第4話 隠された影
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
数学の教師がチョークを走らせる音を聞きながらも、直哉の意識はどこか遠くにあった。
視線を黒板からそらすと、斜め前の席に座る和也の横顔が目に入る。
頬は少しこけていて、指先でペンを握る仕草がどこかぎこちない。
時おり苦しそうに咳を押し殺すのも気になった。
(やっぱり……体のどこか悪いのか?)
『23』という数字と、その不自然な仕草が重なって見える。
もしかすると――本当に命に関わる病気を抱えているのかもしれない。
放課後、帰り支度をしていると、悠斗が直哉に声をかけた。
「なぁ、今日は無理すんなよ。またゲーセンは今度な」
「ああ……」
曖昧に返事をしながら、直哉の視線は和也を追っていた。
和也は一人、教室の隅で荷物をまとめている。
誰とも言葉を交わさず、静かに立ち去ろうとするその背中。
気づけば直哉の足は勝手に動いていた。
「和也!」
呼び止めると、和也は少し驚いたように振り返る。
「ん? どうした、直哉」
笑っている。でも、その笑みの奥にどこか影があるように見えた。
直哉は思わず口ごもる。
「えっと……最近、元気なさそうだなって」
一瞬だけ、和也の目が揺れた。
だがすぐに笑みを作り、肩をすくめる。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだよ」
その言葉を信じろという方が無理だった。
寿命の数字は無情に『22』へと減っている。
「……そうか」
直哉はそれ以上言えなかった。
でも心の奥で、決意が芽生えていた。
――このまま黙って見ているだけじゃ、絶対に後悔する。