第2話 数字の裏側
午後、蓮の部屋。
机の上には、数字の変化を記録したノートが広がっていた。
数字の揺らぎ。上がったり、下がったり――規則性は、ないようである。
「直哉、見てくれ」
蓮が紙を差し出す。そこにはいくつもの矢印とメモが走っていた。
《関係性が近づくと、数字は安定する傾向》
《孤立・絶望で数字は急減》
《他者との接触が“共鳴”を生む可能性》
「つまり……人の“つながり”が数字を動かしてるってこと?」
直哉がそう呟くと、蓮は頷いた。
「感情の反応だ。理屈では説明できないが、確実に何かがある」
その時、美咲がポツリと呟いた。
「……じゃあ、あの時、私の数字が増えたのも」
「うん。俺たちが君と“本気で向き合った”からだ」
直哉の声には、確信があった。
美咲は小さく笑う。
「ありがとう。でも……私、こわいんだ。
もしまた数字が減ったら、また誰かを悲しませるかもしれない」
沈黙。
蓮が静かに立ち上がる。
「減らないようにすればいい。
俺たちで“減る理由”を探そう。必ずあるはずだ」
その瞬間、直哉の視界の端で数字がわずかに動いた。
【蓮:残り13日 → 12日】
「……蓮、お前の数字、減ってる」
「わかってる。昨日から少しずつ、な」
蓮は平然と答えたが、その声は少しだけ震えていた。
「なあ、蓮……それって、俺たちを助けるために?」
「違う。多分、俺が“背負った”からだ」
蓮は穏やかに笑った。
「誰かを救うたび、俺たちの数字は奪われる。
その代償が、これなんだと思う」
部屋の中の空気が、一瞬にして冷たくなった。
美咲は息を呑み、直哉は拳を握る。
「それでも、止めないよ。俺は。」
直哉の声が静かに響く。
「命を繋げるなら、何だって差し出す」
蓮は目を閉じて、微笑んだ。
「……ほんと、君ってやつは。
そういうところが、数字を増やす理由なんだろうな」
その夜、三人の記録ノートには新しい項目が増えた。
《数字は“想いの連鎖”で動く》
《だが、誰かを救うと、自分が少しずつ削られていく》
――数字の裏側には、“命の交換”が隠されていた。




