第3話 未来の約束
春の風が街を包み込んでいた。
桜の花びらが舞う中、直哉はゆっくりと歩道橋を渡る。
もう、誰の頭の上にも数字は見えない。
けれど、その代わりに――人々の表情が、くっきりと見えるようになった。
笑う人。泣く人。誰かを想う人。
命の“形”が、確かにそこにあった。
ベンチで待っていた蓮が手を振る。
以前より少し柔らかい笑顔。
彼もまた、変わっていた。
「仕事、順調か?」
直哉が笑う。
「まぁな。病院でカウンセラーなんて、柄じゃないと思ってたけど……
“心の寿命”を見つめるのは悪くない。」
蓮も笑って頷いた。
「お前こそ、教師似合ってるよ。
“数字が見えない”時代に、子どもたちに何を教えてるんだ?」
「生きることの意味、かな。」
二人は空を見上げた。
青空の奥に、美咲と真理亜の笑顔が浮かぶような気がした。
――命は、終わることが“消える”ことじゃない。
誰かの中に残り、次へ繋がること。
それを教えてくれた彼女たちは、
もう数字なんていらない世界で、
確かに“生きている”。
蓮が静かに呟く。
「俺たちはもう、奪わなくていい。
想いを渡せば、それが命になる。」
直哉は笑った。
「そうだな。これからは、そうやって生きよう。」
風が吹き、桜の花びらが二人の肩に舞い落ちる。
それはまるで、美咲の手が“ありがとう”と告げているようだった。
直哉は空を見上げ、そっと目を閉じた。
胸の奥で、確かに感じる鼓動。
――これは、彼女から受け取った“生きる音”。
「なぁ、蓮。」
「ん?」
「これから先、誰かがまた迷ったときはさ……
俺たちが今度は“見える側”じゃなくて、
“支える側”になってやろうぜ。」
蓮は小さく笑った。
「約束だ。」
その瞬間、空に一筋の光が走った。
春の陽光の中で、それはまるで新しい命の始まりのように輝いていた。
――生きるとは、誰かの時間を受け継ぐこと。
数字が消えた世界で、二人の物語は、静かに続いていく。
終。
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
この物語『僕だけに見えるもの』は、
“生きるとは何か”“命はどこに宿るのか”をテーマに描いてきました。
寿命という“数字”が見える世界。
それは一見、残酷で不幸な力のように思えるかもしれません。
けれど、見えないからこそ私たちは迷い、悩み、誰かを想いながら生きていく。
その姿こそが「命の証」なのだと思っています。
直哉や蓮、美咲たちが歩んだ日々の中には、
きっと読んでくださった皆さん自身の“誰かを想う気持ち”も重なる部分があったはずです。
この物語は“終わり”ではなく、“続き”の始まりです。
数字のない世界で、それでも命を輝かせていく人たちがいる――
そう信じて、筆を置きます。
最後まで見届けてくださったあなたに、心からの感謝を。
ありがとうございました。




