第3話 誰かのための時間
放課後の屋上。
陽が沈む空に、オレンジの光が溶けていた。
風が吹くたび、美咲の髪がふわりと揺れる。
「ねぇ、直哉。最近、ちょっとおかしいの。」
そう言って彼女は微笑んだが、その顔色はどこか薄い。
直哉の視界に浮かぶ数字――【26日 → 25日】
「……また、減ってる。」
呟きが風に消える。
「眠くてね、授業中に気づいたら立てなくなってた。
でも不思議と、怖くはないの。
むしろ、あの時より心が軽いの。」
“あの時”――彼女の命の残りが、わずか数日になっていたあの日。
数字を増やすために、直哉は知らず知らずのうちに、自分の寿命を削っていた。
蓮が静かに屋上へ上がってきた。
「やはり、影響が出始めたか。」
「影響?」
「命を分け与える側が、“感情の揺れ”を抑えきれなくなる。
その結果、受け取った側に不安定な波が伝わるんだ。」
直哉は拳を握る。
「俺のせい、なんだな。」
「違う。」蓮が首を振った。
「これは“心の共有”だ。お前が本気で誰かを救いたいと思ったからこそ、彼女は今も生きてる。」
美咲が小さく笑った。
「ねぇ、直哉。私ね、最初に数字を見た時、怖くて泣いたの。
でも今は違うの。
“誰かの時間”の上で生きてるって思うと……
生きることの重みが、ようやく分かった気がする。」
沈みかけた太陽が、彼女の頬を照らす。
それはまるで、燃えるような残り火。
蓮が静かに空を見上げた。
「もし、この力を完全に制御できれば――
奪うことなく、分け合うことができるかもしれない。」
「制御?」
「数字を“動かす条件”は、まだ全て分かっていない。
でも……“想い”が鍵だ。おそらく、それだけは間違いない。」
直哉はその言葉を胸に刻む。
救うこと、奪うこと、そして分け合うこと――
命の天秤は、彼らの心の中に存在している。
その夜。
直哉の夢の中に、妹・真理亜が現れた。
白い光の中で、彼女は優しく笑っていた。
『直哉。人を救うってね、ただ長く生きさせることじゃないんだよ。
“心の時間”を増やすこと。
あんたなら、できるよ。』
目が覚めた時、直哉は涙で枕を濡らしていた。
そして、美咲の数字がわずかに変わっていた。
【25日 → 27日】
――その光はまだ、消えていない。




