第10章 選択の章 ― 命の行方 ― 第1話 消えゆく影
秋の風が街を抜けていく。
どこか寂しげな空に、枯れ葉が舞った。
直哉たちは、三人で歩道橋の上に立っていた。
蓮の視界には、無数の数字がゆらめく。
誰も気づかないが、街全体が“光の粒”で満たされているように見えた。
「……見えるか?」
蓮が問うと、直哉は頷く。
「うん。まるで世界が息をしてるみたいだ。」
「これが“力”の根源かもしれない。」
蓮の数字はもう安定していた。
【20日】――穏やかに、揺るぎなく。
しかし、美咲の数字はまた減っていた。
【27日 → 18日】
「また減ってる……」
直哉の声に、蓮は唇を噛む。
「制御が崩れ始めてる。おそらく、力が“限界”を迎えてる。」
その瞬間、美咲が膝をついた。
「……大丈夫、平気。ちょっと疲れただけ。」
笑おうとするが、声が震えていた。
蓮はポケットから小さなペンダントを取り出した。
「これ、真理亜の形見だ。あの日、俺が拾った。」
直哉が目を見開く。
「……父さんの葬儀の日、ポケットに入ってた……。」
蓮は続けた。
「たぶん、真理亜が俺たちを繋いだんだ。
彼女の“想い”が、数字の中にまだ生きてる。」
直哉は、妹の笑顔を思い出す。
「真理亜……お前、最初から分かってたんだな。」
彼は美咲の手を握る。
「美咲、もう無理しなくていい。」
「やだ。まだ、伝えてないことがあるの。」
夕暮れの光の中で、美咲が小さく微笑んだ。
「私ね、怖かった。
でも、直哉と蓮に出会って、生きることがこんなにあったかいんだって知った。
だから……ありがとう。」
その言葉とともに、彼女の数字が淡く光り始める。
【18日 → 0】
「――やめろ!!」
直哉が叫ぶ。
しかし、止めることはできなかった。
光が、美咲の身体から溢れた。
まるで世界のすべてを包み込むような、やさしい光。
そして次の瞬間、彼女は静かに倒れ込んだ。
「美咲……! しっかりしろ!」
直哉は彼女を抱きかかえる。
けれど、美咲の表情は穏やかだった。
眠るように、微笑んだまま。
蓮が数字を見た。
――直哉の数字が増えている。
【24日 → 42日】
「彼女……自分の時間を、お前に渡したんだ。」
直哉の涙が頬を伝う。
「なんで……どうして……!」
その叫びは、夕空の中に溶けていった。
風が止み、街は一瞬だけ静まり返る。
まるで世界が、ひとつの命の終わりを見送っているようだった。




