第3話 償いの鼓動
雨の夜。
蓮は一人で、事故現場の交差点に立っていた。
あの日と同じ雨の匂いがした。
――ブレーキの音。ガラスの割れる音。
そして、あの子の叫び。
蓮の視界に、今でも焼き付いている。
自分の不注意で、ひとつの命が消えた。
救えなかった“あの子”――。
彼の手の中にある古びたペンダントには、写真が入っていた。
笑顔の少女。
その名は、神崎真理亜。
――そう、直哉の妹だった。
「ずっと……言えなかった。」
蓮の声が雨に溶ける。
そこへ、直哉と美咲が駆けつけた。
「蓮!」
直哉の声に、蓮はゆっくり振り返る。
「俺、知ってたんだ。
あの事故のニュースで見た名前……ずっと気づいてた。」
直哉の顔に動揺が走る。
「なんで、黙ってたんだよ……!」
「言えなかった。
俺のせいで君の妹は……死んだから。」
雷鳴が空を裂く。
蓮の数字が激しく揺れた。
【残り12日 → 6日 → 3日】
美咲が泣きそうな声で叫ぶ。
「やめて! そんなふうに自分を責めたら、数字が――!」
「いいんだ。
俺は罰を受けるために、この力を持ったのかもしれない。」
直哉は、無言で蓮の胸倉を掴んだ。
「ふざけんなよ……!
妹は、お前を恨んでなんかいない!」
「……っ」
蓮の目が揺れた。
「俺は、見たんだよ。
あの日、あいつが最後に言った言葉を。」
直哉の声が震える。
「“ありがとう”って言ってたんだ。
お前が最後まで手を伸ばしたの、見てたんだよ……!」
その瞬間、蓮の目から涙が溢れた。
「俺……助けたかった。ただ、それだけなのに……!」
「だったら今、助けろよ!」
直哉が叫ぶ。
「過去じゃなくて、今を! 俺たちを!」
蓮の胸の奥で、何かが弾けた。
眩い光。
数字が一気に変化する。
【残り3日 → 10日 → 20日】
美咲の数字も、ゆっくりと増えていく。
【12日 → 18日】
雨が止んだ。
空に薄明かりが差し込む。
直哉、蓮、美咲――三人の頭上の数字が、静かに共鳴して光った。
「……ありがとう。」
蓮の声は震えていたが、確かな強さがあった。
「ようやく、“生きたい”って思えた。」
直哉は微笑む。
「それでいい。俺たち、ここからだ。」
雨上がりの道に、三人の影が長く伸びる。
その空の下、数字の光が交わりながら、
小さく鼓動を打つように――優しく瞬いていた。




