017:市街地の北側と南側
市街地の南西の角にいる。
市街地地図によると、市街地の南側は居住区と飲食店のエリア。
ここから東へ進み、市街地の南側を探索する。
この通りは道幅が一定の直線。
右手に居住区、左手に飲食店。
計画どおりに箱を並べたような道。
居住区には高い壁があり、自由に入れない。
外からは中が見えない。
居住区の建物の形状はわからない。
飲食店は三十人ほど入れそうな広さ。
入り口は通りに面した南向き。
飲食店は居住区に住む人限定の店だけ。
飲食店の隣には必ず大きい倉庫がある。
飲食店の約三倍ほどの大きさ。
飲食店の形はすべて同じ。
倉庫の形もすべて同じ。
異なるのは、飲食店と倉庫の形だけ。
建物は地下で作られたものではないはずだ。
地上で大量生産されていたものを、そのまま地下へ移したと推測する。
その証拠の一つが建物の屋根。
地下であれば屋根に勾配は不要のはず。
ここで、座標ビューアに反応が出た。
偽忍者の一人がすぐ近くいる。
だが、数秒後。再び消えた。
座標ビューアの空白にいる敵は認識できない。
つまり、これから進むエリアに敵がいることが確定した。
私はエーアイに尋ねた。
「座標ビューアに登録した敵が改心したら、表示されなくなるか?」
《敵が死亡、または登録解除するまで対象です》
しばらく進み、南側エリアの真ん中、十字路に出た。
右折、つまり南側には中央街区への出口。
左折すると、中央広場に繋がる。
中央街区への出口、通称、南側出口は五十メートルほど先に検問所がある。
検問所の前には兵士が三人立っている。
[ 江戸中央街区関係者以外、立入禁止 ]
検問所の前の看板に大きく書かれてあった。
私は踵を返し、予定通りのルートに戻った。
十字路の先は、また同じ景色が広がる。
右手に居住区の壁、左手が倉庫と飲食店が交互に続く。
壁のみの居住区側は、最終的に入口は二か所しか存在しなかった。
住民は何らかの認証をして出入りしていた。
東街区のように、住民と会話をする門番はいない。
北街区にも東街区と同じ装備品の門番はいる。
だが、門番というよりも、巡回している形だ。
◇◇◇
市街地の北東の角にいる。
市街地地図によると、市街地の北側は武装格闘エリア。
ここから西へ進み、市街地の北側を探索する。
このエリアは南側とは大きく異なる。
さまざまな形の個性的な建物が多い。
木造の建物は少なく、金属や石で作られていた。
通りは直線ではあるが、幅は一定ではない。
周りを見渡し歩き出そうとした瞬間、目の前に岩が迫ってきた。
いや、マッスルだ。
「よぉ! 来てたのか」
大きなバッグを肩に、四角い箱型のバッグを手に持っている。
「少し用事があってな。
しばらく、この街を離れることになった。
悪いが、あまり時間がねぇ。じゃあな」
マッスルは東側出口へ走り出す。
鋼の背中には、戦いに赴く者の気配があった。
マッスルと別れた後、三十メートルほど進む。
筋肉美を象徴する看板、マッスルの道場だ。
[ 本日休館 ]
入り口のドアの札に掲示されていた。
壁は金属製で中の様子は見えない。
しばらく留守にするのに、本日休館の札。
防犯上の理由なのか、留守を伝える札がこれしかないのかはわからない。
「もしかして、マッスルさんの知り合いですか?」
マッスル道場の前で、若い女性から声を掛けられた。
私は肯定も否定もせず、事実のみ返答した。
「今日は休みだな」
「はい。でも……。
あっ、ごめんなさい。失礼します」
女性は走り去っていった。
マッスル道場の隣には、道を挟んで向かい合った剣術道場があった。
右側が、石材を加工した壁。
左側が、木材を加工した壁。
双方ともに、中を見ることはできない。
右側の道場からは激しい音が聞こえてくる。
金属がぶつかり合う音。
時折混ざる、奇声のような叫び声。
左側の道場はとても静かだ。
静寂の中、時々聞こえる呼気の音が響いている。
「剣術を習いたいのかね?」
低く落ち着いた声。
手入れの行き届いた黒いコート。
肩には薄く刃物の鞘の形。
観察する職人の眼差し。
「残念だが、北街区の住人専用の道場でね」
男は私の返答を待つこともなく、左側の静かな道場の中へ入っていった。
この先、大小さまざまな建物が続いていた。
看板が出ていないので、道場か否かは不明。
北側エリアの中間地点は比較的小さな建物が多く、道幅は広くなっていた。
最も広い場所を中心に、直進と左折に道が分岐している。
左折せずとも、左側に視線を向けるだけで、中央広場が見える。
中央広場に至る道の両脇も小さな建物が多い。
倉庫というよりも、小さなプレハブに近い。
北側エリアの中間地点を直進した。
この先も看板がない建物が続いた。
しばらく歩いていたが、私は足を止める。
僅かに金属、油、火薬が混ざったような匂いがした。
時折、乾いた破裂音が一定の間隔で微かに響く。
音がした場所に目星をつけて近づく。
比較的大きな倉庫のような建物の前。
[ 関係者以外立入禁止 ]
射撃訓練所とは書かれていない。
別の視点でみれば、忍者養成所かもしれない。
だが、射撃訓練所と考えるのが自然だ。
ここで考えても、全て憶測に過ぎない。
一旦棚上げして、先へ進む。
倉庫が密集したエリアを抜け、市街地の北西側の角に着いた。
左折して、しばらく進む。
すると、市街地の西側出口が見えてきた。
これで市街地全域を見て回ったことになる。
だが、あくまでも表向きの探索が終わっただけ。
市街地地図に出ていない、市街地の下階の存在。
偽忍者の存在が認識できない場所。
西街区へ行く前に、この二点を解明する。
周囲の景色よりも、座標ビューアを凝視する。
私は次の行動を考えていた。




