012:二つの地下道
中央公園の西側出口から地下道へ入る。
座標ビューアに変化なし。
地下道の床は平らで、整備が行き届いている。
監視カメラが視界に入った。
気にせず、そのまま直進する。
歩く速度を緩めることなく、進んでいた。
公園から約百メートルの位置。
ここまで明るさは公園とほぼ同じだった。
ところが突然、白い閃光に照らされた。
地下道全体ではなく、私に向けた光だ。
光は均等横並びで複数、天井に設置されている。
監視というよりも警告の光だ。
前方が全く見えない。
私は一旦、立ち止まった。
このまま直進すれば、光の放射から抜けられる。
だが、一時的な回避に過ぎない。
この先、同様の仕掛けが必ずあるはずだ。
ここに留まり、相手の出方を待つか。
それとも、妥協せずに前進するか。
相手が何者か、ある程度目星はついている。
とはいえ、確定ではない。
そのうえ、まだ会話すらしていない。
私は先へ進むことを選んだ。
光の放射範囲から抜ける位置まで前進。
予想どおり、前方から別の鋭い光が射してきた。
前方は全く見えないが、気にせず前進。
光は刺すような強さへと変質していく。
公園から約二百メートルの位置。
座標ビューアが異常を検知した。
武装した人数は三人。この先にいる。
すると突然、光が暗転した。
無言の圧力。止まれの合図だ。
視界は黒一色。
距離感も方向もつかめない。
「相手は今、臨戦態勢ではないな?」
《はい。条件付きです》
「あとは自分で対処してみる」
《了解しました》
足音が近づいてくる。
耳に神経を集中する。
気配が目前に迫る。
まだ暗闇に目が慣れていない。
相手の足音が留まった。
低い声が闇を切り裂く。
「何しに来た!」
視界は、まだ戻らない。
「散歩だ」
「散歩だと。ふざけるな、帰れ!」
相手の輪郭の影が、かろうじて見える。
相手は銃器を所持している。
だが、銃口を私へ向けてはいない。
私はあえて、強気の発言をした。
「銃で脅して従わせるのが、お前のやり方か?」
返事はなかった。
装備が擦れる小さな音だけが、闇に残った。
「立入禁止とは書いていない。
バリケードもゲートもない。
だから、ここを散歩していた。
納得いく説明があれば、私は帰る」
相手は少し気分を害したようだ。
「この先は軍の施設だ!
貴様、そんなことも知らぬのか!」
私は平然と答える。
「知らなかった。お詫びしよう」
兵士は納得いかない表情をしている。
だが、私には関係ないことだ。
私は踵を返し、来た道へ歩き出した。
背後で、金属がわずかに擦れる音がした。
銃の位置を変えたのだろう。
だが、引き金が引かれることはなかった。
私は歩調を変えず、その場を離れた。
◇◇◇
中央公園の北側出口の前にいる。
ここが探索する最後の出口だ。
幅は南側とほぼ同じだが、それほど汚くはない。
北側出口から地下道へ足を踏み入れた。
その瞬間、座標ビューアが異常を検知した。
武装した人数は四人。菱形の陣形を取っている。
四人の距離が離れすぎている。
小隊というより、警護の配置だ。
「武装の範囲は銃器と刀剣、棍棒類だけか?」
《小型ナイフや生活用器具は除く、武器全般です》
公園から約百メートルの位置まで進む。
前方から近づく一団。
先頭は、無駄のない動きをする大柄な男。
その後ろに、父母と二人の子ども。
左右と後方には、防護服を着た三人の護衛。
すれ違う直前、後方の護衛のひとりが動いた。
無駄のない動き、刃物のような視線。
護衛は私に話しかけてきた。
声は低いが、威圧ではない。
「ひとつ、確認したいことがある」
私は即答した。
「こちらからも聞きたいことがある」
護衛は一拍置き、私を測る。
残りの護衛三人と家族四人は壁を背にした陣形を取っている。
「いいだろう。ただし制限付きだ」
「お互いさまだ。先に私から答えよう」
護衛が私に尋ねる。
「この先は江戸東街区中央公園か?」
「間違いない。約百メートル先だ」
家族四人は安堵した表情を浮かべている。
「アンタの質問は?」
「この先は、どの街につながる?」
「廃墟化した旧市街を抜ければ、江戸北街区だ」
◇◇◇
中央公園から約二キロ地点。
カラフルな衣装を着けた集団がいた。
一人はその場に立ち、一人は手を広げて回転。
複数人で手をつなぐ者、踊る者とさまざまだ。
彼らの邪魔にならぬよう、私は前へ進んでいた。
すると、一人の青年が私に話しかけてきた。
「お騒がせして、申し訳ありません」
年齢は二十代半ば。
物腰が柔らかく、礼儀正しい青年に見える。
「旅芸人の一座を率いております、ジョキュウと申します」
私は言葉を挟まない。
相手の視線と表情を観察した。
「小さな一座ではありますが、皆さまに少しでも笑顔をお届けできればと、日々旅を続けております」
どこか芝居がかった言動。
笑顔の奥に本心が見えない。
避ける理由もなければ、近づく理由もない。
◇◇◇
ようやく地下道の先、旧市街が見えてきた。
下水のような匂いと腐敗臭が漂ってきたが、耐えられないほどではない。
ここで、座標ビューアが異常を感知。
見覚えがある。
ゴーストだ。
ただ動きが奇妙だ。
旧市街と地下道の境界を、まるで迷った影のように往復していた。
確実に目視できる地点まで、少し前へ進む。
そこで歩みを止め、ゴーストの動きを観察した。
逃げ場を失い、右往左往しているように見える。
ここで、ゴーストという先入観を外して考える。
すると、私を守っている動きにも見える。
「ゴーストと会話することは可能か?」
《現在未対応。開発を検討します》
現状、ゴーストの動きで確認するしかない。
私はゴーストに近づいた。
距離は約十メートル。
ゴーストが動く。
揺れながら、横に並ぶ。
旧市街と地下道の境界を憂さぐように。
ゴーストが旧市街に入る私を守っている、と仮定すれば、一応、筋が通る。
だが、それならば、もっと手前でできたはず。
ゴーストを誰かが操っているのか?
それとも、ゴーストが動けなくなる何かが、旧市街にあるのか?
答えは見つからないが、このままでは邪魔だ。
腕から手先までを伸ばして中央公園に向ける。
「お前たちは、中央公園へ向かえ」
ゴーストは一斉に、私の横を通り過ぎ、中央公園へと移動していく。
言葉と動作が、ゴーストに通じたかは不明だ。
しばらくして、ゴーストはすべていなくなった。
だが、座標ビューアには、まだ点が残っていた。




