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第4話 動き出す影

 放課後の夕暮れ。

 校舎の裏に長い影が伸びている。

 直哉は体育館裏のベンチに座り、ひとりノートを見つめていた。


 数字の変化を記録したページは、もう十数枚にもなっている。

 兄の笑顔、母の疲労、美咲との会話。

 そのひとつひとつが、寿命の数字と微妙に連動していた。


「……誰かを幸せにすると、誰かの数字が減る」

 その法則をどうすれば断ち切れるのか。

 ペンを握る指に力がこもる。


 「直哉」


 ふいに名前を呼ばれ、顔を上げた。

 そこに立っていたのは悠斗だった。

 いつもより真面目な顔。


「お前、最近ほんとに変だ。

 美咲にも聞いたけど……“数字”って何だ?」


 直哉は息をのんだ。

 「……美咲が話したのか?」

 「いや、違う。ただ、二人が何か抱えてるのは分かる」


 悠斗の目は真っすぐで、嘘がつけない。

 心の奥を見透かされるような気がした。


「……俺さ、人の寿命が見えるんだ」


 沈黙。

 風の音だけが流れた。

 冗談にも聞こえない空気。


 悠斗はしばらく目を閉じ、やがて静かに言った。

 「……マジで言ってんのか?」

 「マジだ」

 「それで……苦しんでたのか」


 直哉はうなずく。

 「兄ちゃんの寿命が減ってて……でも最近、増えた。

  だけど、母さんのが減ってるんだ」


 悠斗は少し俯き、拳を握った。

 「そっか……それ、全部ひとりで抱えてたんだな」


 その声には、怒りでも呆れでもない、ただ“友の痛み”があった。


「俺がもし、数字が見えたら……多分、壊れてた。

 でもお前は、ちゃんと立ってる。それだけですげぇよ」


 その言葉に、直哉の胸が熱くなった。


「……俺、どうすればいいんだろうな」

「まずは、誰かを犠牲にしない方法を探そう。

 な? 二人じゃなくて、三人で考えよう」


 「三人?」

 悠斗はにっと笑った。

 「美咲も入れて、チーム寿命救出大作戦だ」


 ふざけたような口調に、直哉は思わず吹き出した。

 その笑い声を聞いて、悠斗も笑う。


 夕暮れの光が二人の影を重ねる。

 その影の奥、校舎の上階の窓から、ひとりの人物が二人を見下ろしていた。


 その目には、淡い“数字の光”が宿っている。


 「見えるのは……僕だけじゃないのか?」

 直哉はまだ、その存在に気づいていなかった。

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