街明かりが広がっている。
こうして私は『魔王のツノを取った責任をとって、結婚した』のだった。
──End──
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