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ミスターとエーアイ ~異世界放浪物語~  作者: 三鷹
江戸東街区編

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12/14

011:廃工場

 江戸東街区中央公園に戻った。


 何度か来ている場所だ。

 公園の構造は、ほぼ把握している。

 それでも、座標ビューアには空白が残っていた。

 

 再確認も兼ね、エーアイと手分けして、未取得範囲を埋めていく。


 公園は、ほぼ正方形。

 四隅は丸く処理され、出口は四方に一つずつ。

 先ほどまでいた地下街は、東側出口の先だ。

 東側出口だけ幅が狭く、他は広い。


 掃除のオジサンと出会ったトイレは、公園中央からやや東寄り。

 確認できたのは、その一か所のみ。


 朝比奈朔也だった頃に見た建物の影は、公園の天井と壁。

 かつて駆逐したゴーストの群れは、公園中央付近に分布していた。


 いずれも、過去の情報と矛盾はない。


「南、西、北。

各出口から先を探索する。

まずは、南側出口からだ」

《了解しました、ミスター》


◇◇◇


 南側出口の前に立つ。

 バス二台が、すれ違えるほどの幅がある。


 一歩足を踏み入れる。

 乾いた空気に埃が舞う。

 カビ臭くはないが、微かに油の匂い。


 二百メートルほど進むと、金属製の壁に突き当たった。

 座標ビューアによると、この先に広い空間があることが分かる。

 壁は内部と地下道を隔てているのだ。


 壁面を念入りに観察した。

 開閉できない通用口の痕跡が見つかる。


 通用口を破壊することは容易だが、避けたい。

 慎重な作業が必要だったが、通用口を壊すことなく内部へ潜入した。


◇◇◇


 中央は広い空間が確保されている。

 左右には、機械の残骸が規則正しく並んでいる。


 壁には剥がれかけた塗装と色あせた文字。

 天井には、錆びついた迷路のような配管。

 床にはざまざまな塵芥が散乱している。


 中央を進めば、通行に支障ない。

 だが、油と錆が混じる甘い匂いがきつすぎる。


 座標ビューアは異常を感知していない。

 この匂いに慣れるまで、私はこの場に留まった。


◇◇◇


 匂いに慣れてきた私は、再び歩を前に進めた。

 すると、足の裏に大きな塊の感触があった。

 ただの塊ではなく、何かの人工物だと直感した。


 床の塵芥は砂状で、少し掘るだけで形が現れた。

 長い金属。見慣れた形状だ。

 

 そう。それはレールだった。


 これだけで地下鉄の存在は証明できない。

 しかし、何らかの輸送経路であったことは予想できる。


◇◇◇


 五百メートルほど奥に来た。

 配管は増えたり減ったりしながら続いていた。


 中央の通路には、レールの痕跡が残っている。

 座標ビューアに変わった様子はない。


 だが、微かに、焦げた匂いがする。


 この先で何かが燃えているのか、それとも誰かが火を起こしているかは不明だ。


 私は耳を澄ませながら、ゆっくりと歩を進める。


 一歩、二歩、三歩。

 約二十メートル進んだところで、金属が擦れるような微かな音が聞こえてきた。


 風や振動の類ではない。

 生き物のような、規則性がない音。


 音の発生源を目で追うが、全くわからない。


◇◇◇


 音の発生源の影が何とか見える位置まで来た。

 同時に、相手は金属の柱の裏に隠れた。


 私は隠れた相手の動きを見逃さない。


 定石どおりなら、臨戦態勢だ。

 だが、私は攻撃を選択しない。

 ここは、観察と考察を繰り返すのみだ。


 まず、足元のレールは、ここで途切れている。

 次に、相手はゴーストの類ではない。

 また、人間や動物の動きではない。

 四肢の角度が違う。

 関節の位置もおかしい。


 相手の正体は、すでに明らかだ。


 私は柱に隠れた影が見える位置に移動する。

 すると、相手はまた、隠れようとする。

 相手の動きはぎこちない。


 当然だ。

 相手は戦闘用ロボットではない。

 自律制御型の運搬用ロボットだ。


 ロボットを横に見ながら、再び歩を進めた。


 しばらくして振り返ると、ロボットは姿を現し、黙々と作業を再開していた。

 よく見ると、四肢の長さがアンバランスで、関節が逆方向に折れていた。


◇◇◇


 このエリアも終わりに近づいたようだ。

 周囲は地下の岩盤のようなもので遮られている。


 このまま来た道を戻るのは面白くない。

 座標ビューアを確認しながら、移動可能なルートを探す。

 だが、やはり見つからない。


 私はエーアイに尋ねた。


「ここが終端だな。移動するルートはないな?」

《はい。間違いありません》


「天空パレス経由で中央公園に移動しよう」

《公園のどこにしますか?》

「座標ビューアに表示されている場所なら、どこでも可能だったな?」

《はい。原則可能です》


 私は“原則可能”という言葉が少し気になった。


「では、中央公園の西側出口に」

《了解しました、ミスター》


◇◇◇


 中央公園の西側出口前に移動した。

 だが、西側出口から百メートルほど離れている。


「かなり手前だな」

《はい。天空パレスからの移動は、原則、人の目に触れない場所へ移動します》


 なるほど、“原則可能”とはこのことか。


「監視カメラか? 人がいるのか?」

《両方です》


 座標ビューアは異常を感知していない。


《ミスターの外観認識遮断、または阻害が可能です》

「推奨なのか?」

《いいえ、オプションです》


 今は私よりも住民への危険回避を優先した。


「ありがとう。今回は不要だ」

《了解しました。

三十メートル先から、相手の監視の領域です》


 ここからが勝負だ。

 警戒している様子や動揺を見せてはならない。

 普通に散歩している雰囲気で西側出口へ進む。


《相手側の監視カメラ、作動確認しました》


 西側出口がだんだんと近づいてくる。

 南側出口と比べて、少し大きく感じる。


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