018:自称自警団
座標ビューアで下階の外枠を再確認した。
市街地と同形。
南側と東側の地下道には下階なし。
だが、西側には、下階の痕跡あり。
私は以下の順序で進めていくことにした。
まずは、西側地下道の下階の範囲を探る。
ただし、西街区へは入らず。
次に、下階入口の捜索。
◇◇◇
市街地と同じ明るさの西側地下道に入る。
状況を座標ビューアで確認。
五百メートルほど先に武装三人。
下階の存在あり。
そのまま先へ進んだ。
北街区の地下街は、東街区と比べて明るい。
ここだけ切り取れば、何が危険なのか分からないだろう。
三百メートルほど進んだ。
前方二百メートル先にいる三人は兵士だ。
兵士の他、背丈が低い柵のようなものも見える。
ひとまず、行けるところまで行く。
兵士との距離、三十メートルまで近づいた。
兵士の脇には、持ち運び可能な小さなバリケード。
バリケードは日本の工事現場で見かける、トラ模様の柵に似ている。
三人の兵士と三つのバリケードが横一列、等間隔に並んでいる。
地下道を完全に塞いでいるわけではない。
十メートルほどまで近づいたところで、兵士が私に呼びかけた。
「止まりなさい」
兵士の言葉に威圧も激情もない。
ただ任務を遂行する者の声だった。
「我々に通行禁止の権限はない。
だが、江戸国としては推奨しない。以上」
この辺りまで、地下道に沿った下階の確認は済んでいる。
今の目的は、西街区へ行くことではない。
私は踵を返した。
◇◇◇
地下道から戻り、市街地の西側出口前にいる。
次にやることは、下階入口の捜索だ。
下階入口の有力候補は三つ。
中央広場を含めた周辺一帯。
黒服が立つ店。
射撃訓練所。
移動する前に座標ビューアを確認。
変わったことは特にない。
・アクオが東街区から北街区へ向かっている。
・サブロが北街区から消えた。
ぐらいだ。
座標ビューアを注視しながら、中央広場へ向かう。
◇◇◇
中央広場に到着した。
途中、黒服が立つ店の前を通ったが、今回は素通りした。
中央広場の中心に近いオブジェらしき物から順に見ていく。
しばらく探していると、周囲から私に対する小声が聞こえてきた。
「ねぇ、じーじ。あそこのひと、なにしてんの」
「あの大きい石と、お話してるのかもね」
「あの人、忍者と戦った人だよね」
「またマジックのネタを仕込んでるんだよ。多分」
「あの人、何やってるのかしら?」
「武具の材料でも探してんじゃね?」
「自警団に連絡したほうが良いんじゃない?」
「あいつらだろ。オレ、自警団が嫌いなんだよ。
ほら、お前が噂するから、来ちまったよ」
紺色の半纏姿で特殊警棒を持った三人が現れた。
中央の男が、顎を突き出しながら一歩前に出る。
「我々は北街区自警団だ。ここで何をしている」
私はあえてストレートに返答した。
「下階の入口を探している」
その男の呼吸が、突然荒くなった。
「な、なにを寝ぼけたことを!
貴様、武具の材料を盗む気だな!」
その男の顔の赤みが増していく。
私は自警団の男に訊いた。
「この街に、射撃訓練所はあるか?」
私の話の途中で、男は突然、右手に持った特殊警棒で殴り掛かってきた。
隙だれけの大きなモーション。
自分勝手な感情だけで暴力を振るう典型だ。
私は左側へ重心を移し、相手の死角となる右脇を左指先で押す。
男は特殊警棒を落とし、その場に倒れた。
《戦闘不能。生体反応、異常なし》
自警団の二人は茫然としている。
私は特殊警棒を拾い、三人に告げた。
「没収する」
一瞬、自警団の口元が緩んだ。
二人は倒れた一人を左右から抱え上げ、姿を消した。
◇◇◇
その後も公園付近を探しているが見つからない。
怪しい建物はたくさんある。
だが、下階を探すために、勝手に建物内に入るのは論外だ。
座標ビューアを見ながら、考えを整理していた。
すると、また自警団がやってきた。
特殊警棒を没収された本人も同行している。
自警団長が話し合いに来たようだ。
目の前にいる自警団の人数は五人。
だが、期待した私が甘かった。
結局は自分たちの虚栄心を満たしたいだけの集団だ。
住民の安全、安心を守る集団ではない。
「去れ」
私は一蹴した。
だが、自警団は帰らない。
自警団長は団員の一人に耳打ちした。
自警団の人数が増えていく。
数台の荷車が到着する。
座標ビューアに既知の表示名が混ざる。
最終的に、七十四人まで膨らんだ。
(なるほど、そういうことか)
座標ビューアを見て、笑いそうになった。
自警団に、あの六十四人が含まれていたのだ。
六十四人とは、覆面解体人と覆面抜剣隊の合計人数だ。
覆面解体人と覆面抜剣隊が座標ビューアに表示されなかった理由。
そしてここまで自警団の人数が増えた理由が理解できた。
自警団の背後に位置する軍の検問所からも、この騒動が見えているだろう。
だが、国家防衛に繋がらない限り、民間の争いに介入しない。
それを見越して、自警団は動いていた。
自警団の武器は、特殊警棒から散弾銃に変わった。
ここで発砲したとしても、背後に撃たない限り、兵士には到達しない。
何が起こるのかと集まってきた傍観者。
散弾銃に気がついて、この場から去る傍観者。
自警団にとって、傍観者など眼中にない。
自警団は住民の安全を掲げている。
だが、この場に安全は存在しない。
自警団が守っているものは住民ではない。
自警団の立場だけなのだ。
《戦闘で死者が出る可能性が高いです。
死者が出た場合、完全消去が最適です》




