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削除した「口が悪い処刑人と用意周到な公爵令嬢」と設定や展開は同じです。

一人称にした方がわかりやすいと思い、変えました。


キキィー!


会社からの帰り道、横断歩道を渡っていると、近くで不穏な音がした。

振り返ってみると、トラックの顔面が目と鼻の先に。


あ、死ぬ。


いや待て、ここから逃げれば……。

……無理だ。逃げれない。私はもう時期轢かれる。

この勢いのトラックにぶつかられると言うことは、即死である。


あぁ、平凡だったな。

元気にしててね、弟たちよ。


遺言を心の中で残して、私はトラックに轢かれた。

痛みに耐えること数分、感覚がしなくなってきた。

すぐそばで救急車の音がしている。

しかし、私の頭の中はただ一つ。


死ぬまで呪ってやるからな、あのトラックの運転手!

……もう死ぬけど。


死にかけなのに何故かハイテンションの恨み言を思いつつ、私は意識を手放した。



***



目に光が降ってくる。

眩しいその光を避けようと身を動かすが、光が目を追いかけているかのように全く避けれない。

しかし、こんなに寝たのはいつぶりだろうか。

常にあのセクハラ上司に二人っきりになるように朝早くから出社させられていたので、こんなに陽が高くなるまで寝たことはここ数年ないかもしれない。

そこまで考えられるほど意識が浮上したところでふと、思い出す。


あれ?今日は休日だっけ?


休日ではないのなら大変ヤバい。

おそらく、出社した途端セクハラ上司から腰を抱かれて耳元で「今日は遅刻してどうしたの?悪い子だね」とか囁かれるのだ。

好きでもなんでもない、むしろ嫌いで、なんなら歳も三十は離れている人にそんなことをされるとどう思うだろうか。

答えは、


キショッ


それ一択である。

もちろん私は全力で押し返したり、大声でやめてと言ったり、会社に相談したりと、いろいろしているのだが、改善はされない。

なぜか。

答えは簡単、セクハラ上司がとんでもなく優秀で会社内でも結構高い地位に立っており、上からの覚えもよく、私もよく知らないがいいとこのお坊ちゃんらしい。それも相当な。

会社はその優秀すぎる人を失いたくない一心で、私と言う平社員の被っている被害を完全に無視しているのだ。

と言うわけで、私は何もできずにセクハラされていると言うわけだ。

気丈に振る舞ってはいるが、内心はズタボロなことを誰か気づいて欲しい。

切実に。


長々と考えたところで、ガサガサと物音がした。


まさか、あのセクハラ上司が家まで上がり込んできたか?!


急いで飛び起きると、目に入ったのはベビーモービル。

目を横に向けると明らかにベビーベッドの中だとわかる。

しかも、それが置かれている部屋はとんでもなく煌びやかで品があり、広かった。


は?


大混乱だ。

自分の手を見ると、ムッチムチの可愛い手。

まるで赤子のよう……と考えて、ひとつ思った。


私、赤ちゃんになった?


意味不。

まじ意味不。

…………眠くなってきた。

人は本当にわからない人地を超えたものがあると、思考を投げ出して眠りたくなるのかもしれない。


次に目を覚ますと、三人の中世貴族っぽい服の人がこちらを熱心に覗き込んでいた。

しかし三人とも顔がうっすい。

とんでもなく貴族服が似合ってない。

だって考えてみて欲しい。

その辺で歩いてそうなうっすい顔の人が、ゴテゴテした貴族服を着ているのだ。

服に着られている感満載だ。

しかも、その三人はもれなくキラキラした髪色と目の色をしていた。

一人目は中年の男性で、淡い茶髪にオレンジ色の瞳。

二人目は細身の中年女性で、青緑色の髪にターコイズブルーの瞳をしていた。

三人目は色白の少年で、淡い茶髪に薄い青緑色の瞳をしていた。

そんな、異世界しかありえないような色をしたうっすい顔の貴族服を着た三人が、喋り出した。


「エレナリゼット……!パパだよ〜!」


中年男性がデレッと効果音がつきそうなぐらいに顔を綻ばせて私に言う。

私はエレナリゼットという名前らしい。

薄々気づいてはいたが、名前まで違うというのなら断定しなければいけない気がする。


転生した、と。


私は夢を見てるかもしれない。

しかし、そうとは言い切れないぐらいにリアルなのだ。

赤ちゃんから香るミルクのような匂いもするし、ベビーベッドの柵を掴んでも感触がする。

本当に夢とは思えないのだ。


だって私、一回死んだし。


悲しいことに、前世に何ひとつ未練が湧かない。

両親は私が十歳ぐらいの時にどこかへ行ったし、引き取ってくれた祖父母も他界した。

弟たちが悲しむかな、というぐらいだ。

でもあの子達ならなんとでもやっていけるだろう。

それぐらいの確信がある。


「かわいいわねぇ」


少し考え込んでしまったが、中年女性の声で思考から戻ってくる。

というかエレナリゼットって名前違和感あるんだよなぁ。

前世は古風な名前だったし。


「そうですね、お母様!こんなにかわいい子が僕の妹になるなんて、嬉しいです!」


青緑色の瞳を細めて元気な声で少年が言う。

少年が私のことを妹と言ったり、中年女性のことをお母様と呼ぶと言うことは、この三人は家族で、私はこの家族の一員なのだろう。

そう推測するのが自然だ。

しばらく家族三人で私を可愛い可愛いと褒め称えていると、扉をノックしてから燕尾服を見に纏った初老のこれまたうっすい顔の男性が部屋に入ってきた。


「シュゼミット公爵様。業務が残っております。お嬢様に構いたいのはわかりますが、そろそろ戻っていただかないと……」

「わかった。すぐに行こう」


シュゼミット公爵様と呼ばれた父は、私の頭を人なでして部屋を出て行った。


ここまでの会話で察するに、私のフルネームはおそらく『エレナリゼット・シュゼミット』なのだろう。

そして、先ほど父が公爵様と呼ばれていたことから、複雑な事情がない限り私は公爵令嬢だと思う。


待てよ?

聞き覚えがあるぞこの名前。


私は話しかけてくる母と兄を放置し、顔を顰めて考えだす。


あ……。


思い出してしまった。

正直思い出したくなかった。

学生時代、やっていた乙女ゲームにその名前のキャラクターがいたのだ。

どんな役割だったか、遠い昔すぎてよく思い出せない。

まだ私も若いはずなんだけど……。

渋い顔をしている私を母と兄が心配そうに見つめているが、それどころではない私はお構いなしで渋い顔を続ける。

しばらく唸っていると、とんでもない事実に辿り着いてしまった。


『エレナリゼット・シュゼミット』は、悪役令嬢なのだ。


いきなり吃驚したような顔をした娘に母は「大丈夫?どこか痛いかしら?」と声をかける。

私はそんな母をまたもや完全無視して思考の海に沈んでゆく。


『エレナリゼット・シュゼミット』は、美しい容姿と両親からの溺愛、膨大な魔力を持ったが故に、自分の言うことはなんでも叶うと言わんばかりに傲慢で高飛車で我儘に育ってしまった公爵令嬢だ。家と家の繋がりのため、第一王子であったルースノクス・メイザセーバの婚約者となったが、王家も彼女の我儘に辟易としていた。そんな彼女は、王立魔法学園でゲームの主人公に夢中になっていく婚約者への当てつけで、敵国のサフランテ王国に情報を売ってしまう。彼女の扱いに困っていた王家とルースノクスはこれ幸いと彼女を大々的に断罪し、処刑とする。


つまり、破滅するのだ。


最悪だ。

マジで最悪。

だって、これから破滅しないようにいろいろと立ち回らなければいけないんだよ!

気が滅入る……。


本当に私が『エレナリゼット・シュゼミット』なら、ゲームの強制力や何やらで勝手に破滅するかもしれない。

そういう展開はいっぱい見てきた。

……主にラノベで。

ラノベの話を現実に持ち込むのはよくないが、可能性の話としてあるのだ。


あぁ……。

誰か助けて欲しい。

ほんとに私が『エレナリゼット・シュゼミット』なら、非常にめんどくさい。

……警戒しとこ。


私は悟ったようにため息をつく。


あれ?


両親や兄の顔は非常に薄い。しかし『エレナリゼット・シュゼミット』はとても美しい容姿という設定だ。立ち絵もきつそうな美人という印象を受けた。しかし、両親は残念ながら一般的な美しさとは離れている。そんな両親から、設定や立ち絵通りのきつそうな美人は生まれるのだろうか。

もしかしたら、私は『エレナリゼット・シュゼミット』ではないかもしれない。

というかそうであってくれ。

そんな希望的観測を持ち、再び眠りについた。



***



転生したと気づいてから、十五年が経った。

当初、自分があまりに前世に未練がなさすぎて困惑していたが、次第にその気持ちも薄れていった。

慣れというのは怖いものだ。

この十五年は怒涛の展開だった。

転生してしばらく経つと、周囲の反応からこの世界が美醜逆転していることに気づいた。

私の容姿は前世と変わらず平々凡々。

薄ーい顔立ちをしている。


ちょっと期待したんだけどな……。

今世こそ美人になりたかった。


しかし、周りはそれを『美しい』『女神のようだ』と褒め称えるのだ。

流石にそこまでくると勘づいてしまう。

ただ、気づいていたとしてもあまり自分の生活自体には関係がないだろうと思って、私の価値観が皆と違うことを程々に隠した。

そして、それから程なくしてまともに喋れるようになり、身体も思うように動かせるようになったので、さっそく気になることを調べてみた。

それは、ここが本当に乙女ゲームの世界で、私が『エレナリゼット・シュゼミット』なのかどうかだ。

調べたところ、私自身やその周囲などが乙女ゲームの設定と酷似していたので、この世界がそのゲームの世界だということと、自分が『エレナリゼット・シュゼミット』なことが確定した。

グッバイ、私の平穏。


そこからの行動は早く、侍女で護衛で腹心の部下であるメリッサに常についていてもらうようにし、一人にならないようにした。

そして、少し大きくなると行動や出来事を逐一記録してもらうようになった。

これで敵国に情報を売るということについて、アリバイができるだろう。

それから、王族に有益な人間と思ってもらえたら何かあった時に庇ってもらえるだろうという打算から、人前だけ完璧で賢い令嬢を演じた。

そんな私のことを、彼女の両親や兄、メリッサは心配していたが、何も口に出すことはできなかった。

「私は今後、敵国に情報を売ったとして冤罪で処刑される可能性がある。その時はメリッサに記録させている私の行動の全てを証拠に冤罪を晴らして欲しい」と真剣に訴えたので、信じきれないが咎めることもできなかったのだ。

そう、家族や大切な部下に心配されながらも私の計算通り王族や周囲の人間から気に入られ、何か冤罪をかけられても反論できるような証拠を作りまくった私は、しっかりしていて頼れる高位貴族の令嬢として王族に認知され、最悪なことにゲームの展開通り、このメイザセーバ王国の第一王子であるルースノクス殿下の婚約者になってしまった。

正直なところ、私はルースノクス殿下と結婚したいとは微塵も思っていない。

だって、性格も、容姿も、何もかもが好みではないからだ。

容姿は平凡。他の令嬢からは『キャー!かっこいい!』と言われているが、私にとっては良さがわからない。

しかも彼は何かと自分より優秀な私に難癖をつけ、意地悪をしてきた。

そんな彼に良い印象を持てというのは酷な話だと思う。

全くもってルースノクス殿下を好きになれなかった。

しかし、王命で言われてしまえば、たとえ公爵家とはいえ理由なく跳ね返すことは絶対にできないので、仕方なく婚約者になったのだ。

そこで、作戦を立て直した。

当初の作戦は、色々と手を打って敵国に情報を渡したとして捕まらないことを目標にしていたが、ルースノクスと婚約を破棄するために、ゲームの展開や彼の性格を利用して、婚約破棄の言質を取る方向へと作戦を変更した。



***



「エレナリゼット・シュゼミット!まさか敵国サフランテに我が国の重要な情報を渡すとはな!見損なったぞ!よって、俺との婚約を破棄し、お前を処刑とする!そして!ここにいるミア・ポール男爵令嬢との婚約を発表する!」

「ワァァー!!」


王立魔法学園の卒業式の浮き足立つ雰囲気に助長されたようにルースノクス殿下は上機嫌で叫ぶ。

彼の片手は、薄桃色のショートヘアを綺麗に編み込み、ルースノクス殿下の瞳の色である深い青のドレスを見に纏った薄い顔の少女ミアの腰に置いている。

その様子を周りの卒業生たちはうっとりと見つめ、婚約の発表をルースノクス殿下が告げた瞬間、彼らは喜びで沸いた。

ミアはポール男爵家の庶子で、男爵は跡取りがいなかったことから引き取られたと聞く。

というか、私は前世から知っている。

なぜかというと、ミアがあの乙女ゲームのヒロインだからだ。

そんな、貴族しかいない学園では身分の低い男爵令嬢と、第一王子の恋愛に、若い卒業生たちはまるで物語のようだと応援している。

その恋愛を邪魔しているのは紛れもなく婚約者である私だった。

全く邪魔をしているつもりはないし、なんならミアにルースノクス殿下を是非とも渡したいと思っているのだが、婚約者という立場がそうはさせない。

なので、私はミアに恋敵だと認定され目の敵にされていた。

そして、そのせいなのか学園生活では悪い噂を流され、友人もできなかった。

しかし、私は精神年齢で言うともう大人なので、そんなイジメにも、若気の至りだなぁ、ぐらいの感想しかわかない。

だってエグいことをするわけでもなく、悪い噂だけ流されるだけなのだ。

しかも、うちの家がその噂を学園内だけで食い止めているので、生徒以外は噂を全く気にしていない。

生徒たちにとっては戦う相手が悪かったと言えるだろう。


「婚約破棄、承りました。しかし、サフランテ王国に重要な情報を渡したとはなんのことでしょう。全く心当たりがございません」

「とぼけるな!!証拠はあるのだ!」


堂々と言ってのけるルースノクス殿下に呆れてしまう。

事実無根の言われない罪なのに、証拠はあると豪語するルースノクス殿下には呆れるなと言う方が無理があるだろう。

順当に行ったらルースノクス殿下が次の王なんだよね。

国王陛下もこんなやつの本性を見抜けないなんて、だめだね。

心の中で不敬ともとれることを思っていると、端の方から騎士がこちらへ走ってきていた。

そのまま、騎士は私の腕を後ろに回して拘束し、跪かせる。

乱暴なことはしないと思っていたが、当てが外れた。

そんなこともできるんだ、ルースノクス殿下。

なよっとした人だと思ってたのに。

呑気にも感心していると、ミアがルースノクス殿下に甘えたような声をかけた。


「ルースさまぁ。そんなに怒鳴ったらあの人が可哀想ですぅ」

「ミアは優しいのだな。しかし、アイツは大罪人なのだ」


この国の王子であるルースノクス殿下を愛称で呼び、彼の腕に胸を押し当てるミア。本来なら嗜められることだが、この場にいる者の中で一番身分の高いルースノクス殿下が何も言わないのと、他の高位貴族の子息子女たちがこの二人を応援しているので、騎士たちやお給仕している使用人たちも嗜められない。

大丈夫かなこの国の今後。

こんなに頭の中がお花畑の人たちが行く末を担う国は絶対滅びる気がする。


「それで、わたくしには弁明の余地もないと言うことでございますか?」


イチャイチャタイムにわざと水を差すように言った私に、不機嫌になったルースノクスは尊大に応える。


「そうだ。証拠は揃っているからな。騎士よ!コイツを牢屋にぶち込め!!」


その証拠ってなんなんだろう。

というか一国の王子なのに口悪いな。

そんなことを考えながら、私はおとなしく騎士に引きずられて行った。


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