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ミスターとエーアイ ~異世界放浪譚~  作者: 三鷹
江戸国編

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26/29

025:江戸西街区へ

 私は今、市街地の西側出口前にいる。

 西盾拠点二階からここまで移動してきた。

 だが結局、誰とも会うことはなかった。

 以前、地下道に配置されていた兵士も、バリケードとともに姿を消していた。


 これ以上、関与する必要はない。

 魔界人たちの無事を願う。


 西街区方面へ向かおうとした矢先、足音が聞こえてきた。

 一人二人ではない。多くの人が近づく足音だ。

 方向は、市街地の南側、居住区のある方向。

 ここからでは飲食店の建物が視界を遮る。

 足音を響かせる集団を直視することはできない。


 座標ビューアを確認する。

 近づいてくる集団は江戸国軍の兵士。

 住民は道の脇へと移動し、止まっている。

 私の視界には、まだ兵士はいない。

 だが、住民の動きに倣い、道の脇へ寄った。


 兵士の集団が視界に入る。

 多くの兵士が西側出口から地下道へと入っていく。

 残った兵士は、西側出口をバリケードで固め、立入禁止とした。


 この風景を見た住民たちが騒ぐ様子はない。

 何事もなかったかのように振舞っていた。


◇◇◇


 私は市街地から下階へ移動した。

 西側出口の様子も見たかったのだ。


 下階の西側出口に近づく。

 兵士ではなく、茶色の作業服を着た集団がいた。

 彼らは簡易的なバリケードで出口を封鎖する。


 座標ビューアでは、彼らを護街隊と表示。

 またアカバネが近くにいることも表示していた。


 私はアカバネに気づかない振りをする。

 すると、アカバネの車椅子の音が近づいてくる。

 私はアカバネのほうへ視線を向けた。

 アカバネはいつもどおり、毅然とした態度で私に話しかける。


「先ほどは失礼した」


 私はあえてその件には触れず、現状の話に切り替える。


「市街地で軍が西側出口を封鎖しているのを見た」


 アカバネは深く頷き、口に出す。


「軍に拠点の遺留品回収をお願いした」


 アカバネは淡々と話を続ける。


「市街地と下階の双方の西側出口。封鎖されることが決まった」


 憶測ではあるが、アカバネが軍に要請したのだろう。


 私はアカバネに伝えた。


「名刺の件で関わったタンクにだけ話をした。以外、他言するつもりはない」


 アカバネは目を大きく開き、口元を緩ませた。


「それは都合が良い。本件は我々が第一発見者とした。軍には君のことを一切、話をしていない。君が他言しない限り、軍に呼ばれることは無い」


 アカバネを疑えばキリがない。

 アカバネの行為を私への配慮と受け取った。


◇◇◇


 天空パレス経由で西盾拠点二階の西側前へ移動した。

 市街地から見ると、拠点の裏になる。

 既にエーアイによる外観認識遮断を依頼済み。

 軍から姿を見られないための対策だ。

 このまま地下道を進めば、西街区へ着くはず。

 早速探索を開始する。


 しばらく進む。

 地下道がだんだん暗くなっていく。

 やがて真っ暗となり、周囲が見えなくなった。

 長時間の外観認識遮断はエーアイの負担になる。

 ここまでくれば、兵士からも見えないはずだ。

 私は一旦足を止め、エーアイに伝える。


「外観認識遮断を解除してくれ」

《了解しました》


「この明るさは、東街区と同じか?」

《はい。同じです》


 目が慣れるまで、少し待つ。


 三分間待機。


 ようやく目が慣れてきた。

 前へ進もうとした瞬間、遠くから中低音が聞こえてくる。

 換気扇のような音だ。

 だが、換気扇のように一定な音ではない。

 途切れ途切れに音が聞こえてくる。


 私は動かずに観察する。


 見えた。大きなハエだ。

 体が丸く、少なくとも、体長二メートルはある。

 巨大ハエは私との距離を詰めてくる。

 すぐ近くに止まった。距離、約二十メートル先。

 私の存在に気づいたが、関心が無いようだ。

 しきりに前足をこすり合わせている。

 巨大ハエは、私から離れた位置を通過し、拠点の方へと飛び去った。


 足音を立てず、周囲に警戒しながら、慎重に進んだ。

 聞こえてくるのは、私の心臓の音だけ。

 前方に壁のようなものが見えてきた。


 壁に近づくと、左へ直角に曲がる角だとわかる。

 敵の気配はないが、念のため、アウトコースから入る。

 角を一気に左折した。

 すると、前方、約百メートル先に大門が見えた。

 大門の上部に文字が書かれているが、ここからでは読めない。


 警戒しながら前へ進む。

 大門に近づくにつれて、書かれた文字が見えてきた。


[ 江戸西街区 北門 ]


 西街区の大門の中に、潜り戸のような入口がある。

 この入口にも扉があるが、開放されたままで固定されている。

 

 入口の手前、約五メートル。

 一瞬、寒気がして、立ち止まった。

 念のため、再度、座標ビューアを確認。


 ここで再会するとは、思わなかった。

 リリスだ。


 私は入口正面を見据えた。

 リリスは西街区の中から私を見ている。


「そんな怖い顔しちゃダメよ。久しぶりの再会なのに」


 リリスは入口の中央に立つ。

明らかに、私が入るのを邪魔している。


 私は単刀直入に、リリスに訊いた。


「なぜ邪魔をする?」


 リリスは髪をかき上げながら、私に言う。


「ここから入ってはダメ。下階へ回りなさい」


 リリスは私の返事を待つことなく、話を続けた。


「説明は後よ。とにかく、ここは私の言うとおりにして」


 次の瞬間、リリスの姿は消えた。


 考える必要もない。

 リリスは後で説明すると言っていた。

 ここはリリスの助言に従い、下階から入ったほうが良いと判断した。


 踵を返した瞬間、西街区の中から聞き覚えのある声がした。


「どうしたんだ? 中に入らないのか?」


 声の主は、マッスルだ。

 だが、私の心は冷めていた。


「なるほどな……」


 私は無言で見ている。

 偽物は、まだ何か言っている。


「早く入って来いよ」


 私はそろそろ限界に達してきた。


「演技が下手だな」

「……なんだよ。面白くねぇな」


 偽物は形を変え、街の奥へ去っていった。


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