005:慣れ
《ミスター。レベル20に到達しました》
(そうだったのか……)
ステイタス画面を開き、確認する。
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#[ステイタス]
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# レベル:0020
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# >>能力値
# >>操作候補(暫定)
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表示された数値を見ても、心は動かない。
達成感と呼べるものが無い。
私の興味が“数値目標”から、“最適解”へと変わったのだ。
勝てた戦いは、ほとんど覚えていない。
苦戦した戦いも、輪郭が曖昧だ。
はっきりと思い出せる戦闘、相手の逆転の一手にやられた――あの戦闘だ。
《戦闘VRシステムの終了を提案します》
エーアイの淡々とした報告を聞いて、ようやく気づいた。
私は、強くなったのではない。
“慣れただけ”なのだ。
◇◇◇
ベッドがひとつ。
正面には、大型モニターを思わせる黒い壁。
空間を埋めるかのように設置された、広めテーブルと椅子ひとつ。
テーブルの上には、業務用のコーヒーマシン。
ここは天空パレスの休憩室。私のために、エーアイが用意してくれた部屋だ。
ベッドに横たわり、こぼさないようにエスプレッソを一口飲む。
「久しぶりだな、この苦み」
私の体温で暖められたベットのシーツから、生きているかのような熱を感じる。
救えた命、救えなかった命。
いつしかそこには、“あの戦闘”を思い出す、私がいた。
◇◇◇
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#[戦闘VRシステム]
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# LV:0004
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# 対象:犯行グループ
# 敵数:6
# 場所:電車
# 特記:非公表
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# [開始]/[戻る]
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犯行グループ数が六ではなく、構成人数が六であることは、事前確認済み。
特記が“非公表”になっているが、戦闘を有利に進めていくうえで、これが“最大のヒント”というよりも、“回答”そのものであることに気づけなかった。
そのうえ、場所が“車両ではなく電車”になっている点も、重要なヒントだったが、これも疎かにした。
つまり、ゾンビ、狂人のように単体を表す言葉から、犯行グループという集団を表す言葉に変化したことで、エーアイの思惑どおりに、“犯行グループ”へ意識が集中するよう誘導されてしまったのだ。
◇◇◇
電車の最後尾、近くに座席がない位置に立つ。
隣の車両との連結ドアは私から最も遠い場所。
車両はロングシート。
私以外の乗客は全員座っている。
スマホを握ったまま目を閉じているサラリーマン。
紙袋を抱え、背中を丸めて座る女性。
本を読みながら眠ってしまった女子高生。
小声で話している女性観光客の団体。
イヤホンをつけ、窓の外をぼんやり眺めている大学生らしき男。
電車は直線を走っているにもかかわらず、車両は頻繁に揺れていた。
この乗客の中に犯行グループのメンバーがいるとは思えないな、と思った矢先、連結ドアから五人の若い男性が入ってきた。
彼らが犯行グループである確証はない。私は彼らと視線を合わさず、何も気がつかないふりをして横目で行動を監視する。
犯行グループのリーダーだと思われる男が、獲物を探すように車内全体を見渡している。
「おい、撮れよ。今日のミッション、ここでやるから」
スマホを構えた若者が、車内をぐるりと撮り始める。
「おい、オッサン。財布出せよ」
一人の若者が、眠っていたサラリーマンの顔を殴り、胸ぐらを掴んだ。
サラリーマンは目を覚まし、状況を理解できずに震えている。
「や、やめてくれ……」
「は? 聞こえねぇな。撮ってるからさぁ~。もっと、いい顔しろよぉ~」
スマホのライトが、サラリーマンの怯えた顔を照らす。
どう考えてもレベル4には見えない。少なくともレベル2の狂人よりも強いとは思えない。本当の犯行グループは他にいる? サラリーマンは演者? 罠か?
私はぐっと堪え続けたが、やはり気分が悪い。
体が自然と動きだす。
私は敵に気づかれない速度で歩き出した。
走らない。
遠距離攻撃もしない。
他の乗客を巻き込まないために。
「なに見て――」
言葉が終わる前に、私は相手の手足を粉砕した。
殺さない程度の手加減は難しい。
サラリーマンは呆然と私を見ていたが、説明している暇はない。
「おい、何してんだテメェ!」
別の敵がマチェットを取り出し、振り回そうとしている。近くには怯えた女性が身を伏せている。
私は人がいないほうへ、敵を風で吹き飛ばす。
その反動で、マチェットの刃が敵に当たる。
(あ、想定外だ)
悲鳴が車内に響く。
「おい、お前らも撮れよ! こいつ倒したら再生数伸びるぞ!」
二人の敵が、左手にスマホ、右手に銃を持ち、笑いながら私に向けてくる。
もはや人間の顔ではない。
もう一人の敵は、女子高生を抱き寄せ、頭に銃口を向けながら、恍惚とした笑みを浮かべている。
車内は混乱している。
泣き出す女性、
震える大学生、
立ち上がれないサラリーマン。
私は一言つぶやいた。
「凍れ」
敵が持つ銃とともに手を凍らせたまま、心臓を数秒間凍らせて失神させた。
マチェットの刃が当たった敵の傷口も、ついでに凍らせたので、死ぬことはないだろう。
(最後の一人の敵は、どこだ?)
気づいたときには、すでに遅し。
大きな爆音とともに、車内は大きな炎とガスに包まれた。
――敗北確定、戦闘終了。
◇◇◇
犯行グループは六人。
内、私が倒したのは実行犯の五人。
そして、黒幕が一人。
黒幕は、実行犯を裏で操っていただけではなく、万一に備え、実行犯の口封じを含んだ、証拠隠滅をも準備しておいたのだ。
一般人を巻き込まないよう、“最適解”を求めたはずが、逆に黒幕への対応を後回しにしたこと、そのうえ、乗客全員が敵だと疑わなかったことによって、救える命を救えなかった。
◇◇◇
数時間後、江戸東街区中央公園のゴーストに再戦する。だが、ゴーストは私を満足させないだろう。
隠さずに正直に言おう。
私の中で、すでに公園も“処理対象”なのだ。




