022:アクオの流儀
天空パレス経由で中央広場近くに到着した。
座標ビューアで全体を俯瞰しながら、アクオの場所へ急いで向かう。
護街隊も続々、中央広場へ移動していた。
あえて意図的に動いているように見える。
その動きを見て、引っかかりが一本抜けた。
それは過去に、護街隊が座標ビューアから見えなくなった件だ。
座標ビューアの仕様を思い出せば、答えはシンプルだった。
彼らは、殆どが居住区内にいたのだ。
私はアクオを見つけた。
幸いにも、アクオは自称自警団と接触前だった。
アクオは私に気づくと、口元だけ緩ませた。
「よお、また会ったな。何か始まるのか?」
私は単刀直入に訊く。
「この街の自警団と仲が良いのか?」
アクオは斜め上を見上げた。
「俺は嫌いなんだが、モテて困ってるぜ」
私は結論だけを伝える。
「ここは分が悪い。移動するぞ」
アクオは、大きく息を吐いた。
アクオは私から視線を逸らしながら、会話を続けた。
「ああ、知ってる。奴らを誘き出してんだ。ちなみに、検問所を背にしても無駄だぜ。一度試したからな」
アクオは私に視線を向け、言葉を重ねる。
「まあ、見てなって。軽くひねって来るからよ。心配いらねぇよ。ありがとな」
アクオは颯爽と去っていった。
◇◇◇
アクオが去った一分後、座標ビューアに変化があった。
護街隊が動きを変えたのだ。
明らかに、アクオの動きに順応している。
アクオと自称自警団との接触、または戦闘を見越した動きだ。
護街隊の責任者、アカバネの言葉を思い出す。
傍観者に紛れて傍観者を守る、と言っていた。
それが事実だとしても、私と護街隊との過去の戦闘においての話だ。
自分たちと関係ない戦闘の話はしていない。
ならば、現地で直接訊いたほうが早い。
だが、彼らが真実を語るとは限らない。
やはり、自分の目で観察するのが一番だ。
中央広場から北北西の位置にアクオがいる。
そこには、自称自警団も十人ほどいる。
今、私が自称自警団と接触すると面倒だ。
ここは外観認識遮断が有効だと判断した。
私の発動では、前回のように心身負荷指数が限界になる。
万一を想定し、今回はエーアイによる発動を依頼した。
「外観認識遮断を頼む」
《了解。左手の建物の影へ移動してください》
外観認識遮断後、最も近いルートで、現場へ向かった。
◇◇◇
私が現場に着いたとき、アクオと自称自警団が言い争いをしていた。
その周りには、傍観者が二十三人。
内、護街隊は三人。
他の護街隊も、集結しようとしていた。
「早くやれよ!」
傍観者の一人から大きな声が飛ぶ。
その声が合図のように、戦闘が始まった。
自称自警団は十五人。
特殊警棒でアクオに殴り掛かった。
対するアクオは素手で応戦。
アクオは銃と剣を持っていた。
しかし、それを使わない。
銃はともかく、剣を抜く動作さえしない。
アクオなりの戦闘ルールがあることを、私は理解した。
だが、策がなければ意味がない。
ここで助けに入ることは可能だ。
だが、アクオはそれを望まないだろう。
命に関わらない限り、決着がつくまで見届ける。
傍観者が騒ぎ始める。
「もっと激しいやつ、お願い!」
「殴られてばかりじゃ詰まんねぇよ」
「剣で反撃しろよ!」
勝敗は一分足らずで終わった。
傍観者は不満を口にしながら散っていく。
敵味方関係なく、傷ついた者たちを心配する傍観者はいない。
これがこの世界の現実なのだ。
アクオは道に倒れている。
自称自警団の一人も倒れている。
「倒れている二人の容態は?」
《戦闘不能。生体反応、異常なし》
残った十四人の自称自警団が、ジャンケンを始めた。
この先の展開は想像はつく。
だが、正しいとは限らない。
私は観察を続けた。
十四人のジャンケンを眺めながら、エーアイに尋ねる。
「私とアクオを外観認識遮断することは可能か?」
《可能ですが、推奨しません》
「天空パレス経由でアクオを移動させることは?」
《アクオは天空パレスに入れません》
「天空パレスを経由ぜず、通常のテレポートは?」
《以前説明したとおりです。この世界の条件下では、ミスターは非推奨。アクオは不可能です》
自称自警団のジャンケンに勝敗がついた。
ジャンケンに勝ち残った男が両手をあげて飛び跳ねる。
「よっしゃー!」
男は迷わず、アクオの銃に手を伸ばす。
私は指先を十四人の自称自警団へ向け、僅かに動かした。
眩しく揺らめく光はない。
ただ、微かな、金属を擦るような音。
十四人は数メートル先へ飛び、倒れ込んだ。
「ちか、らが……入ら、ねぇ……」
「ぐっ、見え、ない……」
「い、いったい……何を……」
《十四人対象、神経信号破綻。無力化確認》
「外観認識遮断をこの場で切ってくれ」
《了解しました、ミスター》
私はアクオの元へ近づく。
アクオは既に意識を取り戻していた。
アクオは私に何かを言いかけた。
私はアクオの言葉を待たずに、声を被せた。
「立てるな?」
アクオは上半身だけを起こした。
首を手で押さえつつ、数回、首を回す。
「自分で立つ。悪いが少し待ってくれ」
アクオが立ち上がるのを待つ。
同時に、周囲の状況を観察する。
この状況に感づいた傍観者の一人がこちらへ向かって走ってきた。
同時に一人、また一人と走ってきた。
十四人の自称自警団に近い側の傍観者が、いち早く自称自警団に群がった。
私の側の傍観者は、我々をそのまま素通り、同じく自称自警団に群がった。
「これはアタシのよ!」
「俺が先に目を付けたんだ!」
「てめぇ、コノヤロー、手を放しやがれ!」
私は大きな勘違いをしていた。
傍観者は、傍観者ではない。
戦闘を傍観するのは、前座。
本命は戦闘の結果、おこぼれを拾う。奪えるなら奪う。
ただ、それだけだった。
思い起こせば、忍者の格好をした護街隊との戦闘。
勝敗がすぐに決着したから傍観者が落胆した、と思っていた。
私の大きな勘違いであった。
護街隊から奪えなかったことが、不満だったのだ。
煙幕が立つ直前の言葉。
“なんだもう終わりか。つまらねぇな”という言葉。
ただの護街隊の退却の合図だった声を、私は真に受けたのだ。
アクオがようやく立ち上がる。
「大丈夫だ。自分で歩ける」
そこへ一人の杖をついた老人が近づいてきた。
「アンタら、それいらんの?」
私とアクオは、無言で歩き出す。
杖をついた老人は、アクオが倒した一人の自称自警団を物色する。
それを見た若い女性が、杖をついた老人を後から突き飛ばす。
北街区の日常の風景を、背中で見た。




