011:廃工場
江戸東街区中央公園に戻った。
何度か来ている場所だ。
公園の構造は、ほぼ把握している。
それでも、座標ビューアには空白が残っていた。
再確認も兼ね、エーアイと手分けして、未取得範囲を埋めていく。
公園は、ほぼ正方形。
四隅は丸く処理され、出口は四方に一つずつ。
先ほどまでいた地下街は、東側出口の先だ。
東側出口だけ幅が狭く、他は広い。
掃除のオジサンと出会ったトイレは、公園中央からやや東寄り。
確認できたのは、その一か所のみ。
朝比奈朔也だった頃に見た建物の影は、公園の天井と壁。
かつて駆逐したゴーストの群れは、公園中央付近に分布していた。
いずれも、過去の情報と矛盾はない。
「南、西、北。
各出口から先を探索する。
まずは、南側出口からだ」
《了解しました、ミスター》
◇◇◇
南側出口の前に立つ。
バス二台が、すれ違えるほどの幅がある。
一歩足を踏み入れる。
乾いた空気に埃が舞う。
カビ臭くはないが、微かに油の匂い。
二百メートルほど進むと、金属製の壁に突き当たった。
座標ビューアによると、この先に広い空間があることが分かる。
壁は内部と地下道を隔てているのだ。
壁面を念入りに観察した。
開閉できない通用口の痕跡が見つかる。
通用口を破壊することは容易だが、避けたい。
慎重な作業が必要だったが、通用口を壊すことなく内部へ潜入した。
◇◇◇
中央は広い空間が確保されている。
左右には、機械の残骸が規則正しく並んでいる。
壁には剥がれかけた塗装と色あせた文字。
天井には、錆びついた迷路のような配管。
床にはざまざまな塵芥が散乱している。
中央を進めば、通行に支障ない。
だが、油と錆が混じる甘い匂いがきつすぎる。
座標ビューアは異常を感知していない。
この匂いに慣れるまで、私はこの場に留まった。
◇◇◇
匂いに慣れてきた私は、再び歩を前に進めた。
すると、足の裏に大きな塊の感触があった。
ただの塊ではなく、何かの人工物だと直感した。
床の塵芥は砂状で、少し掘るだけで形が現れた。
長い金属。見慣れた形状だ。
そう。それはレールだった。
これだけで地下鉄の存在は証明できない。
しかし、何らかの輸送経路であったことは予想できる。
◇◇◇
五百メートルほど奥に来た。
配管は増えたり減ったりしながら続いていた。
中央の通路には、レールの痕跡が残っている。
座標ビューアに変わった様子はない。
だが、微かに、焦げた匂いがする。
この先で何かが燃えているのか、それとも誰かが火を起こしているかは不明だ。
私は耳を澄ませながら、ゆっくりと歩を進める。
一歩、二歩、三歩。
約二十メートル進んだところで、金属が擦れるような微かな音が聞こえてきた。
風や振動の類ではない。
生き物のような、規則性がない音。
音の発生源を目で追うが、全くわからない。
◇◇◇
音の発生源の影が何とか見える位置まで来た。
同時に、相手は金属の柱の裏に隠れた。
私は隠れた相手の動きを見逃さない。
定石どおりなら、臨戦態勢だ。
だが、私は攻撃を選択しない。
ここは、観察と考察を繰り返すのみだ。
まず、足元のレールは、ここで途切れている。
次に、相手はゴーストの類ではない。
また、人間や動物の動きではない。
四肢の角度が違う。
関節の位置もおかしい。
相手の正体は、すでに明らかだ。
私は柱に隠れた影が見える位置に移動する。
すると、相手はまた、隠れようとする。
相手の動きはぎこちない。
当然だ。
相手は戦闘用ロボットではない。
自律制御型の運搬用ロボットだ。
ロボットを横に見ながら、再び歩を進めた。
しばらくして振り返ると、ロボットは姿を現し、黙々と作業を再開していた。
よく見ると、四肢の長さがアンバランスで、関節が逆方向に折れていた。
◇◇◇
このエリアも終わりに近づいたようだ。
周囲は地下の岩盤のようなもので遮られている。
このまま来た道を戻るのは面白くない。
座標ビューアを確認しながら、移動可能なルートを探す。
だが、やはり見つからない。
私はエーアイに尋ねた。
「ここが終端だな。移動するルートはないな?」
《はい。間違いありません》
「天空パレス経由で中央公園に移動しよう」
《公園のどこにしますか?》
「座標ビューアに表示されている場所なら、どこでも可能だったな?」
《はい。原則可能です》
私は“原則可能”という言葉が少し気になった。
「では、中央公園の西側出口に」
《了解しました、ミスター》
◇◇◇
中央公園の西側出口前に移動した。
だが、西側出口から百メートルほど離れている。
「かなり手前だな」
《はい。天空パレスからの移動は、原則、人の目に触れない場所へ移動します》
なるほど、“原則可能”とはこのことか。
「監視カメラか? 人がいるのか?」
《両方です》
座標ビューアは異常を感知していない。
《ミスターの外観認識遮断、または阻害が可能です》
「推奨なのか?」
《いいえ、オプションです》
今は私よりも住民への危険回避を優先した。
「ありがとう。今回は不要だ」
《了解しました。
三十メートル先から、相手の監視の領域です》
ここからが勝負だ。
警戒している様子や動揺を見せてはならない。
普通に散歩している雰囲気で西側出口へ進む。
《相手側の監視カメラ、作動確認しました》
西側出口がだんだんと近づいてくる。
南側出口と比べて、少し大きく感じる。




