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ミスターとエーアイ ~異世界放浪物語~  作者: 三鷹
江戸東街区編

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014:タダオとアクオ

 天空パレス経由で移動した先は、地下街のエスト広場。

 ここに誰もいないのは、珍しい。


 座標ビューアで武装している人数を再確認する。

 地下街に七人、中央公園に三十人。

 旧市街で数えたときと、合計人数は同じ。

 だが、同一人物か否かは判別できない。

 私はエーアイに尋ねた。


《過去データと照合します》


 五秒待つ。


《照合完了。対象者はすべて同一人物です》


 エスト広場を出ようとしたとき、二人組の女性が入ってきた。

 すれ違いざまに、二人の会話が聞こえてきた。


「薬が買えて、良かったわ」

「最近、人気だものね」


 エスト広場を出て、数歩歩いたところで、声をかけられた。


「先日は、ありがとうございました。

僕はタダオと申します。

おかげさまで、二人とも回復しました」


 担架で病人を一緒に運んだときの青年だ。


 それにしても、回復が早い。

 隔離室が一つしかなかったはずだ。

 その件について、タダオに尋ねた。


「軍から仮設医療室を借り、居住区内の敷地の一角に設置したんです」

「神田川医師が軍と交渉したのか?」

「いいえ、先生は治療から手が離せないので、僕が代理で」


 殆どの住民は、この病気の件で軍と揉め事を起こしたくないはずだ。

 地下街では、タダオは他とは一線を画す存在だ。


「中央公園に人が集まっていたが?」


 私はタダオに尋ねた。

 ただし武装集団とは言わない。

 タダオは笑顔で頷きながら、答えた。


「あっ、ニュートエルと呼ばれる民間団体ですね。

この街の護衛を管理者が依頼したんです。

ここが襲われたとしても、軍は介入しないので。」


 ニュートエルという団体は、興味深い。

 だが、それ以上にゴーストの件が気になる。

 私は単刀直入に質問した。


「ゴーストが地下街を守っているのか?」


 タダオは斜めに視線を落とした。

 何か理由があって、言葉を選んでいるようだ。


「確かに、そういう面はあります。

でも、僕らがゴーストに出会えば、襲われます」


 予想に反した答えだった。

 ゴーストは地下街の住民を守ってはいない。

 結果的に、守っているように見えるだけということか。


 何かの事情で返答に困っているのだろう。

 タダオの表情から笑顔が消え掛かっている。

 もう少し詳しい話を聞きたかったが、仕方ない。


「無理に答える必要はない。

少し気になっただけだ」


 タダオはいつもの表情に戻った。


「わかりました。では、これで失礼します」


◇◇◇


 私は一旦ここで、考えを整理する。



 まずは、ゴーストの件。


 私自身がゴーストに襲われた、過去の条件。

 人間であるタダオがゴーストに襲われる事実。

 何かに配慮してタダオが返答を拒んでいたこと。

 掃除のオジサンがゴーストの脅威を一度も口にしていないこと。


 そしてここは、この世界の人間と魔界人と呼ばれる人たちが共存する街だ。


 もうこれ以上聞くまでもない。

 ゴーストは人間を襲う。

 だが、異界から来た生命体から逃げる。

 そして、ゴーストを操る人間がいる。

 ただ、それだけのことなのだ。



 次に、公園の武装集団の件。


 これは、完全に私の杞憂であった。

 地下街と居住区を守りに来ていたのだから。


 住民の表情や行動を見てもわかる。

 安心、安全、ほのぼのとした空気。

 これから襲撃される雰囲気は微塵もない。



 ここで座標ビューアに大きな変化があった。

 公園にいた三十人が移動している。


 公園に残っているのは計十四名。

 公園の北側と東側に七人ずつの配置だ。

 他は、旧市街に通じる北側地下道に十四人。

 地下街に通じる東側地下道に二人。


 北側地下道の十四人は公園に近い位置で停止。

 東側地下道の二人は地下街へ向かっている。


 地下街と居住区の住民が決めたこと。

 私が気にする必要はない。


 そもそも今、私がここに留まる理由もない。

 しかし、せっかくきたのだ。

 このまま少し地下街を歩いてみることにした。


◇◇◇


 ちょうど地下街の飲食店通りに差し掛かった。

 前方から見覚えのある家族四人。護衛はいない。


 以前のような緊張感の影を家族に感じない。

 だが、観光客のような雰囲気ほどではない。


 子どもたちは周囲をきょろきょろ見回している。

 家族の母親の安堵している表情が印象的だ。


 声を掛けることなく通り過ぎようとしたとき、

 家族の父親が私に気がついた。


「先ほどは、どうも」


 移住したばかりの家族にとって、私との接触は得にならない。

 私は言葉にせず、軽い会釈で返す。


 小さく跳ねている子どもたち。

 それを母親が笑顔でなだめていた。


◇◇◇


 薬屋のすぐ近くに来た。


 薬屋に並ぶ行列は十人ほど。

 以前のような罵声は聞こえない。

 しかし、私は面白いことに気がついた。


 それは、薬屋から出る客の様子が異なること。

 一方は、薬を手に喜んでいる客。

 他方は、落胆して去る客


 詳細は確かめていないのでわからない。

 だが、神田川医師が治療に使った薬が売り切れていると予想する。


 いや、売り切れと考えるのは早計だ。

 医師にしか売らないのか?

 政府や商人の独占を恐れて、売らないのか?

 または何か別の理由があるのか?


 ひとつの事象から予想するだけでも面白い。


◇◇◇


 そろそろ、北街区へ向かおうと考えていた。

 ただ、公園経由で同じ道を行くのは面倒だ。

 天空パレス経由で東街区の旧市街へ移動したい。

 旧市街であれば、到着場所は問わない。

 とはいえ、移動する瞬間は、人目に付くのを避けたい。


 私はエーアイに尋ねた。


《地下道であれば、比較的可能です》


 私は地下街から地下道へ向けて歩き出した。

 そのとき、背後から、いつもの声がした。


「おい、まさか黙って去るわけじゃねぇよな?」


 掃除のオジサンだ。


「居住区の件は心配いらねぇぞ。

東街区管理者が許可済みって話になってるな。

多分、医者か門番が根回ししたんじゃねぇか」


 全く気にしないところか、完全に忘れていた。

 私は胸に手を当て、一度だけ、ゆっくり頷いた。


 その後、オジサン主導の話が続く。

 話し出すと止まらないのが、オジサンなのだ。


「ところでよぉ。アンタにひとつ言いてぇんだ」


 私は言葉を挟まず、相手を待つ。


「俺への扱いが丁寧だよな?

態度とか、口調とか、接し方がな。

魔界人だからって、気にしなくていいぞ。

まあ、特別扱いしてくれるのは嬉しいけどよ」


 最初は確かに丁寧な言葉で接した。

 だが、その後は、他と同じように接したはずだ。

 私はあえて上から目線の言葉を発した。


「分かった。善処しよう」


 オジサンの顔がクシャクシャになっていく


「そうそう、それだよ!

アンタの雰囲気にピッタリだぜ!」


 オジサン好みに誘導されているような気がする。


「じゃ、そろそろ掃除してくるぜ。

公園にお客がいっぱい来てるからよ。

汚れてると思うんだ。じゃあな」


 オジサンは地下道へと消えていく。


◇◇◇


 オジサンが地下道へ入ってから二分ほど経った。


 天空パレスへ移動するため、地下道へ入る予定だった。

 そのとき、右正面の武装した男から視線を感じた。

 門番ではない。全く見た記憶がない男だ。


 その男は、ゆっくり私に近づいてきた。

 そして、一言。


「お前、つえぇんだな」


 無言のまま、相手に視線を向ける。


「俺の名はアクオだ。

言っておくが、ニュートエルに属してねぇぞ」


 アクオへ視線を向けたまま、話を待つ。


「お前の戦いぶりは見てねぇが、お前を避けている連中はたくさん見たぜ。旧市街地でな」


 アクオは一拍置いて、話を続ける。


「おっと、勘違いするなよ。

お前と戦いたいわけじゃねぇ

ただひとつ、伝えておくことがある」


 私は軽く頷いた。


「北街区のマッスルと話していたな?

あの男には気をつけろ。

俺の言いたいことはそれだけだ。じゃあな」


 アクオは居住区のほうへ向かって去っていった。


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