第3話 見えてしまった残り日数
チャイムが鳴り、昼休みのざわめきが教室に広がる。
直哉は机に座ったまま、視線を宙に漂わせていた。
――『23』。
あの数字が頭から離れない。
和也の笑顔の上に、冷酷に浮かぶ数字。
たった二十三日。それは一か月にも満たない時間。
なぜ自分だけが知ってしまったのか。
なぜ和也の頭上に、そんな短い数字が浮かんでいるのか。
(もし、本当に寿命だとしたら……俺に何ができる?)
考えた途端、胸の奥が重くなった。
助けたい。でも、そんなことできるのか?
医者でもない自分に、他人の未来を変えられるはずがない。
それに――。
もし「お前、あと二十三日しか生きられないぞ」なんて言ったらどうなる?
頭がおかしくなったと思われるか、怖がられて避けられるか。
どちらにせよ、誰も信じてくれないだろう。
机の下で、拳を握りしめた。
ただ黙って見ているだけなんて、耐えられるのか。
数字がゼロになるその瞬間を、黙って待つしかないのか。
「……直哉?」
ふいに声をかけられ、顔を上げる。
そこに立っていたのは和也だった。
「大丈夫か? なんか顔色悪いけど」
心配そうに覗き込んでくる。
その頭上に浮かぶ『23』が、直哉の胸を締めつける。
「あ……いや、ちょっと考え事してただけ」
曖昧に笑ってごまかすしかなかった。
けれど、和也はその場を立ち去らず、逆に直哉の机に腰かけた。
「退院したばっかだろ? 無理すんなよ。……俺でよけりゃ話聞くぞ」
その言葉に、直哉の喉が詰まる。
本当は「お前の寿命が見えている」なんて言いたいのに。
けれど口にできるはずもなく、心臓の鼓動だけが速くなる。
――残り二十三日。
それを知っているのは、この教室で自分だけ。
直哉の胸の奥で、逃げ場のない葛藤が始まっていた。