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第2話 届かない声

 数字が“増えた”。

 たった1日。それだけなのに、直哉の胸は久しぶりに熱くなった。

 “救えるんだ”――その思いが確かに形を持った。


 しかし翌日、教室の空気はどこか冷たかった。

 美咲は笑っていたけど、その笑顔の奥に疲労が見えた。

 数字は変わらず【残り5日】のまま。

 止まったままの時間が、じわじわと恐怖に変わっていく。


 放課後、屋上で蓮と会う。

 「昨日のデータ、見せて。」

 蓮はタブレットを開き、画面に並ぶ数字とグラフを指差した。

 「上昇値は一時的。数時間後にはまた戻った。」

 「……戻ったって、どういうことだよ。」

 「つまり、“感情の揺れ”による一時的な変動。根本は変わってない。」

 蓮の声は冷静だった。

 けれど、直哉にはその静けさが、どこか無情に聞こえた。


 「それでも、俺は見たんだ。

  あの時、美咲さんが少しでも“生きたい”って思った瞬間に――数字が増えた。」

 「想いなんて曖昧なものに頼るな。」

 「お前、いつからそんなに冷たくなったんだよ!」


 声が響いた。

 風に流されるように、校舎の影が二人を分けた。

 蓮は顔をそむけ、ただ一言だけつぶやいた。


 「……俺は、数字に裏切られたんだ。」


 その言葉に直哉は息を呑んだ。

 蓮の背中が沈む夕日に照らされる。

 どこか痛々しいほどの孤独が滲んでいた。


 その夜、美咲からメッセージが届いた。

 《今日、話せてよかった。ありがとう》

 短い一文。それだけで直哉は救われた気がした。


 でも同時に、数字は――【残り4日】に戻っていた。


 「どうして……。」

 スマホの光が顔を照らす。

 胸の中で“希望”が小さくひび割れていく。


 次の日。

 蓮は姿を見せなかった。

 美咲は笑って登校してきたが、目の下には濃いクマが浮かんでいる。

 昼休み、直哉は思わず声をかけた。


 「佐倉さん、無理してない?」

 「ううん、全然。」

 笑顔。でも、その声は震えていた。


 ――彼女はもう、何かを決めている。


 放課後、蓮からメッセージが届いた。

 《数字の変動は確認。彼女、今夜が山かもしれない》


 心臓が跳ねた。

 「待ってろ……俺が行く!」


 直哉は雨の中を走った。

 アスファルトを打つ雨音と心臓の鼓動が混ざり合う。

 全てが滲むような夜の街で、彼が向かったのは――

 美咲のバイト先、あのパン屋だった。


 店のシャッターは閉まっていた。

 雨に濡れた地面に、小さな光が落ちている。

 スマホの画面。

 そこには、美咲からの未送信メッセージが表示されていた。


 《さようなら。神崎くん、ありがとう。》


 その瞬間、視界の中で数字が激しく点滅した。


 【残り4日 → 3日 → 2日】


 「やめろ……! そんなの嫌だ!」

 雨が頬を叩く。

 叫んでも、声は届かない。

 誰かを救いたいと願うほど、数字は冷たく減っていく。

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