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ミスターとエーアイ ~異世界放浪譚~  作者: 三鷹
江戸国編

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25/29

024:西盾拠点

 下階の西側出口から、西街区に最も近い北街区の拠点へ向かっている。

 拠点までは、一直線なので迷うことはない。

 途中、柑橘系の液体を散布している作業員三名がいた。

 作業員に一声掛けて通り過ぎ、しばらく進んだ。


 拠点まで残り約二キロの地点。

 ここまで作業員三名の他、誰とも会っていない。

 敵とも遭遇していない。

 ただ足音と呼吸音だけが、地下道に長く反響していた。

 前方には、拠点と思われる構造物がある。

 ただ、事前に知らなければ、地下道を塞ぐ壁にしか見えない。


 拠点まで残り約二百メートル地点。

 拠点から武装した三人が出てきた。

 服装だけから判断すると、兵士に見える。

 拠点には護街隊しかいない、とアカバネは言っていた。

 ところが、座標ビューアには護街隊と表示されていない。

 護街隊だとすれば、市街地では一度も会っていない隊員なのだろう。

 事情がどうであれ、最前線にいる彼らは極度の緊張状態のはず。


 私は両手を高く上げて、掌を相手に向けた。

 次に、両手をゆっくり左右に広げた。

 この動作をゆっくり三回繰り返す。


 やり方は間違っているかもしれないが、相手に敵ではない合図を送った。


 すると、相手は銃を両手から片手に移した。

 次に、私と同じような動作をして返してきた。

 どうやら、相手に通じたようだ。


◇◇◇


 拠点の入口には西盾拠点と書いてある。

 アカバネから紹介された拠点と間違いない。

 私は名刺を見せることなく、拠点の中へ入った。

 彼らは全員、護街隊を名乗っていた。

 兵士ではなく、服は軍から特別に借りていると言っていた。

 彼らは現場のリーダーのことを隊長と呼ぶ。

 その隊長は今、別室で休息中。


 この部屋にいる数人に西街区について尋ねた。

 だが、全員一様に、隊長から直接訊くべきだと言われた。

 隊長が戻るまで、まだ二時間ほどある。

 私はここで、待たせてもらうことにした。


 その間を利用して、私はエーアイに話しかける。


「座標ビューアに護街隊と表示されないのは、初対面が理由だな?」

《はい。正しい理解です。護街隊は種別ではなく表示名です》


「種別が人間の場合、非表示だな?」

《はい。人間は省きます。武装した人間は表示しますが、種別ではありません》


「種別の表示条件は、以前と同じだな?」

《はい。種別はミスターの記憶情報に依存します》


「拠点の概要、人数と状況は調査可能か?」

《可能です。所要時間、十五分以内と推測します》


 私が持つ、二つの疑問。

 “服は軍から特別に借りている”という点。

 “軍の服を真似て作った”ならば納得する。

 ただこれは私の中での常識。

 この世界では、私の常識が正しいとは言えない。


 もう一つは、彼らの警戒心が薄すぎる点。

 所作を見ても、銃器を棒のように扱う。

 北街区を守る緊張感がない。

 何かを楽しんで、そこにいるように見える。


 十二分経過。


 エーアイが戻ってきた。

 エーアイの報告の前に、私から切り出す。


「一旦、戻ったほうが良いか?」

《はい。アカバネに確認することをお勧めします》


「下階への移動手順は任せた」

《了解しました、ミスター》


◇◇◇


 天空パレス経由で下階へ戻ってきた。

 エーアイの調べでは拠点に二十三人。

 拘束されている人はいない。


 アカバネに確認することは二点。

 拠点にいる人数と軍服貸与についてだ。


 護街隊アジトを訪ね、再びアカバネと会った。

 いつもどおり、アカバネは堂々と車椅子に腰掛けていた。


「おや、まだここにいたのかね?」


 私は急ぎ、二つの疑問点をアカバネに話す。


 その瞬間、アカバネの背筋がこわばり、胸が小さく上下した。

 車椅子のアームレストを探すように触れたが、手先の震えが止まらない。


「な、なんということだ……」


 私はアカバネに伝えた。


「拘束されている人は誰もいない。私の見立てだ」


 これ以上、私がここにいる理由はない。

 私はアカバネに礼を言い、この場を去った。


◇◇◇


 事の顛末をタンクにも話す義務ある。

 私はタンクの家へ向かった。

 タンクは私を快く向かい入れてくれた。


「アクオは今、ここにいないぞ。ところで、どうした?」


 私はタンクに名刺を返した。

 タンクは名刺を受け取ると、悪戯をした子供のような顔をした。


「まさか、ビビって帰ってきたのか? なんてな」


 タンクはいつもの表情に戻る。


「帰ってきたのは何か理由があるんだろ?」


 私はタンクに要点のみ話した。


・アカバネから紹介された拠点での出来事。

・拠点の話をアカバネに話したこと。

・それを聞いたアカバネの反応。


 タンクは表情を変えず、頷いていた。


 この件について口外しないことを、私はタンクに伝えた。

 タンクは軽く左手を開き、耳のほうへ近づけた。

 そして、私を見つめながら一言呟く


「ああ、分かってる」


 これ以上、私がここにいる理由はない。

 私はタンクに礼を言い、この場を去った。


◇◇◇


 天空パレスに戻った。

 拠点の概要について、エーアイの報告を聞く。

 それをもとに、私なりに整理してみた。


・拠点は二階建て。

・二階は市街地西側から延びる地下道に繋がる。

・二十三人は、この世界で魔界人と呼ばれる存在。


 私の中で一つの線が繋がった。

 彼らの対応や所作は、魔界人特有の戦闘を好まない性質に由来していたのだ。


 掃除のオジサン、薬屋の店主、屋台の女性。

 東街区地下街で共存共栄する魔界人の顔が浮かぶ。


「再び、拠点へ戻ろう。到達点は任せる」

《了解しました、ミスター》


◇◇◇


 先ほどまでいた拠点の部屋に戻る。

 部屋には誰もいない。

 座標ビューアで確認しても、誰もいない。

 彼らが持っていたと思われる銃器がある。

 軍服も脱ぎ捨ててある。

 二階を含め、拠点内をくまなく探した。

 やはり、誰もいない。


 私は拠点から西街区方面の地下道へ出た。

 このエリアには、まだ踏み込んでいない。


 まずは一階の地下道を見る。

 下階から拠点を通過し、西街区へ向かう地下道だが、彼らはいなかった。


 次に二階の地下道を見る。

 市街地から拠点を通過し、西街区へ向かう地下道だが、ここにもいない。


 座標ビューアは人間と魔界人の区別をしない。

 武器を所持していれば、座標ビューアに武装集団として表示される。

 彼らは武器を持たずに移動しているのだろう。


 冷静に考えれば、彼らがどこへ行こうと、私には関係ない。

 だが、武器を放棄して移動した魔界人を見捨てる気にはなれない。


「彼らはどこへ消えたんだ?」

《不明です》


 私とエーアイがまだ見ていないエリア。

 それは拠点二階から市街地へ通じる地下道だ。

 あの先にはバリケードを設置した兵士がいる。


「行き先を変える。北街区だ」

《了解です》


 拠点二階へ上がる。

 北街区の市街地へ向かう地下道を進んだ。


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