020:市街地の下階
天空パレスで休息した後、北街区へ転移した。
今回は天空パレスと江戸国との時間の接点をずらし、調整した。
理由はテレポートで移動したことを隠すためだ。
東街区でサブロと話したのが、約二時間前。
江戸国の時間軸では二日前になる。
現在地は、複数の建物に挟まれた路地。
広い通りからは見えない場所だ。
黒服の店から百メートルほど離れている。
ここから広い通りに出て、黒服の店に向かう。
◇◇◇
黒服のいる店の前に着いた。
前に見たときと同じ男だ。
風景に溶け込むように立っている。
男の近くに行くと、大きな体に圧倒される。
だが、威圧感は全く感じない。
暴力を振るう必要がない者だけが持つ特権か。
私は黒服の男に訊いた。
「ここは、下階への入口か?」
黒服は無言で店の扉を押し開ける。
店内は壁と床のみ。
店主がいなければ、商品もない。
微かに金属と油のような匂いがするだけ。
奥の隅に、下へ降りる金属の階段が見えた。
店内に入る。
店の扉は閉ざされた。
◇◇◇
階段を降り、下階に着いた。
ここから見る限り、建物の数は多くない。
お互いが干渉しないように建てられている。
だが、市街地のように道に沿った建物ではない。
点在する建物同士の間が道を形成している。
天井は市街地よりも低い。
いくつか天井に繋がる建物が見える。
近くに二つ。遠くに一つ。
正確な数は不明だが、数は多くないと思われる。
座標ビューアを確認。
武装した人数は三十二。
アクオ、そして偽忍者と自称自警団が数名。
闇雲に動くのではなく、探索の順序を考えた。
まずは、下階の範囲を確認。
次に、全体を四分割した各エリアを探索。
できれば、早い段階でアクオとの接触を試みる。
下階の範囲はエーアイに依頼した。
私は座標ビューアで動向を探りながら待機した。
◇◇◇
五分もしないうちにエーアイが帰ってきた。
《ミスター、任務完了しました》
エーアイの報告は数値を含み、丁寧だった。
それをもとに、私なりに整理してみた。
・階段は黒服の店のみ。
・天井に繋がる建物は計3つ。階段ではない。
・階段を除き、下階からの出口は西側のみ。
・下階の壁に接触している建物はない。
・居住区の下の空間はすべて埋まっている。
次は、四分割した各エリアの探索だ。
近くにアクオがいることを確認。
北西エリアから始めることにした。
◇◇◇
北西エリアにて。
「奇遇だな。お前も銃を使うんだな」
会った瞬間、アクオから話しかけてきた。
一拍置いて、私は返答した。
「ただの観光だ」
アクオは口元を緩ませ、軽く頷いた。
「そうか。この先に銃を扱う店がある。
話を聞いてみるといい。じゃあな」
アクオは階段のあるほうへ歩き出した。
私は銃器を買う予定はない。
だが、情報としては悪くない。
私はアクオが勧めた店へと向かった。
店の入口の両脇には男が二人。
腿にゆとりのある紺のダブルスーツ。
「しばらくお待ちください」
左側の男が丁寧な口調で、入店しようとした私を制した。
店の中には先客がいる。
私は言われたとおり、その場に待つ。
店内にいた客は、入口とは別の出口から出ていった。
客同士が顔を合わせない配慮だろう。
「お待たせしました」
入口の男が私を店へ案内する。
まず目に入るのは、長いガラスケースだ。
客が触れられる距離にはない。
長いガラスケースの中に銃器が並んでいる。
店主の脇と背後の棚には小箱が積まれている。
すべては透明な仕切りの向こう側にある。
「いらっしゃい。何か入用か?」
「下見に来ただけだ」
「そうか。なら三分で済ませてくれ」
私は気配を探るように店の隅々まで目を配る。
あえて例えるなら、美術館や博物館に近い。
購入する場合を除き、触れることは厳重に管理されていた。
帰り際に店主が私に言う。
「待て。ひとつ言っておく。
銃はただの道具だ。
使い方次第で、価値も意味も変わる。
良いも悪いも、持つ者だけに選択がある」
私は店を後にした。
◇◇◇
南西エリアにて。
座標ビューアを確認。
アクオと自称自警団は、すでに市街地へ。
このエリアには、偽忍者が二人いた。
私は偽忍者がいる場所へ移動しようとした。
しかし、二人は北東エリアへ。
北東エリアであれば、出口から遠くなる。
二人を追わず、そのまま泳がせることにした。
このエリアは、住居兼店舗が多く点在していた。
道具や骨董品、薬を扱う店が多い。
先の銃器の店と同様、客が自由に触れないように管理されていた。
護衛に関しては有無も含めて対応はさまざまだ。
◇◇◇
北東エリアにて。
座標ビューアを確認。
先ほどの偽忍者が二人いる。
私は偽忍者がいる場所へ移動した。
するとそこは、住居兼作業場の建物が雑多に集まっている場所だった。
刀剣類の手入れをする職人。
防具の補修を請け負う職人。
金属加工を扱う職人。
戦闘用装備品に関する職人たちの村の様相だ。
購入目的の客も数人いる。
「職人も武装した人数に含まれているか?」
《いいえ。職人と店員は原則、除外しています》
(ならば、偽忍者は、この裏か)
裏側に回る。
短剣を扱う店。
店の中には男女の客。
私は店の外で二人を待つ。




