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ミスターとエーアイ ~異世界放浪物語~  作者: 三鷹
江戸東街区編

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013:旧市街

 座標ビューアの点は中央にひとつ。

 その左右の位置に七つずつ。

 位置は、旧市街に入って十メートルほど先だ。


 私が地下道を抜け、旧市街に入るまでの距離は約八メートル。

 互いの間合いは、十八メートルほど。

 ゴーストのおかげで、地下道出口の裏に潜む者はいない。


 相手に気づいた素振りを見せない。

 もちろん先制攻撃は論外だ。敵と確定するまでは。


 普通に歩く速度で、旧市街へ足を踏み入れた。

 中央の点。相手は、女だ。

 年齢は二十歳前後。長い髪、やや露出した服装。


 どう見ても、この場にそぐわない。


「隠し武器の類か?」

《はい。間違いありません》


 女が、わずかに顎を上げた。

 視線が左右に動いたことも見逃さない。


 私は歩みを止めた。

 距離は、七メートル。


 女は微笑みながら、小さな声で話しかけてくる。

 声が聞こえないことを理由に、私が近づいてくるとでも思っているのだろう。


 外見で相手を油断させ、小さな声で注意引き、射程距離に入ったら集団で襲う。

 誰もが知っている、使い古された手法だ。


 ここから先は、相手次第。

 確定するまで観察を続ける。

 それだけだ。


 左右の建物に潜む点は動かない。

 女も動かない。

 私も動かない。


 沈黙が場を支配する。

 案の定、相手は耐えられなかった。


 建物の影から、微かな物音がする。

 女は見せかけ笑顔で聞こえるように声を出す。


「もっと、こっちに来て!」


 女の誘惑めいた仕草。

 だが、私は見逃さない。

 服に隠していた武器が手に移った瞬間を。


 私は二歩前へ進み、淡々と告げた。


「邪魔だ。道を開けろ」


 女の表情が変わる。

 返事はない。


 さらに二歩進み、畳み掛ける。


「仲間と一緒に、去れ」


 それが、最後の分岐点だった。


 女の手がこちらへ伸びた。

 同時に建物の影から潜んでいた者たちが、一斉に飛び出す。


 だが、遅い。遅すぎる。

 私の攻撃は、すでに完了していた。


 女の手は凍りつき、武器は握ったまま動かない。

 潜んでいた者たちの脚も凍り、次々と倒れ込む。


 戦闘は終了した。


 女は目を伏せ、しゃがみ込む。

 潜んでいた十四人のうち六人は沈黙。

 残り八人は、口々に叫ぶ。


「頼む、命だけは助けてくれ」

「こんな奴とは聞いてねぇよ」

「オレら、これからどうなるんだ」

「冗談じゃねぇ。楽に稼げるって話だったのに」

「だから最初から気が進まなかったんだ」

「あの女のせいだ。俺たちも被害者だ」

「アンタも人の子だろ? 見逃してくれよ」

「あ~あ、人生終わったな」


 大きな盾と剣を持つ男に、鋭い視線を向けた。

 その男がゴーストを操ったとは思っていない。

 ただ探りを入れるだけだ。


「お前、ゴーストを操ったな?」

「オ、オレじゃねぇ!」


 男の視線が一瞬動いた。

 その直後、下を向き、顎に力を入れている。


 ゴーストを操った人間を炙り出す必要はない。

 この中にいるとわかれば、それでよいのだ。


(これ以上の関与は必要ない)


 私はこの場を、ただ通り過ぎた。


◇◇◇


 噂が広まったのだろう。

 先の戦闘以降、私を避ける者が多くなった。


 無駄な戦闘がない分、探索が順調に進む。

 だが、敵は武装した人間だけとは限らない。

 私は油断することなく探索を続ける。


 旧市街は全体的に建築物が少ない。

 洞窟など、自然をそのまま生かした構造が多い。


 洞窟と言えば、湿気とカビ臭さだ。

 だが、ここは下水臭と腐敗臭の混合が勝る。


 現在は、旧市街の外壁沿いを進んでいる。

 全周の半分のところで、新しい出口を発見した。

 中央公園側出口の反対側の位置だ。


 旧市街は、まだ八割以上も空白が残る。

 引き続き、旧市街の探索を継続する。


 外壁沿いをさらに進むと、大きな柵に囲われた建物があった。

 柵は三重に設置されており、所々に修復された跡がある。

 この建物から、かなりきつい腐敗臭がする。

 名称は消えかかっているが、総合病院の文字だけ見て取れる。


 座標ビューアによれば、少なくとも五十体以上。

 種別はゾンビとなっている。


「種別がゾンビとなっているが事実なのか?」

《種別はミスターの記憶情報に依存します》


 総合病院の隣に学校などの建物が続くが、全て柵で封鎖されていた。


「アンタ、ここに思い入れでもあるのかい?」


 突然、男に声をかけられる。


 黒のタンクトップに緩めのグレーのパンツ。

 二メートルほどの身長、広い肩幅と胸板の厚み。

 身体全体から圧を感じる存在感の男だ。


「ここにいる連中は、皆、武器持ってるだろ。

でも、アンタとオレは持ってねぇ。

だから、気になって声かけたんだよ」


 封鎖された場所を睨みつつ、男は話を続ける。


「でもまあ、政府も容赦ねぇよな。

閉じ込めたのは、ゾンビだけじゃねぇ。

感染したと疑わしい人間も隔離したからな。

オレのダチも……」


 私は言葉を返さない。


「おっと、シケた話をしちまったな。

オレの名はマッスル。

北街区の地下街でジムをやっている。

良かったら、遊びに来てくれよ。じゃあな」


 彼は、身を低く沈めて走り出す。

 鋼の背中は瞬く間に、遠くへ消えた。


◇◇◇


 座標ビューアで空白がないことを確認。

 北街区へ通じる出口も、既に確認済み。

 これ以上、旧市街で探索する場所はない。


 このまま北街区へ行くことも可能だ。

 だが、ひとつ気になることがある。


 それは、中央公園と地下街。

 今までと比較して、武装した人数が多いのだ。

 地下街に七人。門番も含めれば妥当な数だろう。

 だが、中央公園に三十人は多すぎる。


 兵士、または旧市街から移動したか。

 いずれにしても、念のため、確認しておきたい。


 地下街が破壊されることは容認できないからだ。


「天空パレス経由で地下街へ移動したい。

地下街内であれば、移動場所は問わない」

《了解しました、ミスター》


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