003:戦闘VR
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#[可視化候補(暫定)]
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# >>浮遊[安定]
# >>風場[安定]
# >>光化[高解像度]
# >>電気[中解像度]
# >>氷化[低解像度]
# >>火化[低解像度]
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# >>戻る
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全体的に解像度は上がっているが、氷化と火化は低解像度のままだ。
この中で、浮遊、風場、光化はすでに取得済みになっている。
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#[可視化候補(暫定):浮遊]
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# 状態 :取得済み
# 条件 :特になし
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# >>戻る
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しかし、レベルの数値が最初と変わっていない。
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# レベル:0005
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# >>能力値
# >>可視化候補(暫定)
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すぐにランクが上がることを期待しているわけではない。とはいえ、効率が悪いのではないか?
「仮想空間を一度、落としてもらえないか?」
《了解しました、ミスター》
瞬時に仮想空間の風景が消え、いつもの殺風景な体育館へと戻った。
「少し自分で考えたい。しばらく静かに頼む」
《待機モードに切り替えます》
少なくとも、今まで費やした時間は無駄ではないはずだ。だが、数値としての成果は、まだ見えてこない。
胸の奥に、期待と不安が交差する感覚。
(まさか、能力値も変わっていないのか?)
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#[能力値]
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# 生命力: 35
# 攻撃力: 5
# 防御力: 2
# 知性度: 74
# 反応度: 7
# 幸運度: 981
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# >>戻る
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予想していたとおり、能力値も変化していない。
これで見逃していた点が明確にわかった。
それは、戦闘経験だ。
「体育館の仮想空間を、戦闘用に使えるか?」
《可能です。戦闘VRシステムがあります》
「今すぐ使いたい。可能か?」
《仕様変更済みです。今すぐ利用可能です》
「仕様変更済み?」
《はい。現在のミスター用に最適化しました》
私は驚いた。エーアイがあまりにも用意周到すぎるからだ。
とはいえ、想像はつく。
私が自ら気づき、私から切り出すことが効率的だと予測した上で、その存在を隠していたのだろう。
だが、ここに触れるべき時間はない。
「戦闘VRシステムを起動してくれ」
《了解しました、ミスター》
体育館内に無機質なシステム音声が響く。
――戦闘VRシステム起動承認。
◇◇◇
操作は驚くほど簡単だ。
まず戦闘対象のレベルを設定。
レベルに該当するリストから相手を選択。
オプションとして敵数と戦闘場所も変更可能だ。
死ぬことなく限界まで挑めるのは、私の成長を加速させ、大きな利点となる。
「どのレベルから始めてもよいのか?」
《問題ありません。処理可能です》
戦闘対象を選択しようと画面に指が触れる瞬間、一拍置いて、手を引いた。
(これは主観で選択すると、効率が悪くなる)
「私にとって最も最短で効果がでるよう、全ての設定を任せたい」
《了解しました、ミスター》
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#[戦闘VRシステム]
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# LV:0001
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# 対象:ゾンビ
# 敵数:1
# 場所:地下歩道
# 特記:なし
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# [開始]/[戻る]
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《最初は“レベル1”から始めます》
私は現在、“レベル5”だ。
格下を相手にするのは気が進まない。
だが、ここは素直にエーアイの指示に従った。
再び無機質なシステム音声が響く。
――設定承認。実行シークエンス、開始。
◇◇◇
ゾンビ一体との戦闘はあっけないものだった。
基礎的な戦闘能力を試すだけの話だ。
ただ、ゾンビといえども、相手はかつて人間だったはずだ。
現実世界でも、VRのように躊躇なく相手を屠れるのか。そこだけはまだ、分からない。
《次の戦闘に進みます》
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#[戦闘VRシステム]
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# LV:0001
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# 対象:ゾンビ
# 敵数:7
# 場所:地下広場
# 特記:なし
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# [開始]/[戻る]
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敵数が七。単純計算で七倍の負荷だ。
そして場所が、地下広場。
もし囲まれれば危険だな。
◇◇◇
苦戦を覚悟していたが、私の予想とは裏腹に、あっさり倒してしまった。なぜなら、一斉攻撃してこなかったからだ。
確かに、ある程度の知性があれば、本能任せの敵であっても一斉攻撃を仕掛けてくるだろう。だが、今回の相手はゾンビだ。意識が皆無の状態では、同時に動けるのはせいぜい三体程度だ。
現在のレベルを確認する。案の定、レベル5のままだった。
「リアルだな」
そう、ここはゲームの世界ではないのだ。
ユーザに都合の良い条件など存在しない。
言わずとも、エーアイの意図はわかっている。
ゾンビ戦は“レベルが上がらない戦い”なのだ。
実戦では、精神的な躊躇が戦闘結果を左右する。
そのことを体験させるため、“罪のない一般人に近い敵”を、あえて入口にしたに違いない。
《次は“レベル2”です》
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#[戦闘VRシステム]
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# LV:0002
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# 対象:狂人
# 敵数:1
# 場所:倉庫
# 特記:バールを所持
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# [開始]/[戻る]
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次は、バールを持った狂人が相手だ。
念のため、私はエーアイに確認した。
「レベルにバールの攻撃力は加算されているか?」
《レベル2は狂人本体のみのレベルです》
(なるほど、実質レベル3以上、次が本番だな)
◇◇◇
天井は高く、裸電球が何個もぶら下がっている。
そのいくつかは切れていて、光はまだらだ。
油と鉄の匂いが混じり、空気の味が古い。
今すぐうがいをしたい気分だ。
金属が擦れるような音がする。
そこに男が立っていた。
「遅かったな~♪」
狂人の声が妙に明るい。
大きな笑みを崩さない。
バールの先をゆっくりと舐めている。
背筋が粟立つほど気味が悪い。
距離を詰められたくない。
バールから唾液がしたたり落ちた。
その瞬間、バールを床に軽く打ちつけた。
金属音が、合図のように響くと同時に、私の懐へ踏み込んできた。
私は反射的に宙へ浮き、狂人から距離を取った。狂人は浮遊できない。
その考えが甘かった。
視界の端で閃いた瞬間、頬骨に鈍い衝撃が走り、左肩が焼けるように痺れた。
それは、狂人が投げたバールだった。
浮遊した私を見て、狂人が怯むはずだ。
そう思い込んでいた。油断だった。
狂人は一瞬も止まらない。
迷いなく次の攻撃に移った。
私は浮遊したまま右手を突き出し、掌の中心から風を放つ。壁に叩きつけられた狂人は、骨の軋む音を残して崩れ落ちる。
私はとどめの一撃のため、右手の掌に光を集中させようとした瞬間、倉庫の風景は見慣れた体育館の景色に戻り、いつものシステム音声が響く。
――勝利確定、戦闘終了。
◇◇◇
戦闘VRが終わると、まるで嘘のように痛みも痺れも一瞬で消えていた。痛みに耐える時間が限られているのはVRの利点だが、ひとつ疑問が残る。
それは、痛みをVRが誇張しているのではないかという点だ。
私はエーアイに尋ねた。
《痛覚感受性のデフォルト値は二倍です。最大五倍まで増やせます》
思ったとおりだ。訓練であるからこそ、あえて痛みに耐えて戦う経験が必要なのだろう。
《練習効率を再計算しましたが、現時点では二倍を推奨します》
「わかった。任せる」
《痛覚感受性は二倍のままで継続します》
エーアイの言い方が気になった。
VR環境で、痛みが長く続かないなら、二倍を推す意味がない。
この疑問は、次の対戦内容で明らかになる。
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#[戦闘VRシステム]
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# LV:0002
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# 対象:狂人
# 敵数:7
# 場所:倉庫
# 特記:拳銃を所持
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# [開始]/[戻る]
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(ちょ、ちょっと待て。これは無謀だ)
口には出さなかったが、本心だ。
拳銃を所持している狂人が七体。
狂人は必ず先手打ってくる。
敵味方関係なく、乱射してくるだろう。
これは、明らかに今までとは違う。
私は開始の文字から視線を外さないまま、あらゆる勝ち筋を何度も追っていた。




