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ミスターとエーアイ ~異世界放浪物語~  作者: 三鷹
天空パレス編

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4/14

003:戦闘VR

#[可視化候補(暫定)]

# >>浮遊[安定]

# >>風場[安定]

# >>光化[高解像度]

# >>電気[中解像度]

# >>氷化[低解像度]

# >>火化[低解像度]

# >>戻る


 全体的に解像度は上がっているが、氷化と火化は低解像度のままだ。

 この中で、浮遊、風場、光化はすでに取得済みになっている。


#[可視化候補(暫定):浮遊]

# 状態   :取得済み

# 条件   :特になし

# >>戻る


 しかし、レベルの数値が最初と変わっていない。


# レベル:0005

# >>能力値

# >>可視化候補(暫定)


 すぐにランクが上がることを期待しているわけではない。とはいえ、効率が悪いのではないか?


「仮想空間を一度、落としてもらえないか?」

《了解しました、ミスター》


 瞬時に仮想空間の風景が消え、いつもの殺風景な体育館へと戻った。


「少し自分で考えたい。しばらく静かに頼む」

《待機モードに切り替えます》


 少なくとも、今まで費やした時間は無駄ではないはずだ。だが、数値としての成果は、まだ見えてこない。

 胸の奥に、期待と不安が交差する感覚。


(まさか、能力値も変わっていないのか?)


#[能力値]

# 生命力:  35

# 攻撃力:   5

# 防御力:   2

# 知性度:  74

# 反応度:   7

# 幸運度: 981

# >>戻る


 予想していたとおり、能力値も変化していない。

 これで見逃していた点が明確にわかった。

 それは、戦闘経験だ。


「体育館の仮想空間を、戦闘用に使えるか?」

《可能です。戦闘VRシステムがあります》


「今すぐ使いたい。可能か?」

《仕様変更済みです。今すぐ利用可能です》


「仕様変更済み?」

《はい。現在のミスター用に最適化しました》


 私は驚いた。エーアイがあまりにも用意周到すぎるからだ。

 とはいえ、想像はつく。

 私が自ら気づき、私から切り出すことが効率的だと予測した上で、その存在を隠していたのだろう。

 だが、ここに触れるべき時間はない。


「戦闘VRシステムを起動してくれ」

《了解しました、ミスター》

 

 体育館内に無機質なシステム音声が響く。

 ――戦闘VRシステム起動承認。


◇◇◇


 操作は驚くほど簡単だ。


 まず戦闘対象のレベルを設定。

 レベルに該当するリストから相手を選択。

 オプションとして敵数と戦闘場所も変更可能だ。

 死ぬことなく限界まで挑めるのは、私の成長を加速させ、大きな利点となる。


「どのレベルから始めてもよいのか?」

《問題ありません。処理可能です》


 戦闘対象を選択しようと画面に指が触れる瞬間、一拍置いて、手を引いた。


(これは主観で選択すると、効率が悪くなる)


「私にとって最も最短で効果がでるよう、全ての設定を任せたい」

《了解しました、ミスター》


#[戦闘VRシステム]

# LV:0001

# 対象:ゾンビ

# 敵数:1

# 場所:地下歩道

# 特記:なし

# [開始]/[戻る]


《最初は“レベル1”から始めます》


 私は現在、“レベル5”だ。

 格下を相手にするのは気が進まない。

 だが、ここは素直にエーアイの指示に従った。


 再び無機質なシステム音声が響く。

 ――設定承認。実行シークエンス、開始。


◇◇◇


 ゾンビ一体との戦闘はあっけないものだった。

 基礎的な戦闘能力を試すだけの話だ。

 ただ、ゾンビといえども、相手はかつて人間だったはずだ。


 現実世界でも、VRのように躊躇なく相手を屠れるのか。そこだけはまだ、分からない。


《次の戦闘に進みます》


#[戦闘VRシステム]

# LV:0001

# 対象:ゾンビ

# 敵数:7

# 場所:地下広場

# 特記:なし

# [開始]/[戻る]


 敵数が七。単純計算で七倍の負荷だ。

 そして場所が、地下広場。

 もし囲まれれば危険だな。


◇◇◇


 苦戦を覚悟していたが、私の予想とは裏腹に、あっさり倒してしまった。なぜなら、一斉攻撃してこなかったからだ。


 確かに、ある程度の知性があれば、本能任せの敵であっても一斉攻撃を仕掛けてくるだろう。だが、今回の相手はゾンビだ。意識が皆無の状態では、同時に動けるのはせいぜい三体程度だ。


 現在のレベルを確認する。案の定、レベル5のままだった。


「リアルだな」


 そう、ここはゲームの世界ではないのだ。

 ユーザに都合の良い条件など存在しない。


 言わずとも、エーアイの意図はわかっている。

 ゾンビ戦は“レベルが上がらない戦い”なのだ。


 実戦では、精神的な躊躇が戦闘結果を左右する。

 そのことを体験させるため、“罪のない一般人に近い敵”を、あえて入口にしたに違いない。


《次は“レベル2”です》


#[戦闘VRシステム]

# LV:0002

# 対象:狂人

# 敵数:1

# 場所:倉庫

# 特記:バールを所持

# [開始]/[戻る]


 次は、バールを持った狂人が相手だ。

 念のため、私はエーアイに確認した。


「レベルにバールの攻撃力は加算されているか?」

《レベル2は狂人本体のみのレベルです》


(なるほど、実質レベル3以上、次が本番だな)


◇◇◇


 天井は高く、裸電球が何個もぶら下がっている。

 そのいくつかは切れていて、光はまだらだ。

 油と鉄の匂いが混じり、空気の味が古い。

 今すぐうがいをしたい気分だ。


 金属が擦れるような音がする。

 そこに男が立っていた。


「遅かったな~♪」


 狂人の声が妙に明るい。

 大きな笑みを崩さない。

 バールの先をゆっくりと舐めている。


 背筋が粟立つほど気味が悪い。

 距離を詰められたくない。


 バールから唾液がしたたり落ちた。

 その瞬間、バールを床に軽く打ちつけた。


 金属音が、合図のように響くと同時に、私の懐へ踏み込んできた。

 私は反射的に宙へ浮き、狂人から距離を取った。狂人は浮遊できない。


 その考えが甘かった。


 視界の端で閃いた瞬間、頬骨に鈍い衝撃が走り、左肩が焼けるように痺れた。

 それは、狂人が投げたバールだった。


 浮遊した私を見て、狂人が怯むはずだ。

 そう思い込んでいた。油断だった。


 狂人は一瞬も止まらない。

 迷いなく次の攻撃に移った。


 私は浮遊したまま右手を突き出し、掌の中心から風を放つ。壁に叩きつけられた狂人は、骨の軋む音を残して崩れ落ちる。


 私はとどめの一撃のため、右手の掌に光を集中させようとした瞬間、倉庫の風景は見慣れた体育館の景色に戻り、いつものシステム音声が響く。


 ――勝利確定、戦闘終了。


◇◇◇


 戦闘VRが終わると、まるで嘘のように痛みも痺れも一瞬で消えていた。痛みに耐える時間が限られているのはVRの利点だが、ひとつ疑問が残る。

 それは、痛みをVRが誇張しているのではないかという点だ。

 私はエーアイに尋ねた。


《痛覚感受性のデフォルト値は二倍です。最大五倍まで増やせます》


 思ったとおりだ。訓練であるからこそ、あえて痛みに耐えて戦う経験が必要なのだろう。


《練習効率を再計算しましたが、現時点では二倍を推奨します》

「わかった。任せる」

《痛覚感受性は二倍のままで継続します》


 エーアイの言い方が気になった。

 VR環境で、痛みが長く続かないなら、二倍を推す意味がない。


 この疑問は、次の対戦内容で明らかになる。


#[戦闘VRシステム]

# LV:0002

# 対象:狂人

# 敵数:7

# 場所:倉庫

# 特記:拳銃を所持

# [開始]/[戻る]


(ちょ、ちょっと待て。これは無謀だ)


 口には出さなかったが、本心だ。

 拳銃を所持している狂人が七体。


 狂人は必ず先手打ってくる。

 敵味方関係なく、乱射してくるだろう。

 これは、明らかに今までとは違う。


 私は開始の文字から視線を外さないまま、あらゆる勝ち筋を何度も追っていた。


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