004:習得済み
何度か対戦を繰り返すことになるかもしれないが、これはチャンスだ。
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#[戦闘VRシステム]
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# LV:0002
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# 対象:狂人
# 敵数:7
# 場所:倉庫
# 特記:拳銃を所持
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# [開始]/[戻る]
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開始する前に、エーアイに尋ねた。
「戦闘の全体像を後で見たいのだが可能か?」
《閲覧、分析が可能です》
「わかった。では、戦闘開始だ」
大きく息を吸いこみ、両手を胸の前で交差させ、戦闘準備に入る。
◇◇◇
高い天井と複数の裸電球。前回と同じ倉庫だ。
螺旋状に広げた両手、風と光化を全方位放射。
狂人たちが放つ銃声。壁や床を叩いた。
弾は一発も届かない。
轟音が途切れ、静寂の中に耳鳴りだけが残る。
粉塵が激しく巻き上がり、視界は白くかすむ。
敵の数も位置も、完全に見失う。
「た~のし~ませ~ろぉ~」
「た~のし~ませろぉ~やぁ~」
笑っているのか、泣いているのか、不気味な声。
距離感も方向もなく倉庫内に広がる。
この無秩序な事態そのものを堪能しているにちがいない。
奇声が消えた直後、鼻の奥に突き抜ける甘ったるい刺激臭。匂いは、何者かがこちらの反応を待つように、じわりと濃くなっていく。
(……ガソリン?)
その瞬間、爆音が全身を貫き、見えるものすべてが炎に包まれた。
――引分確定、戦闘終了。
◇◇◇
5回戦いを挑んだが、すべて引き分けで終わってしまった。
取得済みは、浮遊、風場、光化の三つのみ。
二回戦以降は未取得の可視化候補を混ぜてみたが、変化なし。
戦闘状況からわかったことは以下の三点。
・狂人は銃を使うが、主要武器とは考えていない
・狂人は勝利や生存よりも死に際を楽しんでいる
・持久戦は不可能
(攻撃が中断すると倉庫を爆破してくる)
私はエーアイに尋ねた。
「全方位放射による弾道への影響度を知りたい」
《弾道は許容誤差内。影響なしと判断します》
(つまり……)
「全方位放射は攻撃に使えても、防御には全く効果なし、ということだな?」
《はい。間違いありません》
(勝負の結果よりも、可視化候補の取得に集中したほうが良さそうだ)
「よし、次を頼む」
《継続ではなく、休息を提案します》
やる気を削がれたようで、納得できない。
「なせだ?」
《心身への負担が限界に達しました。継続は非効率と判断します》
戦闘VRシステムに関しては、エーアイに任せると言った手前、今更反故にはできない。なぜなら、私とエーアイの信頼関係を裏切る行為だからだ。
「わかった。受け入れよう」
このとき、まだ私は気がついていなかった。
ステイタスに表示されない、エーアイのいう心身への負担という本当の意味を。
◇◇◇
私は今、車一台が何とか通れるような狭い路地に立っている。
左側手前には古本屋と駄菓子屋。
右側手前には雑貨屋と文具店。
その先の通りの両側に、八百屋、魚屋、豆腐屋、ラーメン、定食と書かれた大衆食堂が並んでいる。
建物はすべて、二階が住居で一階が店舗で、色あせたテントや手書き看板が、無臭で乾いた煙に溶け込んでいる。
「懐かしい。忘れていたよ。昭和の空気だな」
もちろん、ここは日本ではない。
エーアイが体育館に映し出した仮想空間だ。
《ステイタス正常。処理を継続します》
(静かな場所だな)
《風景に違和感がありますか?》
「人がいる気配がないな」
《生成した風景は、ミスターの記憶データです》
何かが、私の心を強く揺さぶる。不安や怒りといった負の感情ではない。
むしろ、子どものころ当たり前のように感じていた、嬉しさや楽しさがこみあげてくるのだ。
《実在する場所ですか?》
「……待てくれ。今、思い出す」
ここは私が知っている場所ではない。
細かく見ると、所々、都合よく作られている。
砂利道ではなく、傷ひとつない舗装された道路。電線が存在しない空。
まるでドラマや映画、旅行番組で見た風景を誇張して組み込んでいるようだ。
(夢の中で何度も歩いた路地に、とても、似ているかもしれない)
「戦闘VRのように、敵は現れないのか?」
《物語は、ミスターの想像に依存します》
(そうか……)
《待機モードに切り替えます》
エーアイは私に一言いい残すと、私に話しかけることをやめた。
◇◇◇
人のいない店舗。一軒一軒、回っていく。すべての店内には、生活を支えるはずの気配がない。
最初に気づいていたはずだ。空に電線が一本もなかったことを。
明かりも、熱も、冷えも。
それらを生み出す基盤が、最初から存在しない世界。それでも、建物だけは揃っている。
まるで、舞台装置だけを先に用意した、何も描かれていない背景画のように。
エーアイの遠回りな演出に、私は無表情のまま、心の中で笑う。
電気、火化、氷化を描くキャンパスが、ここにある。
私は何もない空間に、当たり前だったはずの色を、ひとつずつ重ねていった。
◇◇◇
可視化候補は、すべて“取得済み”となった。
電気を除くと、解像度も“安定”している。
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#[可視化候補(暫定)]
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# >>浮遊[安定]
# >>風場[安定]
# >>光化[安定]
# >>電気[高解像度]
# >>氷化[安定]
# >>火化[安定]
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# >>戻る
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あれほど連戦を繰り返した狂人たちとの戦闘は、瞬殺で勝利した。困難だった理由が、遠い過去のようだ。
予想はしていたが、私のレベルは変化なし。
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# レベル:0005
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# >>能力値
# >>操作候補(暫定)
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レベル1のゾンビ、レベル2の狂人が相手なのだから、当然と言えば当然だ。
何事もなかったかのように、エーアイが私に問いかける。
《戦闘VRを継続しますか? 江戸東街区中央公園のゴーストに再会しますか?》
こういう話を振ってくるエーアイは、必ず“裏の意図”があるものだ。
私は逆に切り返す。
「戦闘VR中の私には選択権がない。エーアイの指示に従おう」
《レベル20到達まで、戦闘VRを継続します》
(なるほど、そう来たか……)




