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ミスターとエーアイ ~異世界放浪物語~  作者: 三鷹
江戸北街区編

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17/20

016:市街地の中央エリア

 東街区から北街区へ抜ける地下道の先は、巨大な街の風景が広がっていた。

 北街区の地下道と同様に街も明るい。

 だが、建物外観の統一感はない。

 私の知識では、用途がわからない構造物もある。


 行き交う人々は武器や防具を身につけていた。

 だが、普段認識している武具の類とは少し違う。

 日用品や道具、廃材再利用のケースが多いのだ。


 古い配管で作ったと思われる警棒。

 無数の釘を打ち込んだ棍棒。

 魚を捕るために使うはずの三叉槍。

 金属製の扉を加工した防具。


 この街の人々にとっては、最低限の礼儀や作法なのかもしれない。


 道路脇に市街地地図と書かれた、大きな地図があった。

 北街区の全体像はシンプルだ。

 市街地の形は南北が短い長方形。中央に広場。

 市街地を中心に東、南、西へ地下道が出ている。

 東側の地下道は東街区へ。

 南側の地下道は中央街区へ。

 西側の地下道は西街区へ繋がっている。


 地図情報をすべて鵜呑みするのは早計だ。

 だが、少なくとも概要としては参考になる。


 ひとまずエリアを分割して探索する流れを頭の中で整理していた。

 すると、隣から女性の声がした。


「アンタさん、この街は初めてかえ?

地図ならあっちゃこっちゃに生えとるけん、心配せんでええよ」


 笑顔で親切に教えてくれた女性の右手には、鞘付き包丁が握られていた。


◇◇◇


 まずは、今いる東側出口から西側出口へ向かって、市街地の中央を探索することにした。


 市街地の地図によると、旅館と娯楽施設エリア。

 中央広場から東西に広がる形で描かれている。

 通りは地下道を背にして、そのまま直進する形。

 旅行者向けのエリアだと推測する。


 座標ビューアを確認。

 いつもと違う表示があることに気づく。


「この街に下階があるという意味か?」

《はい。間違いありません》


 市街地地図に下階へ向かう情報はなかった。


 計画に従い、中央を横断して探索を進めていく。

 すると、両サイドに旅館と娯楽施設が現れた。


 旅館と言っても、看板が旅館と書いてあるだけ。

 錆びついたコンテナや木造の小屋が並んでいる。

 娯楽施設の建物も、旅館と同様の外観。

 看板がないので、何の娯楽だか見当もつかない。

 看板よりも客引き次第といったところか。


「あなたは狙われています。

丸腰で一人歩きは危険です。

こちらへ避難してください」


 相手の不安を煽り、店のサービスを売りつける。

 良いか悪いかは別にして、古典的な商売手法の使い方が興味深い。


◇◇◇


 中央広場に着いた。

 市街地の中央でもあるので、比較的、人が多い。


 だが、私は気がついていた。

 私を取り囲むように近づいてくる武装集団に。


「座標ビューアのタグ付けを頼む」

《心配無用。自動処理済みです》

「忘れてた。そうだったな」


 武装集団との距離、百メートル。人数は五人。

 黒装束に覆面姿。いわゆる忍者のような格好だ。


 本当の忍者は明るい場所で、その格好はしない。

 彼らはオトリ。偽物だ。

 本物はどこかに紛れているはず。

 壁を背にする位置への移動は、逆に不利だ。


 私は指先を僅かに回した。

 シャンと凍るような微音。


《防御レベルF、防御認識不可レベルA、確認》


 五人の偽忍者が小走りで距離を詰めてくる。

 通りすがりの人々も、その存在に気づき始める。


「おお、忍者だ! 何が始まるんだ」

「もしかして戦闘? どこ? 誰とやるの?」

「やっぱ忍者ってかっこいいな」


 傍観者が集まってきた。

 本物の敵はどこにいる? まだわからない。

 視線、服装、靴、手足の動き、特徴を掴む。


「もしかして、アイツとやるのか?」

「あの人、丸腰よ。忍者に勝てるのかしら?」

「ああいうのに限って、強そうで負けるんだよな」


 距離約十メートル。

 敵は星形の陣形で、一瞬、私との間合いを保つ。

 三人は、懐から手裏剣を取り出す。

 二人は、短剣を握ったまま突っ込んでくる。


 私は両手の人差し指と中指を相手へ向けた。

 敵の身体に、光でも音でもない脈動が弾ける。


 短剣を持った二人は転び、動けなくなる。

 手裏剣を投げようとした三人は、その場で固まる。

 一拍置いて、そのまま倒れる。


《戦闘不能。生体反応、異常なし》


 傍観者の中から動く者はいない。


 三秒経過。


 傍観者の一人が、声を出す。


「なんだもう終わりか。つまらねぇな」


 その瞬間、倒れた偽忍者の周りに煙幕が立つ。

 傍観者の前から、五人は姿を消した。


 多くの傍観者は、しばらく呆然としていた。

 やがて、あざ笑うかのように散っていく。


「敵は傍観者に八人、計十三人か?」

《はい。間違いありません》


 派手な動きと雑な演出。

 本物の忍者からは、ほど遠い。

 私はそのまま偽忍者と名付けた。


《座標ビューア表示名:偽忍者。登録完了》


◇◇◇


 中央広場を後にし、旅館と娯楽施設の西側エリアへ入った。

 建物は東側と大差ない。

 大きな違いは、客引きが全くいないこと。

 代わりに、黒服の大柄な男が無言で立っている。


 黒服の男は、周囲を威圧しない。

 むしろ、風景に溶け込むように、そこにいる。

 店の入口のようで、何かを拒む雰囲気がある。


 ここで珍しく、エーアイが私に質問してきた。


《日本の忍者は強いですか?》


 エーアイにしては、含みのある質問だ。

 こういう時は、良い意味で、必ず裏がある。

 だが私は、何も勘ぐらずに、そのまま答えた。


「強さに加えて、頭の切れも抜群だ。

今の私では勝てない」


 エーアイは時折、日本への興味を示す。

 私は黒服の男を、そのまま黒服と名付けた。


《座標ビューア表示名:黒服。登録完了》


◇◇◇


 西側出口前に着いた。

 西街区へ向かう地下道入口前でもある。


 私は、ここを行き来する人を観察していた。

 北街区で最初に見た武具の印象と明らかに異なるからだ。

 最低でも既製品、職人の特注品でさえ当たり前のように見える。


 すると、左側から男が近寄ってきた。

 よく磨かれたブーツと、控えめに光る金属の留め具が印象的だ。

 男は私の前で軽く一礼した後、話を始めた。


「ニュートエルの副リーダー、サブロです。

ひとつ、お聞きしてもよろしいですか?」


 ニュートエルの組織についての説明が先と、私はサブロに伝えた。

 サブロはすぐに応じた。


「これは失礼しました。

ニュートエルにつきまして、簡単にご説明します」


 サブロの話をまとめると、以下の四点だ。


・江戸国に認可された、非営利の民間団体。

 (軍との共同が多いが、軍の配下ではない)

・特定の政党、宗教、思想とは無関係。

・国を崩壊させる反社会的活動は容認しない。

 (各個人の信仰、主義、権利は尊重する)

・一般市民の暮らしを乱す行為は容認しない。


 説明を終えた後、私への質問を続けた。


「西街区へ行かれるのですか?」


 サブロの表情から西街区が危険な場所であることは察しがつく。


「いや、今行く予定はない」


 サブロの顔から安心した様子がうかがえる。


「お手数をおかけしました。ご協力感謝します」


 サブロは去っていった。


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