第2話 光の継承
夜の街は、雨上がりの匂いに包まれていた。
美咲が息を引き取ってから三日。
直哉はずっと彼女のノートを読み返していた。
――「生きるって、数字じゃ測れないんだね。」
その一行に、何度も涙がこぼれた。
蓮は窓辺に座り、数字をぼんやりと眺めていた。
以前よりも静かだ。
街を行き交う人々の頭上に浮かぶ数字は、どこか柔らかい光を放っている。
「なぁ、蓮。」
直哉が呟く。
「俺たちが見てきた“数字”って、本当に寿命だけなのかな。」
蓮は少し考えてから言った。
「もしかしたら、“命の輝き”なのかもしれない。
長さじゃなくて、濃さ。
生き方次第で、数字の意味も変わるのかもな。」
そのとき、二人の視界に小さな光が舞い降りた。
蛍のようにきらめく粒子が、ゆっくりと彼らの周囲を包む。
そして、美咲の声が微かに聞こえた。
――『ありがとう。生きて。』
蓮が驚いて息を呑む。
「今の……」
「聞こえたよ。美咲の声だ。」
光が二人の胸へ吸い込まれた瞬間、数字が変化する。
【直哉:42日 → ∞】
【蓮:20日 → ∞】
「これは……!」
蓮が目を見開く。
「もう、数字が……見えない。」
「消えたんじゃない。溶けたんだ。」
直哉が小さく微笑む。
「きっと、美咲が“命の境界”を壊してくれたんだ。
これからは、奪い合うんじゃなく、つなぎ合って生きていける。」
蓮は黙って頷いた。
彼の頬を、涙が伝う。
「真理亜、美咲……二人が残したもの、絶対に無駄にしない。」
夜空に、ひとつの流れ星が落ちた。
その光は、まるで彼女たちの笑顔のように柔らかく輝いていた。




