第9章 分岐の章 ― 運命の選択 ― 第1話 奪われる光
「……寿命が、減ってる?」
教室の隅で直哉は思わずつぶやいた。
昨日、美咲の数字が増えたはずだった。
けれど今、彼女の数字は――【18日 → 17日】。
わずか一晩で、減っていた。
「おかしい……昨日、確かに増えたのに」
蓮が記録を見返す。データも確かに“18”だった。
「数字は動く。でも、増えた分だけ、どこかから“奪われてる”。」
彼の言葉に、教室の空気が凍りついた。
その時、直哉のスマホが鳴る。
表示された名前に、心臓が跳ねる。
――母からだった。
『お父さんが倒れたの。病院に来て!』
電話口の声が震えていた。
直哉はすぐに駆け出した。
病院の白い廊下。
ベッドに横たわる父の顔を見た瞬間、直哉の視界に数字が浮かんだ。
【残り:0】
「……そんな、嘘だろ……」
膝が崩れ落ちる。
その瞬間、美咲の数字が再び変化した。
【17日 → 25日】
――誰かの寿命が、誰かを生かす。
蓮が震える声で言った。
「まさか……“救う”って、そういうことなのか……」
直哉の心に、深い罪悪感が広がる。
美咲が息をしている。そのことに安堵する一方で、
父の手がもう動かないことに、胸が締めつけられた。
「俺……父さんの命で、美咲を救ったのか?」
涙が頬を伝う。
数字が見えるという力――それは、神様の祝福ではなく、
誰かの“犠牲”で成り立つ残酷な秩序だった。
蓮が小さく呟いた。
「直哉……俺たちは、間違えてたのかもしれない。」
その夜、直哉はひとり、街の光の中を歩いた。
ビルの窓にも、人の群れにも、無数の数字が浮かぶ。
増えていく数字、消えていく数字。
誰かが生きるたび、誰かが減っていく。
――命は、均等ではない。
それでも、自分はどう生きる?
夜空を見上げながら、直哉は拳を握った。
「俺は、もう逃げない。
“誰かを救う”って言葉の意味、最後まで見届ける。」




