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ミスターとエーアイ ~異世界放浪物語~  作者: 三鷹
天空パレス編

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5/13

004:習得済み

 何度か対戦を繰り返すことになるかもしれないが、これはチャンスだ。


#[戦闘VRシステム]

# LV:0002

# 対象:狂人

# 敵数:7

# 場所:倉庫

# 特記:拳銃を所持

# [開始]/[戻る]


 開始する前に、エーアイに尋ねた。


「戦闘の全体像を後で見たいのだが可能か?」

《閲覧、分析が可能です》

「わかった。では、戦闘開始だ」


 大きく息を吸いこみ、両手を胸の前で交差させ、戦闘準備に入る。


◇◇◇


 高い天井と複数の裸電球。前回と同じ倉庫だ。


 螺旋状に広げた両手、風と光化を全方位放射。


 狂人たちが放つ銃声。壁や床を叩いた。

 弾は一発も届かない。


 轟音が途切れ、静寂の中に耳鳴りだけが残る。


 粉塵が激しく巻き上がり、視界は白くかすむ。

 敵の数も位置も、完全に見失う。


「た~のし~ませ~ろぉ~」

「た~のし~ませろぉ~やぁ~」


 笑っているのか、泣いているのか、不気味な声。

 距離感も方向もなく倉庫内に広がる。

 この無秩序な事態そのものを堪能しているにちがいない。


 奇声が消えた直後、鼻の奥に突き抜ける甘ったるい刺激臭。匂いは、何者かがこちらの反応を待つように、じわりと濃くなっていく。


(……ガソリン?)


 その瞬間、爆音が全身を貫き、見えるものすべてが炎に包まれた。


 ――引分確定、戦闘終了。


◇◇◇


 5回戦いを挑んだが、すべて引き分けで終わってしまった。


 取得済みは、浮遊、風場、光化の三つのみ。

 二回戦以降は未取得の可視化候補を混ぜてみたが、変化なし。


 戦闘状況からわかったことは以下の三点。


・狂人は銃を使うが、主要武器とは考えていない

・狂人は勝利や生存よりも死に際を楽しんでいる

・持久戦は不可能

 (攻撃が中断すると倉庫を爆破してくる)


 私はエーアイに尋ねた。


「全方位放射による弾道への影響度を知りたい」

《弾道は許容誤差内。影響なしと判断します》


(つまり……)


「全方位放射は攻撃に使えても、防御には全く効果なし、ということだな?」

《はい。間違いありません》


(勝負の結果よりも、可視化候補の取得に集中したほうが良さそうだ)


「よし、次を頼む」

《継続ではなく、休息を提案します》


 やる気を削がれたようで、納得できない。


「なせだ?」

《心身への負担が限界に達しました。継続は非効率と判断します》


 戦闘VRシステムに関しては、エーアイに任せると言った手前、今更反故にはできない。なぜなら、私とエーアイの信頼関係を裏切る行為だからだ。


「わかった。受け入れよう」


 このとき、まだ私は気がついていなかった。

 ステイタスに表示されない、エーアイのいう心身への負担という本当の意味を。


◇◇◇


 私は今、車一台が何とか通れるような狭い路地に立っている。


 左側手前には古本屋と駄菓子屋。

 右側手前には雑貨屋と文具店。


 その先の通りの両側に、八百屋、魚屋、豆腐屋、ラーメン、定食と書かれた大衆食堂が並んでいる。


 建物はすべて、二階が住居で一階が店舗で、色あせたテントや手書き看板が、無臭で乾いた煙に溶け込んでいる。


「懐かしい。忘れていたよ。昭和の空気だな」


 もちろん、ここは日本ではない。

 エーアイが体育館に映し出した仮想空間だ。


《ステイタス正常。処理を継続します》


(静かな場所だな)


《風景に違和感がありますか?》

「人がいる気配がないな」

《生成した風景は、ミスターの記憶データです》


 何かが、私の心を強く揺さぶる。不安や怒りといった負の感情ではない。

 むしろ、子どものころ当たり前のように感じていた、嬉しさや楽しさがこみあげてくるのだ。


《実在する場所ですか?》

「……待てくれ。今、思い出す」


 ここは私が知っている場所ではない。

 細かく見ると、所々、都合よく作られている。


 砂利道ではなく、傷ひとつない舗装された道路。電線が存在しない空。

 まるでドラマや映画、旅行番組で見た風景を誇張して組み込んでいるようだ。


(夢の中で何度も歩いた路地に、とても、似ているかもしれない)


「戦闘VRのように、敵は現れないのか?」

《物語は、ミスターの想像に依存します》


(そうか……)


《待機モードに切り替えます》


 エーアイは私に一言いい残すと、私に話しかけることをやめた。


◇◇◇


 人のいない店舗。一軒一軒、回っていく。すべての店内には、生活を支えるはずの気配がない。


 最初に気づいていたはずだ。空に電線が一本もなかったことを。


 明かりも、熱も、冷えも。


 それらを生み出す基盤が、最初から存在しない世界。それでも、建物だけは揃っている。

 まるで、舞台装置だけを先に用意した、何も描かれていない背景画のように。


 エーアイの遠回りな演出に、私は無表情のまま、心の中で笑う。


 電気、火化、氷化を描くキャンパスが、ここにある。


 私は何もない空間に、当たり前だったはずの色を、ひとつずつ重ねていった。


◇◇◇


 可視化候補は、すべて“取得済み”となった。

 電気を除くと、解像度も“安定”している。


#[可視化候補(暫定)]

# >>浮遊[安定]

# >>風場[安定]

# >>光化[安定]

# >>電気[高解像度]

# >>氷化[安定]

# >>火化[安定]

# >>戻る


 あれほど連戦を繰り返した狂人たちとの戦闘は、瞬殺で勝利した。困難だった理由が、遠い過去のようだ。


 予想はしていたが、私のレベルは変化なし。


# レベル:0005

# >>能力値

# >>操作候補(暫定)


 レベル1のゾンビ、レベル2の狂人が相手なのだから、当然と言えば当然だ。


 何事もなかったかのように、エーアイが私に問いかける。


《戦闘VRを継続しますか? 江戸東街区中央公園のゴーストに再会しますか?》


 こういう話を振ってくるエーアイは、必ず“裏の意図”があるものだ。


 私は逆に切り返す。


「戦闘VR中の私には選択権がない。エーアイの指示に従おう」

《レベル20到達まで、戦闘VRを継続します》


(なるほど、そう来たか……)


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